8.
夜遅く、本当に珍しくお兄ちゃんが帰宅した。
私は部屋で宿題をしてて、
塁は今日の疲れなのかもう寝てしまっていた。
「ーーーお兄ちゃん?」
「悪い、起こしたか?」
「まだ起きてたから。どうしたの?」
「ーーーなかなか戻れなくてごめんな。塁のこと任せっきりでごめんな。自分の生活でも大変なのに・・・」
お兄ちゃんは水を飲みながら私に問いかける。
どうやら今日の件はお兄ちゃんに伝わってないようで安心。
「お兄ちゃんはどこに寝泊まりしてるの?」
「ずーと病院にいたわ。」
「もし病院の近くが良ければ引っ越しても良いんだよ?そしたら帰ってきやすいでしょ?」
「大丈夫、心配すんな。ちょっと・・・痩せたか?」
「そうかな?でもちゃんと食べてるよ?」
「ーーー無理すんなよ。ほら、遅いから寝た方が良いよ。」
「分かったー、おやすみー。」
私もお茶を一口飲んで部屋に戻った。
お兄ちゃんが家に戻ってくるのは何日ぶりだろう?
日どころじゃない、週間になるかな・・・。
1週間は帰ってきてないから2週間ぶりになるのかな。
よくお医者さんは病院に寝泊まりする人が多いとも聞くけど、
兄はその方が楽だからそうしてるって言ってた。
父からの仕送りがあるにしても医師である兄が兄弟3人で暮らして下2人の世話をしなきゃいけないのは相当大変だし負担になってるとは思う。
「えっ、にいちゃん!?」
私の予想通りで次の日の朝、
塁は兄が当たり前のように朝ごはんを食べてることに驚いていた。
「お前は元気そうだな(笑)」
お兄ちゃんもいつものテンションで2人で学校のことやらを話している。
なんて言うのかな、男子同士は女子には入れない何かがあるんだよなぁって思う。
2人はたまごサンドを頬張りながら、
塁は朝練だからと早めに行く。
「あいつ勉強してんのか?朝練って引退したんじゃないのか?(笑)」
「ーーーうん、引退してるけどバスケが本当に好きなんだろうねぇ。そんなに好きになれるのもなかなかないし羨ましいなって思うよ。」
「内申は通りそうな感じ?」
「うん、大丈夫だと思う。塁なりに勉強してるよ。」
「ーーー雪乃は?バイトつらくないか?」
「小さい子に教えるのは楽しいよ!あっ、そうだ!来週授業参観あるよ!私は別に来なくても良いけど塁は最後の学年だし時間あったら行ってあげて。お父さんは厳しいと思うし・・・」
この前塁にもらった学校からのプリントを兄に見せた。
「了解、行けそうなら行くわ。」
そして兄もそれからすぐに仕事に向かった。
全員が去り一通り家のことをして、
私も学校に向かうーーー・・・。
起きるのは一番早いけど出るのは一番遅い。
普通の家庭ならお母さんがやってくれることを、
私は自分1人でやる。
だからどうしても遅くなる・・・。
お母さんはいつ戻ってくるんだろう。
果たして戻ってくる日があるのだろうか、
と不安になる。
そんなこと考えても仕方ないから、
私は自分に喝を入れて学校に向かった。
学校に到着すると私は担任に呼ばれた。
ーーー想定内、昨日のことだろうとは思ってたから。
「弟には高等部に来ないようにちゃんと伝えました。ご迷惑かけて申し訳ございませんでした・・・ーーー」
担任の隣には塁の担任もいて、
昨日のことはもう広瀬先輩から事情を聞いて知っていたけど塁が高等部に混ざって練習していることを問題視されていた。
今回は厳重注意で私が呼び出しとなった。
深々と頭を下げて、私は職員室を出る。
「雪乃、大丈夫か・・・?」
担任に呼ばれたことを心配していた優は職員室の前で待機していた。
「・・・うん。」
苦笑いが溢れる。
優には絶対にこの気持ちわからない。
ご両親に愛され、お兄さんとも仲良くて・・・
あんな家族に愛されてるからこその今の優がいるのも事実だけど、
そんな人に私の気持ちなんて分からない。
この惨めな気持ちが分かってたまるものか。
「今日、部活終わるの早いから駅前の新しいカフェ行こうぜ!」
優はいつものように私に優しくしてくれる。
でも今の私はいつものように出来ない。
「ごめん、お兄ちゃんが帰ってきてるの。多分今日も帰ってくるから早く帰らないとダメだし・・・」
「そっかぁ、なら明日は?先輩とかも誘うからさ!仲良くなれるチャンス作ってやるよ!今、少しずつ話せるようになってんだからさ。」
「明日は・・・バイトなの。ごめんね、また今度・・・」
苦笑いして、私は優より先に教室に戻った。
その日はお兄ちゃんは結局戻って来なかったけど、
私はお兄ちゃんと塁の分のご飯を用意した。
でも・・・
塁も友達と食べるからって、
友達と勉強してから帰るって言って、
8時過ぎまで帰って来なかった。
そのことで大きなケンカとなった。
「中学生なんだよ?この前問題起こしたばかりで、これ以上問題起こさないでよ!」
「ーーーうっせーな。姉ちゃんに何がわかんの?俺は勉強なんてしたくないよ、バスケだけしてたいんだよ!勉強勉強、遅いって毎日うっせーんだよ!」
塁も何かにイライラしてて、
私もイライラしてたから余計にバトった。
「それは塁のため・・・」
「母親でもないくせに口挟むなよ!所詮姉ちゃんじゃんか!1つしか変わんねーじゃんかよ!姉ちゃんに何がわかんの?姉ちゃんに何が出来るの?!・・・姉ちゃんじゃなく兄ちゃんと一緒に暮らしたいよ!」
塁は言った、
確かにそう言ったーーー・・・。
「私で・・・ごめんね。塁の役に立てなくてごめんね。今日はもうお風呂入って寝よう、先に寝るね。」
言ってから後悔したのか、
塁は何かを言いそうになってたけど、
私は何も気にして無いふりをして寝床に入った。
ーーー必死で涙を堪え、
でも限界が来て大粒の涙を流した。


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