7.
とてもジメジメしたその日ーーー・・・
大雨で学校に行くのも億劫だったその日。
周りのみんなも雨やだーと言いながらも、
女子は髪の毛の羽根を気にしながら教室でただ友達と過ごしていた。
「優!!!塁が・・・上級生を殴ってる!」
血相を抱えた隣のクラスの冴島くんが優に叫んで私たちのクラスに駆け込んで来たのは昼休みのこと。
私も卵焼きを食べている手を止め、席から立ち上がる。
「は?何やってんだよ、あいつ・・・」
何かを知ってるのか優はすぐに立ち上がり冴島くんと向かうから私もその後を追った。
「塁!」
バスケ部の部室で喧嘩してて、ちょうど先輩と思われる人を殴りかかりそうなところに優が止めに入った。
「離せよ!」
塁は優の中で暴れる。
ーーーバスケ部間でのトラブルなのか、智也先輩も広瀬先輩も塁を止めに入ってる。
「離せ!コイツだけは・・・許せねぇ・・・」
広瀬先輩に抱えられ動けないけど言葉で塁は相手を叩く。
塁は基本的にとても穏やかでよく笑う子だ。
優と少し似ていて、だからこそ年齢も一つしか変わらないから二人よく一緒にいるんだとは思う。
ーーーあまり感情的に怒らない塁が、
今目の前ですごい血相を抱えて怒ってるのが私には不思議でたまらない。
多分ーーー、相当な理由があるんだと思う。
「あの・・・何が原因でこんなことに?」
「えっ、雪乃ちゃん?君がなんでここに?」
智也先輩が私に問う。
「バスケ部の問題だから教室に戻れ。」
「塁は・・・理由もなく人を殴ったりしない!それくらい優も知ってるでしょ!」
「知ってるよ!だからお前に関係ない問題なんだって!」
優が私を否定する、つまり私には関係なくないってこと。
「・・・本当に関係ないことなの、塁。」
私は塁の手を広瀬先輩から取り、塁の手を握った。
「先日、バスケ部の部室で盗難事件が起きた。それをやったのが塁だと疑いが持たれていて今日呼んだ。」
淡々と話すのは広瀬先輩。
先輩は私たちが姉弟ということを知ってるんだと思う。
「えっ、塁が盗難ですか?いつですか?!」
「土曜の練習の後だーーー。3時頃だと思ってる。」
土曜・・・
「俺じゃねえんだって!俺はこの人にはめられた!だから絶対許さない!」
「その日・・・友達が来た日?」
「ーーーそうだよ!アイツらと家で勉強した日だよ!」
「・・・その日なら塁は家にいましたよ?わたし、この子の友達が家に来てみんなで夜ご飯食べましたもん。」
「あっ、オムライスの日か!」
私は優を見て頷くーーー・・・。
「ーーー塁の友達を家に呼んだのか?」
「そうですね・・・ーーー」
広瀬先輩は少し不服そうに見えた。
「だから塁じゃない。この子は取られることはあっても人のものは盗んだりしないと思います。」
「ーーーでもよ?バスケ部のやつが見たっていうんだよ。あんたの弟が盗んで隠れて出ていくのを。」
「ですから!時間的に私も塁も家にいました!」
「許してやっても良いんだぞ?」
「許すも何もやってないことに対して謝ることは我が家では教えていません。」
「弟も弟なら姉も姉だな・・・」
「ーーー先輩方も優も、塁がやったと思っているってことですか?」
「そうは思ってない。ただ事実確認のために本人たちを呼んだ。」
「ーーーでも少なからずそう思ってるってことですよね。いくら?いくら盗まれたんですか?」
「姉ちゃん!!!」
「あんたはやってない。私はそれを信じる。でも誰も信じてくれないなら、その金額を払う。それで文句ないですか?!」
「姉ちゃん!」
「ーーー盗まれたのは三万円。」
「・・・わかりました。明日もってきます。」
「姉ちゃん!俺やってないのに・・・姉ちゃんのバイト代なのに・・・」
