#06.
お兄ちゃんのいない日常が戻った。
私が炊事担当になる日常ーーー、
またお父さんの出張が決まった。
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私の父はお兄ちゃんにタイプが似ていてコツコツ黙々とやるタイプ。
寡黙でつまらないと思われがちだけど、
すごい努力もしているし真面目な性格の人。
そんな父はずーとSEの仕事を全うして来た。
SEとして日本国内色んなところに出張に出ている。
ーーー今回の出張はいつもより少し長くて2週間予定。
流石に心配だ、というお父さんがおばさんの家にお世話になるように言っていたけど私は断った。
何かあれば必ずおばさんを頼る、それを約束して自宅に1人でいることを許してもらえた。
「るなの大事な時にそばにいれなくて申し訳ない。父親失格だな・・・」
「そんなことない!出張頑張って、電話待ってるね。」
私のネガティブな性格はお父さん譲りかもしれないなぁ、と思った。
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試験までの日は学校行って授業を受けて、
放課後に英語の先生による英文添削、
国語の先生による小論文の書き方をほとんど毎日教えてもらった。
これだけみっちり教えてもらったから大丈夫、
自分自身も自信をつけることが出来たからそう言った面でも勉強して良かった、と思えた。
お兄ちゃんが事前に買っておいてくれたお守りを手にして私は大学に向かう。
「頑張って来いよ、ここで待ってるから。」
「ーーー行って来ます。」
星ちゃんは私に微笑んで、彼もまたお守りをくれた。
二つもお守りがあれば大丈夫、何故か不思議と変な自信があった。
ほらね、完璧と思えるほど自信持って言える。
出来たよ、てね。
その数日後、私が無事に大学に合格したことを担任の先生に知らせてもらえた。
「この短期間でよく頑張ったと思う!残りの生活は羽目を外しすぎずに遊べよ!」
今までにないくらいの笑顔で言われてこちらも笑顔で感謝の言葉を伝えた。
ーーーお父さんもお兄ちゃんも電話で伝えて、
みんなで会った時にお祝いしてもらえることになった。
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「温泉どこに行きたいか決めたか?」
今日は星ちゃんと久しぶりの放課後デート。
彼は彼で今度は卒論提出が迫っていると多忙になりつつある合間の時間。
遊んではいてもきちんと学業も頑張ってるのは尊敬する。
「ーーー日帰り?泊まり?」
「日帰りかな。流石に高校生を泊まりには出来ないわ。」
少し残念な気もしたけど、それは仕方ない!
「じゃぁーーー、箱根の方になるのかな!小さい時だけどお父さんと行った記憶がある!」
「おっけー、調べておくわー。」
星ちゃんはモテるだけあってすごいマメだ。
メールも電話も頻繁にくれるし、
出かける時も下見とか普通に苦なく行くって言ってた。
フットワーク軽いんだろうけど、
その行動力はすごいなぁと思う。
スーパーに寄って帰ると言ってスーパーで別れた私たち。
ーーー冷蔵庫が空っぽだから、
1人で過ごすにちょうど良い必要最低限の食材を購入した。
「ーーーあの・・・何かウチに用でしょうか?」
スーパーから帰宅すると家の前でウロウロ挙動不審な行動をしている女性がいた。
お父さんと同じ歳くらいだなーーー。
お父さんの知り合いだろうかーーー。
「えっ!あっ!ーーーお父さんは・・・」
「父は今出ていますが・・・」
その女性はお父さんに用がある様子だった。
お父さんの彼女かな、と思ったけど彼女だったら出張してること知ってるだろうしーーー。
「ーーーるな?るななの?」
「えっ、なんで私の名前・・・えっ、お・・・かあさん?」
「あなたは覚えていないだろうけど。ーーー太陽は?」
「ーーーお兄ちゃんは今大学生です。」
ーーー母親だと名乗るその女性は確かにどことなくお兄ちゃんに似ている気がした。
「ーーーそう、よね。突然ごめんなさいね。・・・また来るわね。」
嵐のように来て嵐のようにさったその女性、
本当に私のお母さんなんだろうかーーー。
夕飯の親子丼を作りながら悶々と考える。
私とお兄ちゃんの名前も知ってたしお兄ちゃんに雰囲気似てるし・・・
お母さん説が濃厚だよね・・・。
でも今更なんの用事があって来たんだろう?
ーーーやっぱり誰かに話を聞いてほしい!
そう思って22時前だったけど、私は家を飛び出して星ちゃんの家に向かった。
秋の夜空は星が出始めていて空気も綺麗でお散歩に最適な季節だなぁと平和に考えながら星ちゃんの家に向かった。
ーーー ピンポーン ーーー
いつもははいと応答があってから玄関ドアが開くのだけど・・・
今日は突然開いたからちょっとビックリした。
ーーーさらに驚いたのは出て来た人を見た時。
「あら、どちら様?」
背が高くて胸が大きく、スラっとしててクールビューティーとでも言いたいモデルみたいに綺麗な女性が私の目の前に立ってる。
星ちゃんのシャツを着用してても様になってる。
感心してるのはそこじゃなくて、どうして彼のシャツを着てるのかってところだよね。
それに比べて・・・
私は星ちゃんのシャツを借りても背が小さいし胸も小さいからブカブカで、
子供みたいといつも言われている。
「・・・あのっ・・・」
私が言葉を発した時、背後から星ちゃんの声が聞こえた。
「おいっ!勝手に出るなって言っただろ!」
ドスンドスン音を立てながら玄関に来た星ちゃんは私を見てヤバいと言う顔をした。
ーーーお風呂上りの星ちゃん。
下にバスタオルを巻いて上半身は裸だった。
・・・これから始まるのか、終わった後なのか。
見てはいけないものを見てしまった気がした。
「お取り込み中でしたね、すいません。」
私は冷静を保ち、その場から逃げるように走った。
ドアの中からルナ!と叫ぶ星ちゃんの声が聞こえたけどとにかく走った。
「ルナ!」
でも後少しで自宅というところでガシッと追いついた星ちゃんに腕を掴まれた。
息を切らしてる星ちゃんは腕を強く掴みながら自分の息を整えた。
「ーーー分かってる、私に責める権利がないことくらい。今まで色んなこと目をつぶって来た。でもーーー、家だけは入れて欲しくなかった。」
卒論するから早く帰るとあの時言った。
ーーー嘘だったのかな。
本当はもうずーとこの人が家にいたのかな。
「そこはゴメン。でも誤解してる。」
誤解?家に入れたことが?風呂上りの2人を目の前で見たのに?
「ーーーもう良いよ。早く戻りなよ、待ってるんでしょ、お邪魔してごめんね。」
「るな・・・」
「分かんない?今、星ちゃんと一緒にいたくないの。」
私は星ちゃんの腕をそっと離して、
その場を後にしたーーー。
涙も出ない、ただ絶望だった。
そして星ちゃんを無理やり一緒にいさせてしまった罰だと思った。
あの時無理矢理にでも告白した自分も悪いと思った私は、このことは目を瞑ることにした。
だってそれしか聖ちゃんの側にいる方法が見つからないんだもん。
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