【 わたしの好きなひと 】#53. SNSの怖さ*

わたしの好きなひと。

#53.

あの日からー--・・・
私たち二人の間には微妙な空気が流れている。

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「ーーー週末は川崎で試合だ、その次の週は東京だーーー。そしたらシーズンが終わる。」
そう、アメフトは1月でシーズンが終わる。
そこから年明け早々にライスボウルという社会人と学生が戦う試合があって、日本一が決まる。
「そうなんだ、勝ち進むと良いね。」
「まぁ俺のチームは今年は無理だろうな。・・・友達でも連れて来れば?」
「その日は予定があるの、ゴメンね。」
朝食のおにぎりを頬張りながら会話する変な2人。
「何の予定?聞いてないけど・・・」
言ってないからね、話すタイミングもなかったし。
「星ちゃんのシーズンが終わって落ち着いたら話すね。」
私は笑みを向けて、食器洗いに立った。

今、私は家を出る方向でいろいろと作業を進めている・・・。
星ちゃんと暮らすと決めたときはこの先に幸せしかないと思ってた。
でも実際に暮らすと、色々な障害が生まれてはその度にケンカして、
弱い私はいつも逃げた。
ーーー今回も同じ。
同じようなことで討論するたびに星ちゃんといるのが辛くなる、
でも逃げ場がないから戻ってくるのはこの家になる。
それが嫌になったーーー、というわけではないけど。
やっぱり星ちゃんには星ちゃんの生活があって、
それを邪魔しちゃいけないって思ったんだ。

結局最後の試合まで勝ち進むことが出来なかった星ちゃんのチームは途中敗退した。
だけど彼は1年目、みんな頑張ったと私は思う。
応援には行かなかったけどテレビでずっと見てたから、そう思えるの。

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シーズンが終わって迎えた初めての週末、私は星ちゃんが起きる前に出かけた。
「これにサインをして欲しいんだけど、って私お兄ちゃんにはサインばかり頼んでるね(笑)」
今度はアパートを借りるに当たっての連帯保証人のサインだ。
私の今のバイト代では審査に通らないかもしれないけど、一応目星のアパートは見つけた。
「ーーー星也と何かあったのか?・・・例の件で?」
例の件?何の話?
「例の件って何・・・?」
口を黙らすお兄ちゃん、「何?!」と強く言う私にお兄ちゃんは丁寧に説明した。

「星ちゃん!どういうことなの!?」
私はサインをもらいに行ったはずなのにそんなサインを忘れて、
すぐに自宅に戻った。
「ルナ!ーーーどこ行って・・・」
帰宅すると否や星ちゃんは私を強く抱きしめた。
ーーー泣いてる、背中から伝わる彼が涙を我慢している姿が。
明らかにおかしい、そう思った。

「ーーーお兄ちゃんに軽く聞いたよ、どういうことか説明してもらえる?」
私は星ちゃんが落ち着くのを待って、彼に問いかけた。
「自業自得・・・」
自分に言い聞かせているように思えたけど、星ちゃんは少しずつ私に話してくれた。
会社の書き込みが今炎上していること、そのほとんどが雑誌に出たことで会社・顔と名前がバレてしまった星ちゃんに対するものだということ。
ーーーまぁ、過去に女遊びをしていた星ちゃんに対する女性たちからの反撃とでも言えば良いのかな。
「インタビューを受けた日・・・。インタビュアが遊んだ相手の一人で、夜付き合えば何もしないと言われて夕飯だけで断った。彼女はその先も望んだ・・・その腹いせだろう。」
「でも結局SNSに書かれて、そこから拡散されたってこと?」
「ーーーそういうこと。チーム内でも今その件で迷惑かけているからずっとスタメンから外されてて、来なくて正解だったよ。」
「そのインタビュアーの人だけなの?」
「ーーーいや、そこから広がってしまって、数名の女たちが名をあげて俺を今つぶそうとしてる。会社にいられなくなるかもしれない、ってところに立たされている。で、この前はやけ酒して気が付いたら朝だった・・・」
私は大きなため息をついた。
「ーーーなんでそんな大事なこと話してくれなかったの?そんなに頼りない?」
「話せるわけないだろ、自分の失態。ルナに知られたら絶対に振られるって思ってたしな。」
「・・・はぁぁぁ。しっかりしてよ!!!いつもの星ちゃんはどこにいるの?どんな時も笑ってて明るくて、私を楽しくさせている星ちゃんは今寝ているの?」
「これでも俺は悩んで・・・」
「良いじゃん、クビになったって!そしたら一からやり直せば良くない?星ちゃんはアメフトが好きで、それだけは続けて来たし努力が今実力として出てる時なの!チームの人も監督も絶対に分かっているよ、そんなSNSなんて一時のものなんだよ。」
初めて見る星ちゃんの弱った姿・・・
彼は私が思っていた以上に繊細だったのかもしれないな、って思った。
「ーーー私も自分のことでいっぱいで気が付けなかったのは悪いし。」
「・・・離れんなよ。」
「どの口が言うの?(笑)」
私は弱っている星ちゃんを前にすると強くなるようだ・・・。
「ーーー頼む。俺のそばから離れないでくれ・・・」
星ちゃんにこんな感情があったのも初めて知った気がした。
「大丈夫だよ、私は過去もすべて受け入れて付き合うって決めたから。何を言われてもドンとこいだね、増してSNSなんて信用できないし。」
私は星ちゃんを抱きしめてあげたーーー。

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どれだけ不安だったんだろう、
たぶん自分の事じゃない。
会社にチームに迷惑をかけていること、それが今一番彼を苦しめていたんだと思う。

星ちゃんが安心して眠りに入った・・・。
初めて私の腕の中で眠った、気が付けなかったけどずっと寝れない日々があったのかなと思うと申し訳なかった。

私はカバンから不動産屋の資料を取り出して破ったーーー。
不動産屋さんにも電話して今回の件を断った。
今は・・・星ちゃんの側にいないと。
誰かが彼を支えないとどん底まで落ちてしまう、そんな気がした。
そしてそんな存在が私であって欲しい、
私でありたいと強く思ったの。

私も星ちゃんの隣に横になるーーー。
いつもと同じ光景なのに気持ちが違う。
ここ数ヶ月は気まずさと距離があって遠慮がちだった、
でも今は星ちゃんにちゃんと触れることが出来る、
それが本当に嬉しかった。

「ーーールナの話って何だったんだ?」
「ううん。もう時効ってことで・・・」
私が彼に抱き着いたことで起こしてしまって少しの会話、
星ちゃんは微笑を浮かべてまた眠りについた。

彼はその2日後、例年の帰省で実家に戻った。
ーーー私もお父さんとお母さんの住む町に顔を出した。

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