【 君がいる場所 】#11.

君がいる場所

11.

次の日、私は家族の誰よりも早く家を出た。
みんなが寝ている時に朝食の支度をして、
そっと自宅を出た。

荷物を教室に置いて、
私は優の席に座ってカーテンから感じる外の風で黄昏る。
ーーー優のカバンはもうおいてあるから朝練に行ってるんだと思う。
夏休み明けに試合があるみたいで、
そこで三年生は引退だからきっと今みんな練習 してるんだと思う。
私は体育館の方に目をやるけど、
教室からでは限度があって体育館の方は見れない。
朝の空気を吸うだけでも気持ちよくて、
気がつけば私は優の机で寝てしまってた。

「雪乃、起きろ・・・」
「ーーー・・・」
「雪乃!おい!」
練習後で疲れているからめちゃ機嫌悪くて、
大きな声で私もビクッと驚いて目が覚めた。
「ゴメン・・・寝ちゃって・・・」
「先生来るぞ。HR始まる・・・」
「ゴメン・・・」
立ち上がり自席に戻ろうとして、
立ち上がると私はガタンと足のバランスを崩してその場に崩れ落ちた。
「えっ・・・」
一瞬の出来事で優もこの前みたいに支える時間もなく、ただ目の前で驚いてる。
「ご、ゴメン。踏み外しちゃって・・・」
泣くな・・・ーーー。
自分に言い聞かせてグッと堪える。
優の手を借りて立ち上がるけど、優は腕を離さない。
「優?」
「ーーー俺に隠してることあるだろ?」
勘の良い優だから、きっと何かに気がついた。
「なに、言ってるの?」
「ーーーこの前も倒れ方おかしいと思ったんだよ。いつから調子悪いんだ?」
「たまたまだよ!バランス崩しただけ!心配しすぎたよ!笑」
苦笑いして優にバレないように必死に誤魔化す。
掴まれている手をパッと離す。
「俺に隠し事しても無駄だそ、知ってんだろ。」
「だから!本当に!何もないって!しつこいよ!」
心配してる優を突き放すように自席に戻る。
冷静を装ってるけど、内心は焦ってる。
優は私を監視するようにずっと見てて視線も痛い。
どうしよう・・・ーーー、優にバレる。
頭はずっとそればかり・・・ーーー。
その日は優の視線が怖くて、
なかなか自分の席から立ち上がることが出来なかった。

