#08.
電車が来るのはどうやら5分後らしく、
私は携帯でネットサーフィンしながら電車を待つ。
・
「携帯見る時間あるなら、助けてよ(笑)」
背後から私を軽く責める声、すぐに星ちゃんだってわかる。
私は隣に立つ彼の方に振り向くこともしない。
「自分の身は自分で守ってください(笑)」
「久しぶりだってのに冷たいなぁ(笑)」
いつも思う、
星ちゃんと横に並んでも全く釣り合わない。
凸凹で本当に親子みたいだなって思う。
私は何も言わずに電車に乗り、星ちゃんもそれに合わせて乗る。
「何か用なの?」
「そりゃ用があるから待ってたんですけど。ほんと冷めてるな・・・」
最寄りの駅について自宅まで歩く途中の会話。
だったら可愛げのある子に乗り換えれば良い、と思ったよ。
「何の用があるの?」
「ウチ寄ってくか?」
あの日から私も星ちゃんの家に行ってない。
怖くなってしまった、
今まで借りたシャツが何人の女性が着たものだろうと考えたり。
「ううん、良いや。話があるならここで。」
私を抱くことのない彼の腕がどんなふうに人を抱くのだろうと考えてしまったり。
ーーーそんなことを考える自分が怖くなった。
「じゃ、そこのカフェ入るぞ!」
半ば強引に向かったカフェはつい先日出来たばかりのパフェ専門店だった。
「えっ、待って。ここで・・・」
ーーー甘いの苦手なくせに勢いで入るからめちゃ嫌そうな顔してる(笑)
「私が誘ったんじゃないし(笑)」
「わーってるよ、何も言ってねー笑」
「るな、ストラップは?」
「あっーーー・・・うん。」
前に水族館に行った時に購入したお揃いのストラップ。
ーーー私は携帯に、星ちゃんは恥ずかしいからと鍵に付けていたね。
「無視されてるなぁとは思ってたけど、あからさまだな(笑)」
ーーー連絡取らないことで星ちゃんと話さずに済んでいたけど、もう無理じゃん。
タイムリミットが来ちゃったーーー。
「星ちゃん、もうすぐクリスマスだね。」
もうすぐ12月、どこもかしこもデコレーションはクリスマス仕様に変わっている。
「ーーーだな。」
「サンタさんだねーーー。」
「だなっ、欲しいものあるのか?(笑)」
ーーー私はその質問には答えなかった。
「ーーーそろそろ別れよっか。」
私はちゃんと前を向いて言った。
言えたーーー。
言えたよ、星ちゃん。
「ーーーるな」
泣くこともせず、真剣な眼差しを彼に向けた。
「もう約束の一年だし。」
「ーーー約束の1年って何?」
星ちゃんはテーブルの上にあった私の手を掴んだけど、
私はそれを解いた。
「覚えてないなら良いの。たくさん自由を奪ってゴメンね。これからはお兄ちゃんの親友として接するから安心してね。」
テーブルに千円置いて私は店を出た。
これで良いんだと思うーーー。
私にとっても星ちゃんにとってもこれで良いんだと思う。
ーーー次はもっともっと想われた恋をしたい。
・
「るな、待てって!勝手に色々決めて逃げんな!」
星ちゃんっていつも私を追いかけて走ってる気がする。
まあQBだし足が速いから苦ではなさそうだけど。
「ーーーゼミ友達を家に入れたことが引き金か?」
「ーーー」
「るな!全部言えよ!今思ってること我慢してること全部言えよ!」
初めて星ちゃんが怒ったーーー。
凄い真剣な顔で私に怒ってる。
ーーー笑顔が好きなのに、笑える。
「ーーー笑顔が好きだった。星ちゃんの笑顔が大好きで、私が側にいて笑わせたかったよ。」
「だったらそうしろよ。」
「もう出来ない。私には出来ない。」
「ーーー何で?」
「お兄ちゃんの妹だから!星ちゃんの中で私はお兄ちゃんの妹から抜けない、それに私は星ちゃんが思ってるほどクリーンな女性じゃない。」
「確かに最初は太陽の妹だった、憎たらしい妹と思ってたよ。絶対好きになるはずないって思ってた。でも一緒に過ごしてルナの笑い方、優しい心、情緒不安定なところも全部放っておけなくなって惹かれていった。」
「違う!星ちゃんは私のこと妹にしか思ってない!」
「何でそう思うんだよ?」
「本当に好きだったらその人を傷つけるようなことはしない。人を家に招いたりシャワー入れたり、女の人と連絡取り合ってたり・・・その度に腹黒い自分が生まれるのがいやなの。平気なふりしていたけど全然平気なんかじゃなかったよ。」
「この前のことを話してるならシャワーに入ったのは俺と彼女だけじゃない、全員入った。次の日も制作をするからと全員泊まったからだ。」
「つまり女性も泊まったってことだよね?」
星ちゃんはマズイといった顔をした。
「ーーー隠していたつもりじゃない、言うの忘れてた。」
それが彼の本当の気持ちなんだろうなぁ、とは思う。
だってめんどくさがり屋だもんね。
「ーーー彼女の私でさえ泊まったことないのに、女友達は泊まれるんだね。」
「それはーーー、ルナは高校生で・・・」
分かってるよ、私には家があって。
高校生でーーー。
泊まれない理由をあげたらキリがないけど、
今だけはーーー。
高校生とか大学生とか言わないで欲しかった。
「分かってたはずなのに。星ちゃんは誘われたらその人と寝るし友達でも何でも断らないって。ーーーそりゃ泊めるよね。」
「るな・・・」
一歩私に近寄った星ちゃんを拒絶するかの様に私は2歩下がった。
「ごめん、帰るね・・・」
「るな!」
「ごめん、ちょっと1人になりたい。ーーー付いてこないで。」
私は逃げるように星ちゃんから走り去った。
「俺は認めないからな!」
そんな彼の声を遠くになるまで走った。
終わりで良いーーー、
本気でそう思った。
たった一年弱の恋だったからきっと忘れるのも時間の問題。
次の恋が忘れさせてくれる、そう信じたい。
・
それから3週間、
携帯でどれだけ繋がっていたかを思い知らされた期間だった。
お互いに発信しなければなにもないーーー。
何の繋がりもないのだ。
そうこう毎日を過ごしている間に、
学校主催のクリスマスパーティーの日になった。
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