【 わたしの好きなひと 】#02. 2人の男子*

わたしの好きなひと。

#02.

ねぇ、見た?
今日からくる教育実習の人がイケメンなの!
今、私に微笑んだ?!
遊びでも良いから一夜を過ごして欲しい!



やっぱりーーー。
想像していた通りに星ちゃんたち教育実習生の話題で朝から校内は持ちきりだった。
私たち高校三年生、
受験生である私たちのクラスを受け持つことはないと担任の先生が昨日言っていた。
少しだけ・・・
後輩達が羨ましいな、と思った。
ーーーまっ、私はそれよりも進路希望を決めなきゃならないんだけど。

「広瀬、進路出してないのお前だけだぞ?」
「ーーー分かってます。もう少し待ってください。」
「ピアノの道には進まないのか?前に先生が打診した音大なら奨学金もあるし・・・」
「それも含めてもう少し考えさせてください。」
「ーーー来週までには必ず持って来い。それ以上は引き伸ばさない!」
「ーーー失礼します。」
最近担任によく進路のことで呼ばれるーーー。
確かに決めきれない自分も悪いけど後悔ない道を歩きたいと思うから簡単に決められない。
「また進路のこと?(笑)」
「ビンゴ!そんな簡単に決められないのに・・・」
「でも結構適当に選んでる人も多いと思うけど、広瀬は深刻に考えすぎなんじゃねえの?適当に適当に!笑」
「そりゃサッカー推薦が決まってる怜くんには分からんわ!笑」
クラスに戻ると日頃から仲良くしている友達にからかわれた。
そんなものなのかなぁ?

ガラッ!
そんな会話している時にHRに先生が入ってきた。
えっ!?実習生って三年に来ないんじゃないの?!
うわぁ、ほんとイケメンだ!
女の人も綺麗ー!
わたし、黒髪の人の方が好きかも!
茶髪の人も好き!地毛かなぁ。

「ほら、座れ!今日から教育実習生が来ると話したが紹介しておく。3年にはほとんど来ないが、顔合わせることはあると思う。一人ずつお願い・・・」
先生がそう言いかけた時・・・
「おっ、お兄ちゃん!?」
私は机に両手をバンっと置いて前屈みに立ち上がって驚愕して驚きを隠せずに叫んだ。
それに怪訝な顔をしていたのがお兄ちゃんで、
面白そうに笑っていたのが星ちゃんだったーーー。
星ちゃんは知ってたんだ、お兄ちゃんも来ること。
お兄ちゃん?広瀬さんのお兄ちゃんってこと?
あのイケメンが?確かに似てる!
えええええーーー!
クラス中から視線と悲鳴が私に向けられる中、
遮ったのはお兄ちゃんだった。
「今、騒がしい妹により紹介にあがりました広瀬 太陽です。あまり交流はないと思いますが、大学のことでも良いですし気軽に聞いてください。」
順番に星ちゃん、そしてもう一人の女性のサツキ先生の紹介もされた。
はい、はい!彼女いますかー?
どこに住んでるんですかー?
自己紹介が終わると先生は女子達の質問を無理やり遮り、HRは終了となった。

「ーーーただいま。」
普段はお父さんも仕事で家に戻っても真っ暗な家だけど今日は珍しく明かりがついていた。
「おかえり。会うのは久しぶりだな。」
「ーーーお兄ちゃん!もう!びっくりしたんだから!あの後、私は質問攻めだし・・・」
「ーーー星也がるなの驚く顔が見たいから黙っておけって言ったんだよ(笑)面白そうだから俺も乗ったわけよ(笑)」
普段は寡黙なお兄ちゃんでクールだけど、
家族の前だとよく話すとても優しい人。
「2人してひどいよー!」
「まぁお詫びにるなの好きなオムライス作ったから手を洗っておいでよ。」
誤魔化された感はあるけど、
私は手を洗い部屋着に着替えてご飯を食べ始めた。

「最近、帰ってくるのはこの時間?」
「いや?今日は教室で友達と少し勉強してたんだ!いつもはもっと早いんだよ(笑)でも月水は勉強して帰ってるの。」
「ーーー担任の先生が進路のこと気にしてたよ。ピアノの道に進んでも大丈夫って父さんがーーー。」
「そういう問題じゃないんだ、ピアノしたかったら言うからもう少し時間ちょうだい。」
ピアノピアノって言うけど音大に進むのはそう簡単じゃない。
才能溢れる人も多いし個性豊かな人が多いとも聞く。
何よりも私が行きたいと思わないのだ。
「もう9月になるんだぞ?大学含めた進学先が決まってる子は決まってるし、少し焦った方が・・・」
「ーーー分かってる。」
せっかくお兄ちゃんが帰ってきたのに、
私は進路の話をされるのが嫌で、
イライラしちゃってご飯を食べて部屋に閉じこもった。

