【 わたしの好きなひと 】#60. 愛してるんだ* – Seiya’s Side –

わたしの好きなひと。

#60. – Seiya’s Side –

何が起こったのか分からなかったーーー。

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「罪を償ってもらう!」
そう目の前にナイフを出され、その瞬間に「ダメー!」という声と共にオレは懐かしい待ち焦がれていた彼女に抱きしめられていた。
ーーードサッーーー
そして次の瞬間に、彼女はその場に倒れた。
「ルナ!」
オレは倒れる彼女を支え、
彼女の流血している血を見た。
ーーーオレを庇い、彼女は刺された。
「ーーー怪我・・ない?」
怪我してるの自分なのに、苦しそうな表情で聞いてくるなよーーー。
「大丈夫か?!何やってんだよ・・なんで・・・」
日下部さんたちがみんなを退散させ、
おばさんを確保して警察と救急車を呼ぶ間、
オレはルナが意識なくならないように必死に話しかける。
「ーーー守れた・・・かな?星・・・のこと・・・」
意識が朦朧とするルナは途切れ途切れ話す。
「ルナ!ルナ!しっかり!」
一件を聞いた既に更衣室に戻ってた太陽は走ってルナに近寄った。
「お兄・・・ちゃん。いた・・・いよ?」
太陽はルナの肩をがっしりと掴んでしまっていたので、その手を焦って離した。

「ーーー藍沢のお母さんだそうだ。桐山と広瀬をターゲットにしてたと。」
社内警備員が来て、事情を聞いた結果、その人は藍沢のお母さんだと分かった。
「ーーーお宅の息子さんが妹に何をしたかご存知なんですか?」
太陽は怒りを抑え、冷静に藍沢の母さんに問いかけた。
「知ってるわよ!いっときの迷いじゃない、そんなの大したことないじゃない!」
子も子なら親も親だーーー・・・
太陽に対する答えがこれだーーー。
「御言葉ですが、息子さんがしたことを妹は責めることもせず忘れようとしていました。チームを首になり会社から追い出されたのは彼女や俺たちの責任ではなく、藍沢本人の実力の問題かと思いますが・・・」
「ーーー違う!息子はそんな子じゃない!」
お腹を痛めて産んだ自分の子だ、そりゃ信じたいだろう。
でも太陽の言うように何も制裁を与えられず何事もなく藍沢は先月までやってた。
ーーー突然監督からの退部命令、そして会社からの退職命令が下されて俺たちも驚いていたんだ。

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なのに藍沢の母さんは自分達に非は何もない、
悪いのは俺たちだと言い張る。
しまいにはルナが藍沢をたぶらかした、とまで言った。
「ーーー暴力・・・やめて」
オレは殴りたい衝動を抑えるために拳を握りしめていた。
相手が女性だろうと、そんな気持ちだった。
でもそれを止めたのがルナだ・・・ーーー。
オレの拳を止めるかのように必死に握りしめてる、
やめてと言わんばかりに。
「ルナ!」
そして彼女はそのまま意識を失ったーーー。

病院に運ばれすぐに手術が行われた。
幸いにも傷は浅いから大したものではないと言われた。
ーーーそれよりも精神的ショックの方が大きいだろうから、
今後気をつけてくださいと太陽は忠告を受けていた。

「ルナ・・・バカ・・・」
オレはベットに眠るルナを見つめた。
別れて3ヶ月、
久しぶりの再会がこんな形だなんてーーー。
この試合で活躍してシーズンが終わったら迎えに行こうと思ってたのに。
何で試合に来たんだーーー・・・。

眠る彼女を見ながら、彼女の頬を触る。
綺麗になったな、と思った。
恋する女は綺麗になるーーー。
誰かに恋してるんだろう、そう思うと苦しかった。
彼女が出て行ったあの日、
彼女の意志の強さを感じた。
今までにない強さだったーーー。
オレが何を言っても首を縦には振らない、
そう確信した。
だから時間を置いて迎えに行こう、そう決めたんだ。
ーーーなのに、何で・・・。
こんなにも好きなのにどうして伝わらないんだろう。
どうやったら信じてもらえるんだろう、
この3ヶ月ずっとそればかり考えていた。
2年という長さで甘えや慣れが出ていたのは歪めない、
だけど彼女が出て行って失って気づいた大切さも正直ある。
ーーー好きなんだ、本当に・・・。
蒼白した表情の寝顔を見ながら、
オレは彼女の手を握りしめながら目を覚ますようにと祈った。

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「星、ちょっと・・・」
ルナの側から離れないオレとは逆に太陽は冷静に先生や看護師とこれからのことなど家族でしか出来ない話をしていた。
ーーー前に入院した時も、家族しか話せなくてオレは少し悔しい思いをしたんだったな。
「ーーー何?」
「理央ちゃんたちが下に来てる。お前に用があるって。」
まだルナの部屋は一部の人しか面会が出来ない、
俺も本当は面会ができないはずなのに太陽の計らいで今ここにいられる。
「ーーーサンキュ、少し行ってくる。」
受付に向かって、俺に気がついた理央ちゃんは椅子から立ち上がった。