「払えないならあんたの体で払ってもらっても良いってさっきから伝えてるんだよ。」
「だから姉ちゃんはそんなことしねーって!」
「からだ?どういう意味?」
「塁の姉ちゃん可愛いって評判だったから興味あったんだよ。確かにあんたは可愛いわ。塁を許して欲しいなら、俺とデートしろ。」
「後藤!それはやりすぎだろ!」
広瀬先輩が口を挟む。
「一度だけだよ、そしたら許してやるよ。」
「やってもないことに対してなんで雪乃が犠牲にならないといけないんですか?」
優が後藤という先輩に問いかける。
「別に捨てるもんでもねえし一度くらいデートしても良くねえか?なぁ、雪乃ちゃん?」
「ーーー・・・」
答えに困る私。
だって優の言う通りでやってもないことに対してなぜ私が代償を払わなければならないのか納得はいかない。
それでも平和に落ち着くのなら払った方が穏便に収まるのかも知れないとも思った。
「てかさ、本当に盗まれたのか?そもそも騒ぎ出したのって後藤だろ?盗まれた本人がやった本人を見たっておかしくないか?その場で問い詰めるだろ?そして証拠もないんだろ?おかしくないか?雪乃ちゃんと近づきたくて自分ででっち上げたんじゃねえの?」
智也先輩が不思議そうに問いかける。
「嘘じゃねーよ!本当だって!どうする?なぁ、デートするか?」
後藤先輩が私に近寄る、私は後退りになる。
「後藤、いい加減に・・・」
広瀬先輩が割り込んで助け舟を出してくれようとした時、
マネージャーが「防犯カメラ映像持ってきました!」と苦しそうな息をして入ってきた。
走ってきたのであろう、呼吸を整えるのにかなり時間を要してた。
防犯カメラ?なんの話?
「ーーーこんなこともあろうことかと監督やコーチ、キャプテンと副キャプテン以外知らない部室には何個かの防犯カメラが置いてある。それをマネージャーに頼んだ。ここにその様子が何もなければ塁は白って事だ。」
マネージャーがパソコンの再生ボタンを押す、みんなで真剣に見る。
だけどそこには塁どころか誰も映ってない、
とても平和な映像だった。
「ーーー塁が真っ白ってことが証明されましたね。」
広瀬先輩が言うーーー。
「クソっ!!」
「なんで塁にこんな酷いことを?」
「・・・こいつは中学生のくせによく高等部に来るし生意気で邪魔だったんだよ!あんたも全然俺に気が付かねーし、ちょうど良いと思ったんだよ!クソっ!!!」
案外素直な先輩で、私の問いかけに素直に答えてくれた。
その先輩が去ってから、私は塁にビンタした。
「雪乃!」
「雪乃ちゃん!」
「秦野さん!」
優、智也先輩、広瀬先輩の声が聞こえる。
「なんで私がビンタしたか分かる!?私、何度も言ってたよね?高等部には違う世界があるからあまり行かないでって。大丈夫って思ってても大丈夫じゃない世界だって存在するの!そんなにバスケがしたいなら友達とすれば良い、先輩たちの邪魔をしないで。」
「ーーーごめん。姉ちゃん、ごめん・・」
「分かれば良いの。」
私はそう言って塁を抱きしめたーーー、
悔しかったんだろう、
弟は私の腕の中で泣き崩れた。
「ーーーバスケ部のことに巻き込む形をとって悪かった。」
先輩たちは私にそう言った。
「いえ、弟がご迷惑をおかけしてすいませんでした。」
でも謝罪すべきは私の方で、
深々と頭を下げたーーー・・・。
塁にも帰宅してからも強く言った。
お願いだから高等部にはもう行かないで、と。
中学卒業するまで自分のエリアでやって欲しいとお願いした。
多分、弟はわかってくれたと思う。


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