#07.
きっと、星ちゃんの言うように誤解なんだと思う。
でもね、星ちゃん。
一緒にいるのが当たり前すぎて、
一緒にいる時間が楽しすぎてーーー。
一年という契約が私を今苦しませてる。
そして私という存在が星ちゃんを苦しませてるように思うんだ。
・
「会って話がしたい。明日会えるか?」
昨日は星ちゃんからの着信にも応えられずメールも答えられなかったから今日返信した。
「連絡もらえていたのにゴメンね。今日、学校が終わったら昨日と同じカフェに行くね。」
「俺もその時間に向かうわ。」
学校でもいつも以上に上の空で、
私は早く放課後になれと思ってた。
「遅くなってゴメンね、これでも急いだんだけど・・」
「さっき来たところだから、なんか飲むか?」
星ちゃんの向かい側に座り、私はココアを頼んだ。
「昨日も来て今日も来て、どんだけ好きなんだって思われるかなー笑」
私はあくまで平然を装った。
そうでもしなきゃ心がズタボロになりそうだったからー--。
「るな」
私のココアが運ばれてきて一口飲んだところで、星ちゃんが真面目な顔をして私を呼んだ。
「ー--ん?」
「昨日、るなと別れた後にゼミのグループのメンバーが家に来てみんなで卒業制作をやっていたんだ。ー--来ることを黙ってて申し訳なかったと思う。」
星ちゃんが一番嫌いな謝罪、
いつも自由な恋愛をしてきた彼は女性の束縛を何よりも嫌う人。
ー--そんな彼なのに今私の目の前で謝罪している。
昨日見てしまった現実を弁明するために。
目をつぶることが側にいる唯一の方法だと昨日は思った。
だけどー--。
今こんな星ちゃんを見たら私の胸がズキッと痛んだ。
何よりも笑っている顔が素敵で大好き、
彼にはずっと笑っていて欲しいと願っているー--。
そのために私は何が出来るんだろう。
「もう良いんだよ。ー--最初に付き合う時に私が言ったこと覚えている?」
「なんか言ったっけ?」
「ー--好きな人が出来たら別れる、女友達とも遊びたければ遊んで良い、好きなように今までのようにして良いから側にいて欲しいって言ったんだよね。だから私に文句を言う権利はないし、ルールを破ったのは私の方なんだよね。だからー--、もう謝らないで?」
星ちゃんは納得していなかった。
相手の立場になって行動するべきだった、と言っているけどそこは違うと思う。
だって星ちゃんは最初から自由を許されていたのに、
一緒にいることで私のわがままがきっと伝染してしまったんだ。
「ー--もっと責めろよ。昨日いた女性は昨日のメンバーに彼氏も来ていたし、本当に何もない。るなが嫌だと思うことがあるなら、もっと責めろよ。そうしてくれた方が俺は救われる。」
何もないなら何で二人でシャワー浴びたの?
ー--そんなこと聞けるわけないよ。
「私って冷めてるのかな(笑)あまり怒りも感じないし、仕方ないやって思ってる。」
「るな・・・違うよな、本当は・・・」
「もうこの話題終わり!この話題するなら帰るよ!(笑)」
何かを言いたそうで不服そうではあったけど星ちゃんは特に先を続けることもしなかった。
「気をつけて帰って。」
「うん、星ちゃんもバイト頑張ってね。」
星ちゃんは大学入学当初からHUBでバーテンダーとして働いている。
だからお酒をよく飲むし、お酒にもめちゃくちゃ詳しいらしい。
ー--それにお兄ちゃんが言うには星ちゃん目当てで来るお客さんも結構多いんだって。
それも若い子だけじゃなくておばさんたちにまで人気なんだって。
凄いなぁ・・・。
・
その日を境に私は星ちゃんから距離を置くようになった。
前までは携帯を抱えてどこに行くにも行動してたー--。
でもまずそれをやめて、自分の都合よいときだけ携帯を見るようにした。
電話も出ないようにした。
メールも・・・
なるべく既読しないように、まとめて既読するようになった。
もちろん1ヶ月以上、会うこともしなかった。
「行ってきます!」
気づけばお父さんも出張から帰って来て、今日は代休。
とにかく休んで欲しくて私は朝からカレーを仕込んでおいた。
夕飯まで持つはず、そう思って。
「広瀬、ちょっと良い?」
ー--そんな私は怜君に放課後、声をかけられた。
「どうかしたの?」
裏庭に呼び出された私はちょっとドキドキしていた。
「多分、広瀬は俺の気持ち気が付いてると思う・・・」
薄々は正直気が付いていた、
いつも放課後に残っている時に一緒に残ってくれたり何かとスキンシップが多かったり・・・。
「え、っと・・」
「俺、広瀬のこと1年の時からずっと好きだったよ。」
まっすぐ言われる言葉ってこんなに胸に突き刺さるんだねー--。
嬉しくて悲しくて涙があふれてきた。
「ー--ゴメン。」
えっ、と驚く怜君に謝罪だけした。
「ー--うん」
「ゴメン、気持ちすごく嬉しい。でもわたし・・好きな人がいるの。」
「ー--知ってる。星也先生でしょ?」
「えっ?」
「いつだっかな・・・偶然音楽室を通りかかって2人が抱き合ってるところを見ちゃったんだよな。あっ、もちろん誰にも言ってない!」
必死に説明する怜くんに私は笑いが溢れた。
「えっ、何?」
「いや、怜くんみたいな純粋な人を好きになれたら幸せなんだろうなぁって思っただけ(笑)」
「でも星也先生と別れて俺の元には来れないんだよね?」
「ーーー人の気持ちは簡単に動かないからね。でも気持ちは嬉しかったよ、ありがとう。」
私は校門まで怜くんと一緒に帰った。
途中まで同じ方向で途中から反対方向になる。
別々に別れて駅まで歩き出した私は、
一つの人だかりに目を止めた。
背が高くてサラッとしてて遠くからでも分かるもん、
あれが星ちゃんであることくらい。
ーーー4人の女性に囲まれて困ってる様子の彼が見える。
背の高い星ちゃんと私の視線が合致した瞬間、
私は目を逸らして改札の中に逃げるように入った。
ーーーただホームに立ち電車が来るのを待った。
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