【 君がいる場所 】 #09.

君がいる場所

9.

次の日も私は普通に過ごしたーー・・・。
だって頼るものが私にはないし、
それ以外の選択がなかったから。

だけど唯一違うとすれば、
あまり毎日を楽しめなくなってしまったこと。
友達と居ても作る自分がいて苦しくて、
休み時間のたびに屋上に来ることが増えた。
ーーーあんなにたくさん話していた優もなんとなく私の雰囲気に気がつき、
私に話しかけるのを遠慮しているのも見えた。
自分で巻いた種なのかもしれないけど、
私は悔しくて屋上で1人涙をこぼすことが増えた。

「好きですーーー・・・!!!」
ある日の昼休み、いつものように屋上の隅っこで携帯と睨めっこしてた私は大きな声にびっくりしてその方向を見た。
勇気を振り絞って告白する女の子と男性。
よく見ると男性は・・・広瀬先輩だった。
やっぱりモテるんだなぁと実感するーーー。
「ごめん、気持ちは嬉しいけど好きな子がいるんだ。」
「ーーーですよねっ!先輩の好きな人は噂で聞いてました!でも伝えたかったので、聞いてくれてありがとうございました!」
上履きを見ると赤だったから2年生の先輩だ。
堂々と告白していて凄いなと思ったし、
振られても笑顔できちんとお礼まで伝えられているこの女性をカッコ良いとさえも思った。
それと同時に私の胸にズキンと痛みを感じた。
この痛みがなんなのか言わなくてもわかる、
嫉妬というドス黒い感情だ。
「えっ・・・秦野・・・さん?」
先輩も大きな深呼吸をして教室に戻ろうとしたんだろう、
戸惑う私と視線が絡み驚きを隠せない様子だった。
「聞くつもりはなかったんですけど・・!!すいませんっ!!!」
深々と頭を下げた・・・ーーー。
「いや、こちらこそ・・・練習の途中で呼ばれてこんな格好だし・・・」
昼休みも練習してるの?と不思議だったけど、
最後の試合が近いんだもんねと納得した。
「あれから塁は来てないですか?」
「ーーー来てないよ。あの日は巻き込んで悪かったな。」
「迷惑かけたのはこっちですから、すいませんでした。」
私はまだ頭を下げたーーー。
頭を下げてばかり、苦笑いが起きる。
「じゃ、練習に戻るから・・・また!」
早々と出口に向かう先輩の後ろ姿を見て、
先輩の好きな人は誰ですか?なんて聞けなかった。
そんな勇気、私にはなかったーーー・・・。

「ーーー大丈夫?」
私が屋上から戻ると莉子が今にも泣きそうだよって話しかけて来た。
「ゴメ・・・先輩、好きな人いるんだって。」
「えっ!?」
「偶然先輩が告白されてるところに遭遇しちゃって、好きな人がいるって断ってて・・・。莉子・・・先輩の好きな人って誰なのかな。聞けなかったや・・・。わたし、辛いや・・・」
弟とのケンカもあるし、
先輩の好きな人のこともあって心がもう折れてしまった。
莉子は私を抱きしめトントンと優しく叩くから、
その優しさがまた苦しくて彼女の腕の中で涙を流した。

その日のスケート、足が思うように動かなかった。
滑れるんだけど、いつものように滑らかに滑れなくて何度も転びそうになった。
教え子たちが気がつくことはなかったけど、
自分自身で違和感を覚えた。
「あっ・・・」
そのせいもあって片付けなどが遅くなってしまった。
この日はいつもより遅い時間に帰ったこともあって、また先輩たちにコンビニの近くで会った。
この人たちは毎日部活終わりに来てるのだろうかと不思議な気持ちになる。
「バイト帰り?」
智也先輩がいつものようにニコニコして聞いてくる。
「はい。部活の帰りですか?」
「うん。雪乃ちゃんも食べる?」
ーーー夜だと言うのにこの蒸し暑さ、梅雨独特の暑さだろう。
「大丈夫です・・・。お先に失礼します。」
智也先輩しかいなかったことに救われて、
私は安堵した。
優は・・・広瀬先輩と買い物でもしてるのかな。
何より今日はもう体調がすごく悪いーーー。
とにかく気持ち悪くて、
立ってるのも辛くなってきて私は電信柱にしゃがみ込んだ。
「秦野!大丈夫か?!」
しゃがみ込む私に気がつく先輩たちが走ってきた。
「すいません・・・気持ち悪くて・・・」
「顔真っ青だなーーー。家どこ?ーーー今日は優が友達と予定があるから先に帰って不在なんだ。ーーー送る。」
私を抱き抱えるように手を添えながら持ち上げてくれ、
広瀬先輩はゆっくりと隣を歩いてくれる。
「智也、先に帰ってくれ。彼女を送ってから帰る・・・ーーー。」
「オッケ、また明日!お大事にね、雪乃ちゃん!」
まさかの2人きり・・・ーーー。
「すいませんーーー・・・わたし、昔からあまり体が強くなくて・・・」
「大丈夫、気にするなーーー。」
私に合わせてゆっくり歩いてくれる優しさに嬉しくなった・・・ーーー。

しばらくして自宅のマンションに着いた。
「ありがとうございました・・・」
「うん、お大事にしろよ。」
「ーーー先輩も気をつけて。」
「ありがとう。じゃ、また・・・」
先輩が消えていくのを見送り、
私も家に入る・・・ーーー。
もう7時を過ぎたと言うのに誰もいない。
塁も帰ってきてない、
この時間にいないってことは夜ご飯もいらないってことだろう。
またこの前みたいに喧嘩するのも嫌だし、
私も体調悪かったから塁が帰宅する前に寝支度を済ませて先に寝室に入った。
気がついてた、
塁が帰宅した時間も私の様子を見に寝室に来たことも。
でもーーー・・・
私は寝たふりをして過ごした。

何度言っても私と意見が合わないと言うなら、
私だってもう知らないってなるーー。
同じ家に住んでるのに塁とは最近会話さえもしてないことに今更ながら気が付いた。

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