「ルナは?」
「目を覚ますのを待つだけだよ、大丈夫だろうって・・・」
理央ちゃんは安心した様子を見せた。
「ーーーこれ、ルナの忘れ物です。」
そして彼女から一つの紙袋を渡され、
中を確認するとそこにはたくさんのはちみつレモンが入ったタッパーがあった。
「これを渡すために今日・・・?」
「たぶん・・・」
「昨日まで行かないって絶対行かないって言い張ってたんですけど、俺たちがしつこかったからですかね・・・」
一緒にいた以前試合したアメフト部の福岡キャプテンが伝えてきた。
「とりあえずありがとう。」
それを伝えてオレは病室に戻ろうとした。

「あのっ!余計なお世話かもしれないけど、彼女のことちゃんと見てあげてください!」
「ーーーどういうこと?」
福岡キャプテンがオレに向かって言った。
「あなたと別れる前、俺、彼女と毎日2人でお昼食べていたんです。友達のことで悩んだり、あなたのことで悩んでいたり、いろんな相談を受けていました。」
「・・・ルナ、変な先輩に目をつけられちゃって変な噂を信じた同じ授業の子たちや仲良かった子たちから無視されていたんですよ。」
理央ちゃんが割り込んで話してくれた。
「ーーーそれっていつから?」
「交流試合を行なってすぐです、原因は俺たちにあるんですけど・・・その罪悪感もあり、彼女を1人にしたくなくて、毎日ずっと一緒にいました。あなたが彼氏だと知らずにすいませんでした!」
「ーーーいや、話してくれてありがとう。目が覚めたら彼女と話してみるよ。」
交流試合ってことはもう4ヶ月以上も前のことになる・・・。
何も知らなかった、彼女は何も言ってなかった。
いつも帰宅すれば笑顔で出迎えてくれ、不安な要素なんて何一つ見せてこなかったじゃないか。
ーーーただ唯一思い当たるとしたら抱いて欲しいと毎晩言われ続けていた時期と重なる。
あの時はきっとまた俺との関係で不安なんだろう、としか思わず、それで彼女が安心するなら応えられるだけ応えた。
不安だったから少しでも安心を覚えたかったんだ、と俺は確信した。
ーーーだから練習がハードすぎたあの日、
一度拒否したことで全拒否されたと思ったんだろう。
あの日から俺たちの関係に亀裂が入ったんだから。
・・・あの瞬間に彼女の心の扉は閉ざされたんだろ、そう確信した。

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病室に戻り、変わらない彼女の寝顔を見つめる。
あどけない少女のような可愛い容姿を持つ彼女、
そこに少しずつ大人の階段を登っているような時折見せる美しい表情、そのギャップが彼女の魅力の一つだと思う。
「ーーーお前は馬鹿だ・・・」
俺は彼女のおでこに自分のおでこを当てた。
何度も何度もバカ、そう言った。
「ーーーバカ・・・だけど愛しい。そんなルナが愛しい。頼むから目を覚してくれ。ーーー愛してる。」
俺は彼女にキスをしたーーー。
寝ている彼女にはバレないだろう、
そう思って3回キスを落としたーーー・・・。
久しぶりの彼女の感触、
柔らかくて俺に幸せをもたらせた。

ーーー・・・人を愛すること、
それを教えてくれたのは彼女だった。
ほんの少しのことでイライラして不安になる。
それを感じるのは彼女だけじゃない、俺だって同じなんだよ。
彼女に出会って今まで感じたことない感情に出会い戸惑うことも多かった。
ーーーだけどそれが人を愛すると言うことなんだと思う。

うちは俺が思春期の頃から姉貴が男に騙され続けてきた。
遊ばれては泣いて、いつも病院送りだった。
ーーーだから今の旦那に出会って子供が産まれたことは姉にとって奇跡なんだ。
そんな遊ばれてばかりの姉を見て来たから恋愛、ましてや愛というものは信じなくなった。
男は性処理、姉はいつも言ってた。
それを俺も信じて疑わなかった。
求められれば応える、
最初は相手の望み通り何でも叶えてあげていた。
だけどそれも段々と虚しくなり、
そのうちオレと共にする条件は最後までやらないというのを付けた。
あくまでキス、そして、相手を気持ち良くさせ、添い寝だけの関係。
ーーー俺には一切触れない約束だった。
だからルナと討論した時、薫の妊娠問題で疑われた時に妊娠させたことはないと言い切れたーーー。

そんな最低な俺がルナに出会って恋をして、
愛を知ったーーー。
あいつは沢山守ってくれて、とよく言っていたけど。
救われていたのは俺の方なんだーーー・・・
ルナの笑顔が俺の気持ちを和らげる、
ルナの言葉一つ一つが俺の胸に刺さる、
ルナの行動が愛を教えてくれる。
彼女の存在自体が俺の幸せそのものなんだ。

ーーー俺はルナの手を握りしめ、
自分のありったけの思いを独り言のように話した。
「ーーーそこまで言われたら恥ずかしいよ。」
その声にハッとした・・・!
ルナが目を覚したんだからーーー・・・。
「痛いところないか?!大丈夫か?」
返事の代わりに彼女は微笑を返してきた。

ーーー良かった、ルナの意識が戻った。
安堵と共に俺は、頭の手術以来の涙を流した。

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