#73.
アメリカーーー、
西海岸にある人口約65万人のオレゴン州ポートランド。
環境にやさしい地でも知られていて、
世界各国からの観光客はもちろん、留学生も多く、多国籍で賑わう都市でもある。
そんな素敵な都市に星ちゃんは今住んでいる。
・
時差ボケもそれほどなくポートランドに到着した私たちはそのまま彼の住むマンションに向かった。
日本にいるときからマンション問題で頭を抱えていた星ちゃん、
実際の家を見て私は感激で言葉も出なかった。
ーーー単身で渡る前、独り身でずっと住むならそこまで悩むことなかったであろう住居問題。
今回はワタシという付属品が後からついてくるからこそ、星ちゃんを悩ませていたと頭を抱える星ちゃんを見ながら思ってた。
私が少し潔癖ということもあって、
内装はもちろん外観もあまり汚いのは彼の中でタブーで、
そうなると家賃が高くなってくる問題などいろいろ悩んでいたのも知っている。
またアメリカには防犯上なのかアパートというものがあまりなく、ほとんどがマンションになるから家賃的に高くなってしまうことも多いと星ちゃんから教えてもらった。
最終的に彼が決めたのは夫婦二人には十分な日本の間取りで言う2DKの大きさの築2年の高層マンションの5階。
階が上がるほどに家賃が高くなるのはどこの国も同じみたい。
築2年、まだ新しいこのマンションはもちろん外装は言うまでもなく新築のようにきれいだ。
内装も・・・カウンターキッチンから広がるリビング全体が見渡せる眺めは相手が何をしているのかも見えて私的には安心できる要素だった。
「どう?ルナ、好きそうな部屋だろ?」
「うん!写真では見せてくれていたけど、実際の方がすごいね!」
「一応、ここが寝室にしてあるよ。」
これから一緒に暮らす部屋の案内をしてくれーーー、って言っても2部屋しかないから寝室から。
寝室は引っ越してすぐに購入したと言ってたキングサイズの大きなベットがドーーンと置いてあった。
「すごい、大きなベットだね。」
「ーーーこっちは何でも大きい(笑)必要最低限なものしか購入してなくて、家電とかはルナが一緒に来てから揃えれば良いかなって思って何も買ってない。今度、ルナが好きそうな家具を一緒に見に行くか。」
「うん!!」
「ーーー歩いてすぐにWal★Martがあって、その先にもスーパーがあるよ。必要最低限なものは近辺でそろうと思う。あとで散歩がてら行ってみるか。」
このアパートからレストランや星ちゃんのチームまでの距離、
色んな説明を細かくしてくれる。
楽しそう、すごくウキウキしているのが伝わって私は嬉しかった。
一度昼寝を取った私たち。
初めて一緒に寝たキングサイズのベットはやっぱり二人には大きくて、
私は寂しくて星ちゃんにくっついて寝た。
「久しぶりな感覚だな・・・」
星ちゃんは微笑を浮かべながらも照れた様子を見せて、だけど嬉しそうに私を抱きしめながら寝た。
ーーー星ちゃんにプロポーズをされた数ヶ月前から、私は彼に非常に愛されているのを実感することが増えた。
あんなに不安になっていた自分が、
この数ヶ月彼が近くにいなくても落ち着いていられたのは毎日の連絡もだけど、
やっぱりこの関係性だと思っている。
たった紙切れ1枚のことでも、私にとっては非常に重要なことなんだなと思った。
しばらく仮眠を取って、私と星ちゃんは散歩に来た。
手を繋いで知らない地を歩くーーー、
とても新鮮だけど嬉しい、そして何よりも幸せだ。
でも本当にすぐに・・・
Wal★Martもスーパーもあった、これなら私一人でも来れるし迷うこともない。
初めて訪れるWal★Mart、テレビで見たことはあったけど広い、とにかく広い。
お菓子売り場も家具家電も何でもそろうーーーー。
洋服もこだわらなければ揃うし、子供服も流行に乗っていてPaw Patrolの男女ペア服やPeppa Pigの洋服に絵本、おもちゃなど文句のつけようが何もなかった。
