【 わたしの好きなひと 】#61. 良い方向へと・・・*

わたしの好きなひと。

#61.

ーーー愛してる。
そんな言葉が聞こえた瞬間、私の唇に柔らかい、
そんな感触が落ちて来たーーー。
・・・そして私は目覚めた。
まるで王子様にキスされて起きたプリンセスみたいに。

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「ーーー悪い・・・」
ーーー星ちゃんはそう言って嗚咽を殺して泣いてた。
私はそんな彼の頭を右手で撫でたーーー・・・。
「星ちゃんは泣き虫だね(笑)」
「ーーー分かってる?死ぬかも知れなかったんだぞ?俺なんか助けなきゃこんなことにならなかったのにーーー。」
ーーー彼は私の手を握ってた。
「ーーーそれは出来なかった。目の前で星ちゃんが危なくて、そしたら体が動いてた。ごめん。」
私は横になりながら彼の方を向いた。
「・・・頼むから2度とこんなことはしないでほしい。」
そうだよね、自分の目の前で血を流されたらビックリするもんね。
私はーーー、約束した。

「あのさ、ゴメン。カバンの中に携帯があって、取ってもらえる?」
私は手を伸ばせない代わりに聖ちゃんに願いした。
ーーーそれは静ちゃんと付き合っていた時に使っていた携帯電話。
「これ・・・」
「いつか会えたら返そうと思ってて、全然会えなかったからこんなに遅くなっちゃったけど返すね。」
「ーーー俺はルナに戻って来てほしい、そう思ってるよ。」
星ちゃんは真剣な眼差しで私に言った。
「部屋もそのまんま、ルナの服も小物も全部そのまま置いてある。ーーー頼む、戻って来て・・・」
「・・・出来ないよ。」
「俺のこと嫌いになった?新しい彼氏が出来た?」
「ーーーもし星ちゃんと元に戻っても、結局同じことを繰り返す。私は・・・ーーー、星ちゃんしか見えなくなる、そんな自分が嫌なの。だから・・・ゴメンね。」
「ルナ・・」
「きっと星ちゃんにはもっと相応しい人がいる、幸せになってよ。」
私は笑顔で彼に伝えた・・・。
これで良い、そう思うーーー。
彼の幸せを願うから、だから身をひいたんだもん。

それから数日後に私は退院したーーー。
退院日はお兄ちゃんには来ないで、と頼んだ。
1人で大丈夫だから、と。
余計なことをして星ちゃんに退院するのがバレるのが嫌だった。

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あの日からーーー、
星ちゃんと私を繋ぐものは何も無い。
唯一の携帯電話も返却した、
お兄ちゃんも今は当てにならないと思う。
これで良い、これで良い、
そう何度も自分に言い聞かせたーーー。

病院の看護師さんたちに見守られ、
私は家路へと歩くーーー。
ここから近くもない遠くもない距離。
「ルナ!」
家路へと向かい始めたすぐ、星ちゃんの声が背後から響いた。
「ーーー何しに来たの?お兄ちゃんにはあれだけ止めたのに・・・」
「ーーー太陽じゃない、福岡くんに聞いた。・・・家まで送る。」
「良いって、本当に・・・」
「こうなったのは俺の責任でもあるんだよ!頼むから甘えて・・・」
何度このやり取りをしたのだろう、
結局何を言っても折れない星ちゃんに私は荷物を持ってもらうことにした。

「奏さんと仲良いの?」
「ーーー福岡くんとは、この前久しぶりに病院で話したよ。念のために連絡先を交換した、それだけ。ルナの方が彼とは仲良いと思うよ。」
「私は別に・・」
「一緒にランチを毎日していたこと聞いたよ。ーーー学校のこと、辛かったのに言い出せない環境作って悪かった・・・」
そうじゃないよ、私が言わなかったのは・・・
きっと守ってくれるって思ったから。
でも自分のことは自分でやりたかった、それだけのこと。
ーーーそれから私たちは無言で歩いた。

