#25.
今日は卒業式ーーー、
出張とまた重なった父の代わりにお兄ちゃんが参加する。
・
本当に高校最後の日、
わたしは鏡の前に立ち自分の姿を確認する。
友達が出来るのかな、先生は怖くないかな、と不安と緊張から始まった入学式。
今はーーー、こんなに成長したんだと思える。
卒業式という式典らしく、
普段は降ろしている長いクセのあるカーリーヘアーも今日は二つに分けて三つ編みで結んだ。
ーーー卒業式は入学式と違う緊張がある。
お兄ちゃんと自宅で待ち合わせをして一緒に向かう。
こうして学校まで歩くのも今日が最後だと思うとやっぱり寂しいーーー。
「ーーーまさか妹の卒業式に付き添うとは、な笑」
「感極まるでしょ?(笑)」
「ーーーまあな。卒業おめでとう。」
素直に嬉しかった、
お父さんやお母さんからもらった言葉も嬉しかったけど、
やっぱりお兄ちゃんは誰よりも一番そばにいてくれた人だから・・・
何かあったら必ず味方になってくれた人だったから嬉しかった。
・
卒業式ーーー、
卒業証書をもらうのは本当に緊張した。
だけどそれ以上に本当に最後なんだ、と思うと涙が溢れそうになった。
でもそれは決して私だけじゃない、
晴菜もそれこそ怜くんもみんな涙ぐんでいた。
それだけこの高校3年間は楽しくもあり深くもあった。
「来てくれてありがとう。」
正門でお兄ちゃんと写真を撮って、
その後に最後だからとお兄ちゃんは卒業する女子生徒と記念撮影をしてあげていた。
「ーーー父さんも明日帰ってくるし、星也のところに泊まるんだろ?」
「分かんない、その時の雰囲気で決めようかな。」
「また連絡しろよ!」
何か言いたげで言うのをやめたお兄ちゃんはそのまま正門を出て帰ったーーー。
私は友達との記念撮影や先生たちとの記念撮影を終わらせてから一度自宅に戻った。
ペアで恒例のダンスに来るカップルは男性が女性を迎えに来るーーー。
そして一緒に登校して、ずっと一緒というパターンが多いらしい。
でも今年は例年よりカップルで来る人が少ない、って先生が言ってたな。
私はダンスに引合出来るように、
髪の毛をハーフアップに束ねてトップにお団子を作り、
もともとのカーリーヘアーを生かした。
ドレスは・・・
黄色とオレンジで悩んだ結果、黄色のAラインドレスを着用することにした。
ー--これは父と母からの卒業プレゼントで、発表会や披露宴などで使えそうだなって個人的に思った。
「ー--ねぇ、さっきからみのりちゃんがこっち見て睨んでるけど何かあったの?」
「ー--ああ、同じ人を好きになってるだけの話(笑)」
「彼は来るの?」
「来ないと思うよー--。」
晴菜には星ちゃんと付き合っていることも、
告白した当初から話してあるから気軽に話せる。
みのりちゃんのことはややこしくなるから話さなかったけど、
あからさまな敵対心をむき出しにされるとこっちも正直やりにくい。
16時スタートのダンスパーティーは個々で来場する人は体育館集合、
私は晴菜と一緒に体育館に向かった。
カップルで踊るもよし、友達と最後の思い出作りとして踊るのもよし、
とにかく楽しんでもらえれば何でもオッケーの名ばかりのダンスパーティーだ。
私はさほどダンスに興味はなくて、
舞台で行われている学生たちによる演奏だったりバンド、
ケイタリングのご飯などその場の雰囲気を楽しんでいたー--。
用意されているベンチに座りながら、
お皿に盛ったご飯を食べる食べるー--。
そこまで食べる方ではないけど、美味しくてつい手を出してしまうほどだった。
それを見て笑う晴菜ー---。
「ー--広瀬、それ美味しいの?(笑)」
「えっ、美味しいよ。食べてみる?」
怜くんも友達に呼ばれては戻って来て、また呼ばれて戻って来ての繰り返し。
ー--そうだ、怜くんは剣道部で・・・
結構モテる人だったんだ、だって学ランのボタンも全部消えていたしね。
だから結構女子とダンスを踊って疲れ切っている様子もあった。
晴菜は断ればいいじゃんって言ってたけど、
やっぱり優しい人なんだろうね、相手の気持ちに寄り添える部分は寄り添いたいと言っていた。
ー--星ちゃんにも不特定多数じゃなくて、たった一人に対してだけそれを見習って欲しいわ、なんて思ったところだ。
( えっっ!!???星也先生じゃない?!なんでいるの!?)