隣接しているスーパーもあったけど、Wal★Mart内にも食品売り場があってここだけで済みそう、と私は思った。
「楽しい・・・ここなら何時間でも1日でもいれそう!」
「うん、俺も初めて来たときは4時間いた(笑)でも服はダサいし、妥協せず車ですぐモールあるから遠慮なく言えよ(笑)」
「服はもともと物良くないし、送ったから大丈夫。でも欲しいものがあったりしたら言うね。」
ーーーおそろいのマグが欲しくて食器コーナーを見ている時に私は星ちゃんに伝えた。
免許のない私・・・
アメリカに来るから取ろうかなと思ったけど適性検査でも向いていないと判断が下ったし、
星ちゃんもそれは望んでいなかった。
それよりも運転している自分がどうしても想像できなくて免許を取りにいくことをやめたんだけど。
その分、星ちゃんが運転することになるのは暗黙の了解でもあり、少しの罪悪感もある。
でもね、星ちゃんからの朗報で少し心が救われた気になった。
ポートランドは大きな都市なこともあって決して車社会ではないらしい。
もちろん車があったらなお便利だけど、交通手段が豊富で市バスはもちろん、電車や路面電車も通っているから交通機関に悩むことはないだろうって星ちゃんが言ってた。
まだ到着したばかりだけど、も少し落ち着いたら星ちゃんが練習に行っている間、一人で色々散策をしようと思った。
・
「ここがグランド。朝からグランド10周走らされている・・・。」
星ちゃんのチームがあるオレゴンメディカルカンパニーはマンションから歩いて15分ほどの距離だった。
通州OMCでは会社勤めすることもなく、朝から夕方、夜まで練習漬けの星ちゃん。
星ちゃんだけに限らずチームのみんながそうなんだと教えてくれた。
グランドの中に入り、ちょうど休憩中のメンバーに近寄る星ちゃん。
「ちょ、私も行って大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、今日帰って来てること伝えてあるし、紹介するってのも伝えてあるんだよ(笑)」
どや顔で言われたら何も返す言葉がなくて私は彼の隣を歩いた。
「Hey! Seiya, you are back! 」
「Hey, I’m back. This is my wife Runa」
星ちゃんに向かってめちゃくちゃ笑顔で近寄ってくるめちゃくちゃ大きな人ーーー。
2mはあるんじゃなかろうか・・・。
私は見上げるだけ、でもすごい愛嬌ある素敵な笑顔。
それよりも星ちゃんが普通に会話している、あんなに不安がっていた外国語で。
それに私は感動を覚えて涙が出そうになった。
ーーー英語が苦手でアメリカに行くことの不安と言えば言葉だと私に何度も言ってた星ちゃん。
頑張ったんだね、私が知らないところで努力していたんだね。
また一つ、あなたに惚れ直したよーーー。
「Hi, it’s very nice to meet to you. My name is Runa, Seiya’s wife. 」
私は星ちゃんに恥じないように丁寧に挨拶をした。
人見知りだけど、すごく緊張したけど、星ちゃんの努力を無駄にしたくなかった。
「I’m Alex, the captain of this team. It’s pleasure to meet you…」
営業スマイル並みの笑顔で言われ、こちらも笑顔で返す。
それから数名のチームの方と挨拶を交わさせてもらい、
中に星ちゃんを含めた3人の日本人がいることも知れて安心した。
何かあったら頼れる存在になる、そんな気がしたからーーー。
到着してから何だかんだフル回転で動いていた私たち、
もう私がお風呂を上がった時は星ちゃんは夢の中だった。
ーーーお疲れさまでした。
私は心の中で彼に話しかけて、彼の隣のベットに横になった。
多分5分も立たなかったと思う、
私が深い眠りに入るまで。
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