ーーー考えてみたら私ってなんの得意なものがないんだよなぁって思う。
お兄ちゃんや星ちゃんはスポーツ推薦、
怜くんもスポーツ推薦、
晴菜ちゃんは奨学金を使っての推薦。
本当に私だけが決まってないーーー。
私だって焦ってるよ、
でもやりたいことが見つからないーーー。

次の日、起きたらいつもの光景だった。
ーーー食卓に朝ごはんが準備されてる光景。
お父さんもお兄ちゃんも早く出たんだな、と。
でもテーブルの上にいろんな大学の資料が乗ってた。
多分犯人はお兄ちゃん。
色々考えてくれてることは感謝してるし申し訳ないと思うーーー、
だからこそ自分の進路を早く決めようと思った。

学校で見かける星ちゃんもお兄ちゃんも、
まだ始まって間もないのに色んな生徒に囲まれている。
1年生2年生が中心だけど、
中には3年生の女子の姿も見える。
困り果てた顔をするお兄ちゃんとは逆に笑顔でかわす星ちゃんはさすが女に慣れていると思う。
昼休みには中庭でボール遊びをしてる姿が見えたし、
放課後の今も楽しそうにグランドで男子や女子に混ざってサッカーをしてる星ちゃんが見える。
ーーー男女問わずあんなに人気なのは彼の人柄の良さがあるんだろうなぁと思うと心底羨ましかった。

「あれ?広瀬?何してんの?」
ガラッと言う音と一緒に怜くんが部活から戻ってきた。
「あっ、うん。楽しそうにはしゃいでるグランドを見てるとこっちも楽しくなる(笑)部活はもう終わり?」
「ーーー俺、引退したからね(笑)」
私の座席の前に向かい合わせに座る怜くんはいつも楽しそうに笑う人だ。
ーーーなんとなく雰囲気は星ちゃんに似てる。
「そっか!いつもユニフォーム着てるから引退していること忘れちゃう(笑)」
「ーーーまだ帰んねぇの?」
「うん、もう少し見ていたいかなーーー。」
「ーーー広瀬、なんかあった?」
「えっ?」
「いや、なんとなく今日元気なかった気がしたからさ。」
怜くんが私を見て問いかけたーーー。
ちょうど風が吹いてふんわりサラサラの彼の髪の毛が揺れた。
ーーー大きな瞳に吸い込まれそうになる。
彼の左手が私の頬に触れたその時ーーー。

「あれーー?まだ君たち残ってるのー?」
突然やってきた声に怜くんはハッとして手を隠した。
「あっ、すいません。今帰ります。広瀬、また明日!」
「あっ、うんーーー。また明日ね。」

「今、ドキッとしたか?」
「えっ・・・」
「アイツにココを触られてドキッとした?」
いつの間にかさっきまで座ってた怜くんの座席に座る星ちゃんは私の頬をチョンと触れた。
「そ、そんなことないよっ!」
「嘘が下手な子ですね、君は(笑)」
「からかうなら帰る!こんなところでサボってないで早く帰りなね!フンっ!」
心を見透かされたようで納得できなかった私は自席を立ち上がった。
「るな」
でも聖ちゃんが珍しく私の腕を掴んで名前を呼んだ。
「ーーーな、何してんの!?ここ学校!」
ありえない!ありえない!
ーーー星ちゃんが唇を重ねて来た。
ーーーここ教室なのに。
ーーー実習中は生徒と先生だから話しかけるなと言ったのは星ちゃんなのに。
「悪いーーー、魔が刺した(笑)」
星ちゃんを突き放した私は、
そのまま振り向きもせずに教室を去った。

ーーードキドキが止まらない。
怜くんに頬を触られたドキドキは男の子への免疫がないから。
それとは違うーーー、
星ちゃんからのキスは心臓が出て来そうなくらいにドキドキしてる。
よく先生と生徒の恋は燃え上がると聞くけど。
なんとなく分かった気がするーーー。
いけないことだと分かってるからこそ燃えるんだな。
ーーー早く落ち着け、
そう願いながら私は帰路についた。

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