#30.
そして迎えた星ちゃんの卒業式、
この日は私たちが付き合って一年の記念日でもあった。
・
数日前にヘアカットに行って、
元々イケメンだけどさらにもっとカッコ良くなっちゃって私は変な不安に襲われた。
「ーーー卒業式終わったらそのまま謝恩会に向かっちゃうから帰るのは日付変わるかも?」
「楽しんでね!」
不安を見せないように私は笑顔で見送った。
実際に顔しれた仲間との卒業式だもん、
何かあるわけがないと思ってる。
もし何かあるとしたら入社してからだとーーー。
だって星ちゃんは話さなくても立ってるだけでもモテるから。
気にしないようにして彼を見送って、
私もバイトの支度に入ったーーー。
今日は絶対に遅くなるのはわかっていたから、
あえて私もこの日にバイトを選んだ。
そしたら日中、連絡したくてもできない状況になるし考えなくて済むから。
「佐久間さんって毎日バイトに入ってるんですか?」
「ーーー違うけど?何で?」
私は少しずつバイトにも慣れ、
伝票打ちは完璧になり、
今はレジを覚えるのに苦戦してる。
普通の現金はなんとかできる、
そこに今主流のカードや電子マネー、
それにギフト券などクーポンなどが入ったらお手上げ状態で・・・
だからあえて覚えるために佐久間さんは今私をレジに立たせることが多い。
「いや、私が入る日にいつもいてくださるから心強いなぁと思いまして笑」
「ーーー店長が君が入る日に強制的に入れるんで。」
少し嫌そうな顔をして佐久間さんは答えた。
でもやけに納得した自分がいた。
私の指導係だから店長が勝手に同じ日にシフトを入れるんだ、とーーー。
「ーーーなんかすいません。わたし、入学までは暇なんで佐久間さんの都合に合わせられますから言ってくださいね!」
「ーーーどうも。」
無愛想だけど話しかければ結構話すし、
面倒見も良くて優しい人なんだよなぁ。
「佐久間さんって今いくつなんですか?」
「ーーー次、大学3年。ついでに広瀬さんと同じ大学だから(笑)」
えっ!!そーなの?!
驚きを顔に表した私を見て佐久間さんはクスッと笑った。
今日のバイトも無事に終わったーーー。
10:00-16:00という6時間勤務、
こうしてお金をみんな稼いでいくんだなと最近は痛感している。
「佐久間と駅前に出来たアイス食べにいくけど、広瀬さんも行く?」
帰り際の更衣室で話しかけてくれた前田さん、
確か私の一つ上で女子大に通ってるんだよね。
明るくてキリッとした瞳で、美形の先輩。
「私も良いんですか?」
「もちろん、行こうよ!」
携帯を確認しても星ちゃんからの連絡もなかったので、
私は一つ返事で行くことに決めた。
・
「えっ、塁って名前なんですか?」
「ーーー文句あんのか?」
私が思ってたアイスクリーム屋さんはキッチンカーみたいなもので座席がないお店。
でも来たお店は全然違くてきちんと4人テーブルがあって店員さんが聞きに来てくれるカフェ風のアイス専門店だった。
私は大好きなチョコミント、他の方々は期間限定のアイスだったりまちまちだった。
「しかもお母さんが野球が好きだから塁って名前にしたんだって!」
「うるせーな、人の事情を勝手に話すなよ。」
「えーー、素敵な由来ですね!」
「ーーーお前の名前の由来はなんだ?」
「私は・・・お父さんが大地って名前なんです。年のわりに若々しい名前で(笑)それでお兄ちゃんが太陽、私は月と書いてルナなんです。」
「なーるほど、地球に関する名前なんだ!」
「まりえさん、さすが!」
3人でなんだかんだ和気藹々と楽しい時間を過ごす。
「てか、チョコミントうまそうだよな笑 一口くれよ。」
私が返事する前に佐久間さんは私の手からアイスを奪った。
えーーー、間接キスなんですけど!?
なんてきっと気にするのは私だけだから私も逆に佐久間さんのをもらった。
「佐久間さんはサークルとか入ってるんですか?」
「ーーー入ってないよ。」
「ルナちゃん、塁を甘く見ちゃいかんよ(笑)この人はね、社会人のバスケチームに入ってるのよ。」
「えっ?大学生なのに?」
「ーーー個人で楽しんでるだけ。」
そんなことができるんだぁ・・・ーーー。
確かに佐久間さんは星ちゃんと同じくらい、もしくはそれ以上の身長がある。
バスケしている、と言われててもおかしくないと思った。
「サークルなんか候補決めてるの?」
「いえいえ!運動苦手だし、入らないで終わりそうです(笑)」
「バイト入れまくろうよ、私と!」
ーーーお金稼ぎまくりたい、とも思った(笑)
そしたら星ちゃんと暮らしにおいても折半できる気がして。
お父さんばかりに頼ったら悪いと思うから、
少し自分でもなんとかしてみたいなと思った。
「ーーーすいません、私そろそろ失礼しますね。」
時計を見たら6時過ぎで、
家のこともしたいし星ちゃんが帰宅する前にやりたいこともあるから私は先に失礼することにした。
「気をつけてね!またバイトでね!」
・
帰宅した私は最低限の片付けをして、
お風呂に入ってソファに横になった。
ーーーやっぱり星ちゃんからの連絡ない。
楽しいのは分かるけど、
一回でも良いから連絡は欲しかったな、と少しだけ残念に思った。
23時、24時、25時とハッとして目覚めたけど・・
彼が帰宅する気配も何もなく、
次に目覚めた7時過ぎには既に隣で寝ていた。
何時ごろ帰ってきたんだろう、
全然知らないーーー。
星ちゃんの隣で彼の眠る姿を眺めた。
なぜか胸が苦しくなるのを抑えて。
「ーーー・・・なんで泣いてるの?」
ハッとしたーーー。
星ちゃんが目を覚ましてることもボーとしてて気付かなかったけど、
自分が涙を流してることにも気が付かなかった。
ーーー分かんない、でも星ちゃんを見ると切なくなる。
何なんだろう・・・。
「顔洗って・・・」
星ちゃんが拭ってくれる涙を振り払いベットから出る私。
「待って。」
それを制止して私の腕を掴んだ星ちゃんは、
私が身動き取れないように私の上に覆いかぶさる体制を取った。
そして顔を上げ見つめあったーーー。
「ーーー話してみて。」
そんな優しく言わないでよ・・・ーーー。
「寂しかったの。昨日・・・連絡なくて会えると分かってても星ちゃんはモテるから不安だったの、それだけ!」
不貞腐れながら私は彼に伝えた。
嘘は言ってない、
涙の本当の理由はわからないけど、
寂しかったのは本当だから。
「ーーー寂しさも考えられないくらい、心を満たしてやるよ」
嬉しそうに骨格を上げた星ちゃんは、
私にそのままキスを落とした。
少しずつ少しずつ濃厚になって、
手の動きも入ったーーー。
ーーー私は朝から星ちゃんに抱かれた。
でもね、彼の言う通り・・・
この上なく幸せを感じた。
何もいらない、
そう思えるほど彼に抱かれている時は幸せだと思えた。
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