#62.
久しぶりに入る星ちゃんの家の鍵はパスコード式のものだ。
前と変わらず私の誕生日がパスワード、
そう教えてくれた。
・
そして久しぶりに入る家の中ーーー。
2人で眠ったベットも、2人で座ったソファも椅子も何も変わってない。
私の服を入れていたクローゼットを見ても綺麗に畳まれていて最後の服は星ちゃんが入れてくれたんだな、と胸が苦しくなった。
テレビの横にある2人で撮影した海での写真も変わらずそのまま置いてある。
ーーー何も変わってない。
まるで今までも私が存在しているような感覚になる。
星ちゃんは私が戻るのを待っていてくれたの?
疑うこともせずに戻ってくるって信じていたの?
だからいつ戻っても大丈夫なように、
何も変えないでいてくれたの?
自惚かもしれないけど、
そう思うと苦しくて、
星ちゃんの思いを考えると切なくて涙が止まらなかった。
私はどれだけ彼を傷つけ、苦しめたんだろう。
ーーー自分を責めた。
離れた方が星ちゃんのためになるとそう思った。
今回に限らずいつもそう思うから、
いつも家出をした。
でもーーー・・・
私が思うよりずっと星ちゃんは私のことを好きでいてくれているのかもしれないとも思った。
離れることが出来なくて、何が出来るんだろう?
ーーー信じてあげることしかできないんじゃないかな、そう思った。
・
星ちゃんは本当に4時間後、
7時過ぎに帰宅した。
ーーーめちゃくちゃ息を切らしてて笑えた。
「そんな走って来なくても・・・笑」
「来てないかもしれないから確認したくて走ったんだよ(笑)」
ちょうど私はオムライスを作っている最中だった。
久しぶりだったから星ちゃんの好物のオムライスとハンバーグを作ろうと思ったの。
ーーー見た目はおちゃらけているけど、
好物がお子様メニューだから可愛いよね、と思う。
星ちゃんはあっという間に食べたーーー。
まだ私の残ってるけど・・・
「食べる?」
「ーーーゆっくり食べろよ。」
「遅くてゴメンね(笑)」
遠慮なく時間かけてゆっくり食べて、
片付けも終わらせてから私たちはソファに座った。
・
こうして隣り合って座るのも3ヶ月ぶりーーー。
「・・・緊張するね(笑)」
「だなっ笑」
星ちゃんも同じ気持ちなんだねーーー、
そう思うと胸がくすぐったかった。
「ーーーるな、大学辞めたいか?」
「えっ?」
話は突然振られて私は驚いた。
「辛いなら編入しても良いし、やりたいことを見つけても良いって伝えてくれ、と太陽が言ってた。」
「だ、大丈夫!今のままで!」
「・・・本当に?」
「うん!一時期より落ち着いて来たし、友達も増えたんだよ?」
嘘は言ってない、本当のこと。
千景さんとかという先輩の話が噂だと知った人たちは私と普通に話してくれるようになった。
私からしたら今更感だけど、
大学にいづらさはなくなったから今は楽しめている。
「あの時ーーー、ルナが大学をやめて俺のそばにいたいと言ってくれた時・・・。」
「その話はもう・・・」
傷を舐め返されるようでイヤだったーーー。
「俺も正直に言えば同じ気持ちがあった。でも俺という存在を逃げ道にして欲しくなかった。あと・・・ルナはまだ大学2年で将来がある、それを潰したくなかったし、いつかはそうなりたいと思っていたけどまだ早いと思ってた。ーーーあの時伝えてあげられなくて悪かった。」
ーーー逃げ道、確かに私は星ちゃんのそばにいることを逃げ道として使ったのかもしれない。
「私もゴメンね、相談出来なくて。星ちゃんは私を肯定して守ってくれるって分かってた、だからこそ相談出来なくてゴメンね。」
「ーーー良いよ。一つ教えて。福岡くんに恋をしたりドキドキしたりした?」
「わたし?そんなことないけど、なんで?」
「ーーーないなら良いんだ、勘違いか。・・・ルナは俺がやきもち焼いたりしないと思ってるだろうけど、俺も人並み以上に妬くと思う。自分でもそんな感情があったことに驚きを隠せないでいるよ。」
つまり奏さんに対してやきもち焼いてくれているってことだよね?
「ーーー星ちゃんはどうして女性を遊びの道具として扱うようになったの?」
この際だから気になっていたことを全部聞いた。
「遊びの道具って(笑)ーーー俺が中学の時、姉貴が・・・」
星ちゃんは包み隠さず話してくれた。
お姉さんが男に泣かされて来たこと、
自分の目で見て来たもの全てを話してくれた。
そして遊んできた女性たちに対しても自分には触れない条件付きだったことも話してくれた。
「付き合ってた女性は何人かいるけど、本気になれなくて長くは続かなかったよ・・・ーーー。でもルナだけは、お前だけは別だ。こんなに惑わされ不安になったのは初めてで驚いてる(笑)」
ーーー真剣に話す彼を見て、嘘は言ってないとわかる。
「話してくれてありがとう。」
「過去の行いが悪いから、今すぐ全部信じろとは言わないけど・・・信じてもらえるように頑張るからさ、信じてみてもらえないかね?」
私は首を横に振った。
「ダメか・・・」
「違うよ、星ちゃん。」
「なにが?」
「ーーーわたし、星ちゃんに頑張って欲しいんじゃない。そのままの星ちゃんでいて欲しい。私のために頑張って欲しくない。」
「でも・・・」
「お互いありのままの姿で、お互いを認め合いたい、そう思う・・・」
星ちゃんは私を強く抱きしめたーーー。
そして私にキスをした。
「ーーーここに戻って来て欲しい。違約金とか全部俺が持つから、頼む・・・ルナとの時間が俺には大切なんだ。」
ーーー私はすぐに不動産屋に連絡をした。
偶然にも退去待ちの人がいて、月内に引っ越すという条件で、
違約金なしで退去する方向で話を通してくれると電話越しで言われた。
・
「ーーー泊まっていくだろ?」
当たり前に聞く星ちゃん、うん、としか言えないよ。
「ありがとう。」
星ちゃんはまた私に唇を落とした。
「久しぶりにルナを抱きたいーーー。」
強く抱きしめられた腕の中で囁かれた。
久しぶりに触れる星ちゃんの感触。
唇も頬も手も・・・
そして私を見つめる瞳が愛しい。
私はそっと彼の頬に手を添えた。
「ーーーたくさん傷つけてごめんなさい。」
「お互い様だろ(笑)」
私は彼の顕になった上半身に軽くキスをした。
暖かいーーー、
そう思った。
彼の心臓から聞こえるパクパクという定期的な音、
この星ちゃんでも緊張しているのが分かる。
大好きーーー。
どんなに傷ついてもそばにいてはダメだと思っても、
この気持ちだけはどうしても変えられない。
ーーーそして私たちは3ヶ月・・・
いや、4、5ヶ月ぶりに一つに繋がった。
それも一度じゃない、
2度3度と何度もーーー・・・。
・
それからすぐ、
私は彼と暮らすアパートに戻った。
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