( きゃー-!久しぶりに見たけど、やっぱりかっこいい! )
突然、体育館の正面出口がガヤガヤ騒々しくなった。
何事かと思ってチロッて見たけど人だかりがすごくて全く見えない。
ー--でもその人は堂々とその人だかりを避けた。
長身で小麦色に焼けた肌、それに見合った茶色がかった髪の毛。
大きな瞳にキリっとした眉毛、
普段着用しないタキシードなんか着ちゃっていつも以上にハンサムな星ちゃんがいたのだったー--。
「ー--卒業おめでとう。」
何がどうなっているのか分からない私はとにかく驚いていたと思う。
星ちゃんはそんな私にからかうような笑顔でおめでとうの言葉を言ってくれた。
「ありがとう。」
「ー--俺と踊ってくれませんか?」
星ちゃんは私に手を差し伸べたー--。
「ー--はい。」
私は星ちゃんの手を受け取った。
体育館の中央に設置されているダンス広場に移動して踊る。
「ー--驚いた?」
抱き合う形を取って踊る私たち、
その私の耳元で星ちゃんは囁いた。
「驚いたよ、来るなんて言ってなかったし。この後に会うものだと・・・」
「ー--来るつもりなかったんだけど、何となく嫌だったんだよな。ルナが他の男と踊るの・・・」
嫉妬ですか?、と嬉しかった。
「ー--踊ってないけど、ね。」
「心配ご無用だったな(笑)」
私は星ちゃんの肩を叩いたー--。
そして二人で見つめ合って笑ったー--。
( なんか・・・素敵だね。)
その言葉が耳に聞こえてきたとき、私はとても嬉しかった。
・
ダンスの曲が一曲終わり、
私と星ちゃんは色んな人に囲まれたー--。
「どういうことなんですか!?広瀬さんといつから付き合ってたの!?」
「いつから・・・?一年前くらいかな?(笑)」
「えー---!じゃあ教育実習で来た時にはもう付き合ってたの!?すごい、よく隠したね!」
「俺は隠すつもりなかったんだけど、誰かさんが、さ(笑)」
星ちゃんは私の方をニヤリと見た。
そりゃ教師じゃないし良いかもしれないけど、そのあとが嫌だったのよ。
「ー--良いよね、お兄ちゃんっていう存在が星也先生の心をつなぎ留めれたんだから。」
唯一否定的な言葉を言ったのはみのりちゃんだった、
私は握りしめていた手を強く握った。
えっ、とみんながみんなみのりちゃんを見るー-。
「ー--確か君は・・・望月とカラオケ行った時にいた子だね。名前なんだっけ?」
ー--本当は星ちゃんは彼女の名前を知ってる、
私が散々話していたから。
だけど明らかに興味がありません、という素振りをしたんだと思う。
「相場みのりです。」
「あー-、みのりちゃんね。で、彼女のお兄さんが何だったっけ?」
「ですから、広瀬さんが星也先生と出会えたのはお兄さんの存在があったからですよね!もとから準備されていた場所があったからそりゃ恋にも落ちますよね、嫌でも隣にいるんですから!」
ー--つまりお兄ちゃんの友達だったから恋人になれたと言いたいんだと思う。
「ー--確かにそうかもね。でも違う形で出会ったとしても、僕は彼女を好きになる自信あるよ。」
( うわぁー--、星也先生、大胆発言じゃない!?)
「私の方が・・・先生の事好きな自信あります!!!」
「うー--ん・・・たとえ君が僕のことを好きてくれていても僕はキミを好きになることはないよ。彼女と出会ってなくても、それは確かだよ。」
「そんなこと分からないじゃないですか!」
「ー--ここまで言って分からない?」
星ちゃんは少し迷惑そうな顔をして、私を見て口パクでゴメンっと言って言葉を繋げた。
「・・・人を使って僕の大切な人を怯えさせたり不愉快な思いをさせるような性格の人を誰が好きになると思う?少なくとも、彼女はそんなことしない心の優しい女性だよ。」
ー--星ちゃんはみのりちゃんに圧力をかけたー--。
これ以上関わるな、と。
笑顔の中にある怒り、そのものだったと思う。
・
「見た?みのりちゃんの悔しそうな顔。ほんとルナが良くてもオレが我慢できなかったわ。」
ー--みのりちゃんが会場を後にした後、
私と星ちゃんも続けて退散した。
( 幸せに! )
と友達たちに言ってもらえたのは星ちゃんが来てくれたおかげだったかなと思う。
「ー--ありがとう。言いすぎな気もするけど・・・」
「卒業したんだから関わるんじゃねーぞ。」
「分かってるよ。」
星ちゃんは私の頭を大げさにくしゃくしゃにしたー--。
「ー--すごくその恰好は似合ってると思うけど、ジャージ姿のルナの姿も可愛いんだぞ?ー--シャワー浴びて来いよ。」
遠回しに泊っても良いって言ってくれているのかな、
素直じゃないんだからと思いながらも私は言われるがままシャワーを浴びに行く。
「ー--その前に、改めて卒業おめでとう。」
立ち上がった私に星ちゃんは背後から抱きしめて優しい言葉をくれた。
私はそんな星ちゃんの腕に自分の手をかけて・・・
「ありがとう。もう高校生扱いしないでね(笑)」
「色んな意味でな(笑)」
ー--私は星ちゃんの腕を叩いた。
星ちゃんは私を抱きしめる腕に少し力を入れた。
「ー--もう俺から絶対に離れんなよ。分かったらとっととシャワー浴びて来い!」
恥ずかしかったのか、私を無理やりシャワー室に追いやった。
ー--うん、離れないよ。
星ちゃんの心が離れないように頑張らないとね、とシャワー浴びながら思い更けていた。
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