【 わたしの好きなひと 】#12. お兄ちゃんとの大げんか*

わたしの好きなひと。

#12.

嵐のように来て嵐のように去った星ちゃん。
それでも私の心は満たされていたーーー。

そして30日の夕方、お父さんは帰宅したーーー。
私はおせちをデパートに取りに行ってて、
帰宅したらお父さんはお風呂だった。
「ーーー帰ったのか。」
「うん、お父さんもお疲れ様。」
お風呂上がりのビールを飲むお父さん、
テレビを見ながらリラックスしている。
「お兄ちゃんはいつ帰るの?」
「ーーー今年は年が明けたら帰るって言ってたぞ。」
「忙しいんだね。」
「最後の学年だから仕方ないだろうな。4月からはこっちに戻って来るんだし、今年は残りたいんだろうな。」
ーーーこうしてお父さんと話すのは久しぶりな気がした。

「ーーーるなにひとつ確認したいことがあるんだが。」
ダイニングテーブルにビールを置いてお父さんがこっちを向いた。
「えっ、何?」
「以前、ココに父さんより少し若い女性が来たか?」
女性ーーー、お父さんより若い人。
「あっ!秋頃だったと思うけど、家の前でウロウロしてる人がいて少しだけ話してね。お兄ちゃんの名前も私の名前も知ってて、お母さんかな、ってーーー。」
「ーーーそう、あの人はお前の母さんだよ。」
「えっ!?本当に?」
「父さんも聞いてビックリした。ーーーやり直そうと思ってるんだ。」
「お母さんと?」
「ーーーああ。」
何も言えなかったーーー。
知らない女性じゃないし別に悪いことじゃない。
お父さんが幸せになるならそれで良いと思う。
でもね、実のお母さんだとしても・・・
私の中の記憶はゼロなんだよね。
だからすんなりそうですか、とは言えなかった。

「ーーーもしもし、どーした?」
寝るだけにして部屋に戻った私は星ちゃんに電話した。
「今、外にいるの?」
時計は23時を回る頃ーー。
「大学の地元が近いやつで集まって飲んでて、今帰りだよ。どーした?」
星ちゃんとはあまりメールのやり取りはしないから何してるのか電話しないと分かんない。
「声聞きたくなっちゃって、会いたくなっちゃって。」
「ーーーそっか、ゴメンな。」
「こちらこそ電話してごめんね、またかけるね。」
ーーーなんか悔しかった。
私は家族のことで今ごちゃごちゃしてるのに、
人生を謳歌してるように感じる星ちゃんに対してイラッとした。
そっか、ゴメンって何?
星ちゃんは会いたいとか何も思わないの?
と、変な八つ当たりを星ちゃんにしていた。

そして次の日も何も音沙汰ないまま時間だけが過ぎていくーーー。
大晦日の夜は例年に珍しく紅白なんて見ちゃった。
白組が優勢なことが多いと思ってる紅白、
今年もやっぱり白組が勝利した。
そのまま続いてジャニーズカウントダウンもやっていて見ちゃった。
「あけましておめでとう。」
星ちゃんに送ったメールは既読にすぐになったものの、
返信があったのは次の日のお昼過ぎだった。
「明けましておめでとう!今年もよろしくな!6日に帰るから、それまで頑張れよ!」
私はそのメールを見て画面を閉じた。
ーーー遠回しに帰るまで連絡してくるな、と言われてるみたいで返信出来なかった。

お兄ちゃんが自宅に戻ったのは2日の朝だった。
それまで微妙な雰囲気の私とお父さん、
正月ということでなかなか友達と予定も合わなくて出かけられなく暇して過ごしていた私はお兄ちゃんが帰ってきて大喜びだった。
「お兄ちゃん!会いたかったー!」
「ーーー相変わらず元気だな(笑)」
嫌がりもせずに受け入れてくれるお兄ちゃんが今の癒しでもあった。
手土産でくれたバターサンドを用意してお父さんと話すお兄ちゃんに紅茶を淹れた、もちろん全員分。
「ーーー大学はどうだ?卒論は出したのか?」
「もうとっくに出したよ(笑)今はほとんど行ってないよ、バイト三昧。だから一度、こっちに戻ってこようと思ってて。」
「そうなのか?」
「ーーーああ。一月末でアパート引き払って2月にこっちに戻ってきて、4月からのアパート探しをしようと思ってる。あとは卒業式に出れば良いだけだし。」
「えっ、お兄ちゃん一人暮らしするの?!」
つかさず私は割り込んだーーー。
一緒に暮らせるものだと思ってたから・・・。
「言ってなかったっけ?会社の近くでアパートを探そうと思ってんだよ。ーーー未来と一緒に暮らしたいと思ってるんだ。」
未来とはお兄ちゃんの彼女、
大学入学してすぐに付き合って今に至る。
そっか、そうだよねーーー。
同じ東京で働くんだもん、一緒に暮らしたいよね。
「ーーーそうなんだね、良かったね!」
私は寂しさを出さないように笑顔で応援した。
「で、母さんはいつから戻って来る予定なの?」
私はハッとお兄ちゃんの方を向いた。
ーーーお兄ちゃんは知ってたんだ。
「ーーーまだ分からない。なるべく早くとは思ってる、ルナとの関係もあるしな。」
ーーー私はお父さんとお兄ちゃんの会話に入れなかった。
2人で出来上がってる会話に、
私が入ることは許されなかったからーーー。

「ーーー私も一人暮らししようかな。」
夕食前に私はお兄ちゃんの部屋に行った。
「えっ?何で?」
「ーーーお兄ちゃんが帰って来るもんだと安心してたんだけどさ、お父さんとお母さんが元に戻るなら私邪魔じゃない?(笑)」
「ーーーそんなことはないだろ(笑)」
ーーーそんなことあるでしょ、と思った。
今までも散々寂しい思いを我慢してきたつもり、
そこにお父さんの大切な人が加わるなら私は邪魔になると思う。
たとえそれが本当のお母さんでもーーー。
今更お母さんですって言われて、心を開けるわけがない。
「お父さんに話してみるーーー!」
「るな、今はやめろ。ーーー父さんだって悩んでルナに話したと思うんだよ、それを言ったら母さんが戻って来れなくなるぞ・・・」
お兄ちゃんは私の腕を掴んだ、強く。
「だから?いまさらお母さんって言われても記憶ないのに受け入れられると思ってるの?」
「ーーー受け入れるしかないんだよ、血が繋がってる人なんだから。」
「良いよね、出ていく人は。関係ないもんね、何があっても。今までもそうだもんね、私がどんな思いでいたか知らないもんね、お兄ちゃんは!」
「ーーーどういう意味だよ。」
ハッとした、言いすぎたと思った。
「お兄ちゃんに私の気持ちなんて分かんないよ!」
「ルナ!」
もう7時過ぎだというのに私は携帯だけを手にして家を出た。

初めてお兄ちゃんとケンカしたーーー。
小さな喧嘩は良くしていたけど、こんなに大きな喧嘩は初めてだった。

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