【 わたしの好きなひと 】#58. 彼の幸せを願う*

わたしの好きなひと。

#58.

ーーー星ちゃんに拒絶されてからも、
私たちの関係は何も変わらない。
ただスキンシップがなくなった、それだけ。

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あの日を境に私からのスキンシップは避けた。
寝る前に抱きつくことも、手を繋ぐことも、もちろんキスすることも全て。
きっと前までの星ちゃんなら気づいてもいたし心配もしていた、
でも今の星ちゃんは見て見ぬ振りをしているんだと思う。
きっとそれでホッとしてるんだと思う。

学校でもぼっち、
自宅に戻ってもうまくいってない彼氏ーーー。
この人生って何だろうって笑えてくる。
同棲しているデメリット、
こういう時にやっぱり逃げ道がないのは辛いなと思う。

私は以前担当してもらった不動産屋に向かった。
とても親身になって私の意見を聞き入れてくれていたし真剣に良さそうな物件を探してくれていたから、またお願いしたいと思った。
もちろん前回と同じ物件とまでは言わないけど、
似たような条件でお願いをした。
「ここなんかどうでしょう?女性専用でセキュリティも万全ですし、見に行ってみますか?」
「はいっ!」
女性専用アパートは私の条件には入れていなかったけどそれはそれで良い。
セキュリティも問題なく大学からも近いなら尚更良いと思う。

「・・・どうですかね?」
「素敵です、すごい素敵だと思います!」
大学からも歩いて行ける距離にあり、
近くにはスーパーにコンビニと薬局、
必要最低限なものに困ることはなさそう。
一つ言えば駅からちょっと歩くことと、
やっぱり良い物件なだけあって家賃が予算より多いことかな。
「どうされますか?抑えておきますか?」
「お願いできますか?ーーー数日後にはお返事しますから。」
ーーー私の一存で全て決めることが出来ないために、
私は数日間の猶予をもらった。
そして似たようなアパートの資料をもらい、
私は不動産屋を後にした。

一人暮らしーーー・・・
そんな勇気が私にあるのだろうか。
正直、すごく不安だけど・・・
やっぱり逃げ道がないこの窮屈な状況は良くないって思った。
そりゃ星ちゃんと一緒にいたい気持ちは強い、
でも最近の態度を見ていると私の独りよがりの気持ちな気がして一緒にいても辛いと思うことが多かった。
私が困れば助けてくれる、
話しかければいつもみたいに笑ってくれる。
でも・・・色んな意味で求められなくなったと思う。
あんなに私をからかって楽しんでいた彼も、
夜這いしてくる彼もーーー・・・
どこに消えてしまったんだろう。
それはきっと私に責任があるんだよね、と思う。

ーーードンっ!ーーー
「す、すいませんっ!」
そんなことをボートしながら歩いていたから、
1人の人にぶつかって私は跳ね返った。
「ごめんね、大丈夫だった?」
ぶつかったのは私だったのに、相手の方が謝罪してきた。
ーーー細くて小さいから私はすぐ跳ね返るのだ。
「ーーールナ?」
その女性の背後から私の投げ出された鞄の荷物を拾いながら問いかける人物。
「あら、知り合いなの?」
「ーーー広瀬の妹ですよ。」
「あら、広瀬くんの。こんな小さな妹さんがいたのね。」
ーーー確かに私は童顔で小さいから年齢よりも低く見られることが多い。
でも今は言って欲しくなかった・・・。
「これって・・・?」
悔しくて下を向いてると、資料を拾ってくれていた星ちゃんが私が今もらってきたばかりの物件の資料を手にして目を見開いていた。
「あ、ありがとうございました!失礼します!」
私は彼からそれを奪うように取り、
その場を去ったーーー。

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帰って私は大忙しだったーーー・・・。
ご飯の支度をしてお風呂をして寝る支度をしなければきっと星ちゃんが帰ってきちゃう。
ーーーなんとなく早く帰って来る気がしたから。

案の定、彼は8時過ぎに帰宅した。
ーーー間に合わなかった。
「早かったね、ご飯食べてきたの?何か作る?」
「ーーーいや、食べて来たから良いわ。」
ここ最近には珍しくない私の横をスッと抜けて寝室にカバンとスーツを置きに行く。
前までは甘い言葉で囁いてくれたり抱きしめてくれたのにね、といつも寂しくなる。