でも昼休み、優を通して私は先輩に裏庭に呼ばれた。
うちの裏庭は新校舎と旧校舎の境目にあるから滅多に人が来ない。
「急に呼び出してゴメンな・・・」
「いえ、どうかされましたか?」
「ーーー次の日曜って空いてるか?」
「えっ!?」
「あっ・・・!!!ゆずが今入院してて、なぜか秦野さんに会いたいって泣き叫ぶんだ。」
「入院?!何でですか?!」
「学校で遊んでて骨折(笑)」
良かった・・・ーーー、とホッとする。
「日曜じゃなくても病院と病室教えてもらえたら、私行きますよ?」
「ーーー俺が行けないからさ。今部活抜けらんねーから・・・」
「わたし、一人で大丈夫ですよ?」
「いや、行くよ・・・」
「でも先輩、忙しいですし・・・」
「行くって・・・」
「ほんとに大丈夫・・・」
このやりとりを何往復かして、だんだんとお互いに意地になっている部分もあって視線が絡んでフッとお互いに笑いが込み上げた。
「秦野さんって・・・結構頑固だな(笑)」
「すいません(笑)」
「ーーーオレが秦野さんに会う口実を作ってるっていうのが伝わらない?」
先輩は大きなため息を苦笑いしながらついた。
「えっ?」
先輩を見ると少し照れたように話す。
「ゆずが会いたがってることは本当だ。それ以上に・・・オレが君ともっと仲良くなりたいと思ってる。」
真剣に先輩は言う・・・。
「先輩には好きな人がいるって噂があるって・・・。だいぶ前からって・・・」
「ーーーうん。2年前だったかな、まだ高校に入ったばかりの頃にオレは足の怪我で入院していた。推薦で入ったオレは自暴自棄になってて、推薦を取り消される不安でいっぱいでさ。そんな時に・・・整形と小児が近くて、いつも笑顔で小児病棟に来る女の子が気になった。いつも笑顔で挨拶してきて楽しそうに子供達と笑い合う声が聞こえてきて、悩みがないんだろうなぁ、羨ましいって最初は思ってた。正直妬んでた・・・。だけどその子が一人で泣いてる姿を偶然見てしまってさ。気がつけばオレはその子に声かけて隣に座って話を聞いていた。いつも笑ってても苦労していた話を聞いて、何も知らないくせに妬んでいた自分を恥ずかしく思った。彼女は最後に・・・話を聞いてくれてありがとう!と見たこともない笑顔でオレに言った。一目惚れだった。あの瞬間にオレは彼女に恋をして・・・」
ん?と思うことはあったけど、私は話を聞き続けた。
「それから彼女に会うことはなかったけど、半年前に再会した・・・再会した時は胸の高鳴りが止められなくてさ、まだこの子に恋してるんだって自分でも想定外の感情を持ってたよ。」
「ーーー凄いですね。」
「・・・ここまで話しても、まだ思い出さないか?」
私は先輩を見たーーー・・・。
「オレが2年前に病院で出会ったのは君だよ。あの日からオレはずっと君に恋をして、君をずっと探してた。」
何となく覚えはある、いつも悲しそうな顔をしている男の人とすれ違うなって思ってた。
何度か挨拶しても無愛想に返されるだけだった。
でも一度だけ屋上で話を聞いてもらった記憶、
最後に顔に似合わずキャンディをくれたこと。
「ーーーそっか、あの彼が先輩だったんだ。」
「眼中になかっただろうが・・・」
「あの頃の私は、優が好きだったから・・・」
そう、あの頃の私は優のことがすごく好きで。
すごくすごく好きで、だから苦しかったのを今でも覚えてる。
当時の優の彼女に嫌がらせをされたり、
幼馴染という立場を利用しないでも言われたり。
いろんなことで傷ついていた時期だった。
「やっぱり・・・優が好きなんだろうなぁとは思ってた。」
「中学の時の話ですよ!周りに男子がいなかったからってのもありますけど。」
「ーーー付き合ってるんじゃないのか?3年の間では秦野さんと優が付き合ってるという噂が絶えなくて失恋確定だなってオレは最近よくからかわれてるよ。だから気持ちだけでも伝えたくてここに呼んだ。優との仲を壊そうだなんて思ってもない、ただ・・・」
「ま、待ってください!私は優と付き合ってないです!」
「えっ?」
「優とは幼馴染だからずーと一緒にいるけど、中学の頃に好きだったのも私の一方通行で!優には当時長く付き合っていた彼女もいたし、今も女友達は多いから休みの日は遊んでるはずです!私たち・・・そんな関係じゃないですよ?」
「ーーーじゃあ秦野さんの好きな人は?好きな人はいるって優から前に聞いたわ。」
「・・・それは・・・」
ここまで先輩が気持ちを伝えてくれているのに、
自分の気持ちを伝えないのは良くないかとも思って、私は意志を固めた。
「私の好きな人・・・先輩です。入学してすぐ先輩のバスケを見て憧れを持って、優を通して少しずつ話せるようになって・・・何がって言われると分からないけど気がつけば好きになっていました。わたし・・・広瀬先輩のことが好きです。」
私もまっすぐ目を見て伝えた。
先輩も照れくさそうに頭をカリカリかいてる素振りをして苦笑いをしている。
お互いに照れくさそうに笑い合う。
「ーーーオレと付き合ってほしい。」
「私で良ければ・・・」
なぜか私と先輩は握手を交わした。
それが面白くて二人でまた笑い合った。

とりあえず日曜にゆずちゃんのお見舞いに行く約束をするために連絡先の交換はした。
私からしたら付き合うこと自体が初めてだから全然分からないけど、
連絡先を交換して日曜にお出かけする。
それだけでも一歩前進な気がして、
教室に戻っても胸の高鳴りが抑えられなかった。

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