5分歩いて、私のアパートに到着した。
「荷物持ってくれてありがとう。ーーーここからは大丈夫だから。」
男子禁制のアパートだから、何をしても星ちゃんも入れないアパート。
「ーーーじゃ、練習戻るな・・・」
星ちゃんは何か言いたげだったけど、
その場で口をつぐんだのが分かった。

私が何も言わずにいると苦笑いした星ちゃんが歩いて来た方向へと戻って行った。
ーーーよく見たら彼はジャージ姿のスパイクを履いてて、
練習を抜けて来てくれていたのが分かる姿。
普段の彼だったら絶対に来ない格好だ。
ーーー星ちゃんは見た目を誰よりも気にする人。
近くのコンビニに行くにしても身だしなみをきちんと整えるから、
そんな人がジャージでくるはずない。
ーーーきっと退院が今日だと聞いて急いで来たんだろうと思う。

今、このまま星ちゃんとバイバイしたら本当に会えなくなるかもしれない。
わたし・・・本当にこれで良いの?
ずっとずっと強がってばかりの人生だった。
お母さんはいなくてお父さんとお兄ちゃんと暮らしていた時期も父子家庭だからと思われたくなくていろんなことを我慢して心配事も弱音も吐かなかった。
お兄ちゃんが一人暮らしをしてからはもっと、
ほとんど自宅に帰らないお父さんの帰りを待つ私。
いつのまにか我慢を超えて諦めることを知った。
ーーーそんな私に甘えることを教えてくれたのが星ちゃんだった。
光を希望を与えてくれたのも星ちゃんだった。
お父さんのいない寂しさも埋めてくれた。
私の心の気持ちを理解してくれた。
喧嘩すればきちんとぶつかっても向き合ってくれた。
ーーー軽い人かもしれないけど、
自分に正直な人だった。
・・・そんな人を本当に失っても良いの?
こんなに好きだとぶつかってくれる彼を本当に手離しても良いの?

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・・・そんなのイヤだっ!
私は手に持っていた全てのバックを迷惑になるとも思わずにそのばに放り投げた。
「星ちゃん、待って!」
そして私の叫び声に振り向く彼に向かって全力で走った。

「だから!退院したばかりなのに走るなって!」
彼も全力で私に駆け寄ってくれたーーー。
「はぁはぁはぁ・・・」
私は星ちゃんに抱きついた。
「ーーー臭いから離れろ。練習の途中で来てるからめちゃ臭いと・・」
私の肩に自分の手を乗せて離そうとしたけど、
私は力を入れて全力で拒否した。
「いや!今、離れたら本当にサヨナラになる!ーーー星ちゃんのためと思って離れようって思ったけど・・・出来ないよ・・・まだこんなに好きなのに、優しくされるだけでこんなに嬉しいのに・・・」
ーーー星ちゃんは私を強く抱きしめた。
「あーあ、臭いから練習終わったら会いに来ようと思ってたのになぁ。何のためについて来たのか(笑)」
「えっ?」
「携帯も教えてくれない、だったら家を突き止めるしかないだろ?(笑)」
妙に納得した自分がいた、
だからあの時何度断っても引かなかったんだーーー。
騙された感が強かった。
「わたし、星ちゃんの汗の匂い好きだよ?星ちゃんのつける香水の匂いも、甘いシャンプーの匂いも好きだよ?」
「ーーーこれ、やっぱりルナが持ってて。」
星ちゃんは私に携帯を返して来たーーー。
「えっ、でも私2台もいらないし・・・」
「そっち、解約すれば良いだろ?(笑)」
ーーー私が自立のために買った携帯は解約すれば良いと言った。
「ーーーそうだね。」
「今日、一緒に暮らしてたあの家で待ってて欲しい。3時間・・・いや、4時間後には必ず帰るから、待ってて欲しい。今までのこと、そしてこれからのことを2人で話し合おう。」
星ちゃんは私のオデコにキスをした。
ーーー私はそれだけでも幸せを感じたんだ。
ありがとう、そう思った。

一度別々の方向に向かい、
私は荷物の整理をするーーー。
そして夜ご飯の支度をするために早めに彼の家に向かった。

どんな話し合いがあるのかわからない、
でも良い方向に進むと良いな、
そう願いながら彼の家へと向かった。

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