「ーーーるな、ここを出ようとしてるのか?理由は?」
冷蔵庫からビールを取り出し、ソファに座る星ちゃん。
食器を洗ってる私に問いかけた。
今日の昼間のこと、やっぱり気にしてるんだよね。
いつかは言わなきゃならないし隠していても仕方ないーーー。
「前々から一人暮らしに少し憧れていたのもあって、今しかできないことをやりたいなって思って観に行くだけ言ったんだ。まさかあんなところで会うとは思わなかったけど・・・」
私は星ちゃんと目を合わせて伝えた。
ううん、彼の私を見る目が鋭くて怖くて視線を外せなかったの。
「ーーーそっか。って俺が信じるとでも思う?」
「そんなこと言われても・・・」
私は彼から視線を外した。
はぁぁぁ、と大きなため息が響いた。
「ほんっと意味わかんねーわ。この前まで抱いて欲しいと言って来たと思ったら、今度は触れることをあえて避けてるのバレバレだし(笑)」
「それはーーー・・・星ちゃんが・・・」
「俺がなに?」
「べ、別に・・・」
「はぁぁぁ、ほんっと疲れるわ。で、今度は物理的に家を出ていけば良いって思ってんだろ?お見通しなんだよ、そんなの許せるわけないだろ。」
「だったら・・・良い。」
「は?」
「・・・私と一緒にいたら疲れるでしょ。そんなに疲れるなら・・・一緒にいてくれなくて良いよ。もう十分一緒にいたよ、1年以上も契約更新してくれてありがとう。」
「またですか・・・勝手にしろ。」
初めてだったね、星ちゃんが止めなかったの。
それを期待していたわけじゃないけど、
それだけ私は彼を追い詰めていたんだと思った。

次の日、起きたらもう星ちゃんはいなかった。
私と顔を合わせたくなかったんだよね。
きっと今までで1番険悪な状況だ。
ーーーでも逃げないって決めたし、
お互い納得するまで家出しないって前に約束したから逃げない。

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私は前の携帯を取り出し、
星ちゃんと付き合いたての頃から今日までの写真を見返した。
最初はお兄ちゃんの友達だからギクシャクしていたんだよね、それをすごいからかってた。
星ちゃんの明るさが少しずつ心の扉を開けてくれた。
ーーー感謝しかない。

「ーーー昨日はゴメン。」
夜帰宅した星ちゃんは私に頭を下げた。
「頭あげて。謝らないとダメなのは私だからさ。」
「いくら感情的になったからと言って、疲れたと言ってしまったこと反省してる。」
「ーーー私もゴメンね。毎日星ちゃんにせがんで、どうかしてた・・・。疲れていた日もたくさんあったのに受け入れてくれてありがとう。無理させてゴメンね。」
「ーーールナ?」
大丈夫、わたし、泣いてないーーー。
「わたし、星ちゃんに依存しちゃったんだと思う。ゴメンね。」
「ーーーオレは・・・」
「最後に抱きしめても良い?」
「ーーーおぃ・・・」
私は向き合って笑顔で言えたーーー・・・。
そして彼の返事を待つことなく抱きしめた。
そしたら我慢していたものがたくさん溢れてきた。
そうだよね、私はこの腕にたくさん助けられてきた。
この腕に抱きしめられるのが大好きだった。
「ーーーオレはルナと一緒にいたい。その気持ちだけじゃ、ルナは満足出来ない?オレはどうすれば、お前を安心させられる?ーーー頼む、教えてくれ・・・」
耳元で聞こえる静ちゃんの優しい声が居心地良い。
「ありがとう。ーーー元気でね、幸せになってね。」
私は彼からの問いかけにはなにも答えず、
居心地良かった彼の腕から離れたーーー。

だって星ちゃんといるのすごく幸せだったから変わる必要なんてないんもん。
ただ私が全部悪いの。
ーーー欲張りになってしまった、彼との未来を願ってしまった。
私が悪いんだ。

彼の幸せを願い、
身づら身を引くことを決めた私は彼の家を出た。

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