10.
次の日、私は学校に着くなり優に謝罪された。
「昨日さ塁を遅くまで連れ回したの俺なんだ、ごめんな!」
「ーーーううん、大丈夫。」
「ウチでゲームしててさ、気づいたら遅くなってて!あっ、家まではにいちゃんが送ったから!」
「大丈夫だよ、ありがとう。」
私は優に笑顔で答えたーーー・・・。
「・・・明日の塁の授業参観、颯太さん来るのか?ルイが気にしていたからさ。」
「どうだろ?一応伝えたけど。ーーー電話してみるね。」
そして沈黙が出来る・・・ーーー。
前まではこんな沈黙さえも優が弾き返してた。
でも今は少しの距離が出来てしまったんだと思う。
「優、わたし・・・ダメかもしれないけど先輩に告白してみるね。」
驚くような顔をして私を見る。
「ーーー応援してる。うまくいくように願ってる。」
いつもの笑顔をくれたけど、
私の瞳からは涙が溢れた。
それは・・・こんなに優しくて幼馴染の私を大切にしてくれている優に対して一瞬でも黒い感情を抱いたことへの罪。
罪悪感ーーー、そこから来る涙だった。
「・・・雪乃?」
「ごめん、何でもないの・・・また告白したら報告するね。」
私は涙を拭って笑顔で優に伝えて教室に戻った。
何か言いたそうに引き留めようとしてる優だったが、
その時にちょうど友達に連れられてしまったので私としてはとても助かった。
夜、お兄ちゃんに電話したけど出なかった。
塁も珍しく早く帰宅して、
夕飯食べている時にお兄ちゃんが電話に出ないことを伝えた。
「別に最初から期待してねーよ。」
不貞腐れながら言ってたけど、多分悲しかったと思う。
だってもしクラスで自分だけ誰も来なかったら?
私だったら悲しいを通り越して幻滅してしまうもん。
だから何度かお兄ちゃんに電話したけど、
忙しいようで出ることはなかった。
「ーーーおはよう。体調大丈夫か?」
授業参観の日、私は朝から先輩に会った。
心の中でガッツポーズ。
「あの時はありがとうございました!本当に助かりました!」
「ーーーあまり無理はするなよ。」
「はいっ!」
私は莉子を見つけて先に行くーーー・・・。
と思って踏み出したところでバランスを崩して先輩に助けてもらった。
「すいません!!」
「ーーー気をつけろ。」
先輩の隣を歩いてると色んな人に見られて視線が痛いから軽くお辞儀してすぐに莉子の方に向かう。
莉子は良いの?チャンスだよ?と言ってたけど、
それよりも視線が嫌だった。
この日の私はずっと時計を気にしてたーーー。
お兄ちゃんが来れないなら塁の授業参観は私が行こうと思ってたから。
「ーーー来ないな・・・」
正門から保護者が続々と入ってくるのが見える昼休み、
窓際に座る優の席をちょっと借りた。
ーーー優は察しが良いからすぐに貸してくれる。
「あと5分で始まるのに・・・ーーー私が行く!」
席から立ち上がり塁のいる中等部に移動しようと立ち上がった時、
私はまたバランスを崩した。
「大丈夫か?」
優に腰を掴まれ転ばずに済んだけど、
今日だけで何回もバランスを崩して転びそうになっていることに違和感を感じた。
「ごめん、ありがと!」
そして教室を出ようとした時・・・ーーー。
女子生徒からの黄色い歓声が聞こえたーーー。
その方向を見るとお兄ちゃんがスーツを着て走って正門を入ったのが見えた。
誰?あの人誰のお父さん?若くない?
そんな声が聞こえるーーー・・。
「行かないのか?」
「来たことがわかればもう良いの。貸してくれてありがとう。」
私は慎重に立ち上がり転ばないように気をつけた。
自分の席に戻り授業までの間、
私は携帯を握りしめた。
ーーー足が上手く思うように動かない。
この前の嘔吐と関係があるのだろうかと調べたけど何も出てこない。
ただ疲れているだけなのかもしれないと思い込もうとしたけど、それにしてはバランス崩すことも多いから不安しか残らない。
それに同じクラスの優は誰よりも私の体調の変化に気がつくから彼に気が付かれてしまうと言う変な不安も生まれた。
「ーーー雪乃、体調悪い?顔色が真っ青。」
優の呼びかけにハッとするともうすでに授業が終わってて帰りの時間になってる。
「あっ・・・ごめん。大丈夫・・・」
「おれ、部活行くけど・・・大丈夫か?」
「大丈夫!ありがとう!」
笑顔を作った・・・ーーー。
優が去り、外を眺める。
ちょうど保護者の方が外で待ってるのが見えて、
塁はお兄ちゃんと帰れてるかなと穏やかな気持ちになりながら外を見る。
ゆっくり立ち上がり転ばないようにいつもより倍はのんびり歩く。
下駄箱に着く頃には人の気配も消えていたけど、
お兄ちゃんだけが私を待ってた。
「あれ?塁は?」
「友達とバスケしに行った笑」
「お兄ちゃんもバスケしに行ったら?優がいるよ?」
「ーーーその優からお前が体調悪そうだから待ってて欲しいと連絡もらったんだよ。確かに・・・ちょっと顔色が悪いな。体調悪いのか?」
お兄ちゃんは私の顔を覗き込んで、額に手を当てようとしたけど私はそれをスッと避けた。
「大丈夫だよ、優は心配しすぎなんだよ。」
お兄ちゃんはそうか?と不思議そうにしてたけど私は気がつかないふりをした。
この日、珍しくお兄ちゃんも自宅に戻った。
塁も兄がいるからなのか帰宅するのが早くて、2人が楽しそうにゲームをする姿をしてる姿を見てやっぱり塁が言ってたように、
弟には私じゃなくてお兄ちゃんが必要なんだなって強く思った。
塁が・・・あの日言った言葉を強く思い出した。


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