#39.
ーーー今日はルナの入院の日だ。
朝起きてもため息ばかりの彼女、
俺も正直いつもの通りとはいかない。
でも治すための手術なんだからどうか頑張って欲しい。
・
これが学校だったら容赦なく休んで彼女に付き合った。
ーーーでもそれが出来ないのが社会人。
「ーーー夜、お見舞いに行く。明日は面会出来ないって太陽が言ってたから行けないけど、出来る限り行くから。・・・どうか、頑張って。」
「ーーーうん。星ちゃんも会社と試合とか色々頑張ってね。」
ーーー俺たちはいつも以上に長くて濃厚なキスを重ねて分かれた。
職場に着いても上の空の俺。
「どした?珍しく元気ねぇなぁ。太陽が休みだからか?(笑)」
「違いますよ!」
同じチームの二つ上の日下部さんにからかわれる。
「太陽は・・・妹さんの入院と手術だっけ?今日と明日休みって言ってたな。」
「ーーーですね。」
その日の俺は仕事も適当、
練習も適度に適当だったと思う。
ただ練習の時は少しだけ心配な気持ちが忘れられるから救われた気もした。
夜、面会時間ギリギリに病室に着いた。
「ーーーおそーい!(笑)」
病室に着くなり元気な声が届いた。
ーーー元気そうで何より、と言いたいが無理して元気を振る舞ってるのはわかる。
「悪い悪い(笑)ーーーみんな帰ったのか?」
「うん、お父さんとお母さんはさっき。お兄ちゃんは明日も来てもらうから早めに帰ってもらったよ。」
まだ病気が分かった時はご両親に伝えないと言ってたけど、
流石に手術が決まった時に伝えたんだと言ってたな。
ーーーだが本当に何かと忙しいお父さんで当日は来れないからと太陽に託していた。
父親なら母親なら何が何でも来てあげれば良いのに、と個人的には思うが。
当のルナがなんとも思ってないからまだ救いだ。
「なんか飲む?めちゃたくさんお兄ちゃんが買ってきたよ。今出すーーー。」
ルナがベットから立ちあがろうとした、
そしてよろめいてオレにもたれ掛かった。
「ご、ごめん・・・」
「少しこのままにしてても良いか?・・・ルナが腕の中にいるのが1番幸せだわ。」
ルナはオレにしがみつくように抱きついてきた。
「約束して。」
「ん?」
「ーーー浮気しないでよ。」
「だからさ・・・笑」
「信じてる!信じてるけどさ・・・不安なの!」
可愛いやつだなぁと思う。
やきもち焼きで、でも素直じゃなくて。
ほんと大変だけどすごい真っ直ぐだし、
愛情表現も足りすぎるくらいもらってる。
本当に愛しい存在だわーーー・・・。
「大丈夫だよ。ーーールナと出会ってから他を考える余裕もなんもないから笑)お前以上の女はどこを探してもいないと思ってるから、オレは(笑)」
素直に言ったら睨まれた。
「そんなこと言ったら・・・キスしたくなる!」
「ーーーするか?」
オレは彼女に微笑んで唇を重ねた。
軽いキスをーーー。
「絶対に治して帰って来い、ルナの居場所はオレの隣だから。」
「ーーーうん。」
俺たちはもう一度キスを交わした。
・
手術当日の日、俺は朝からソワソワだ。
昨日以上に上の空の仕事、
ただ太陽がこまめに連絡くれることで仕事に集中できる時もあった。
ルナは8時には手術室に入り、
9時からの手術が開始となったーー。
今、10時半・・・
まだ手術中だーーー・・・。
何度も何度も時計と携帯を確認する。
ーーーなにも連絡ないてことは大丈夫な証拠。
ルナは強い、だから大丈夫。
ルナの手術が終わったと連絡をもらったのは夜10時過ぎ。
ーーー長い手術だった。
太陽の話では目が覚めないと記憶のことは分からないけど、腫瘍は全部摘出できたとのことで安心したオレは1人、涙をこぼした。
安堵の涙をーーー。
良かった・・・
命が無事でよかった、心からそう思った。
そして家族でもない自分の役立たなさに、惨めになった。
・
ルナの意識が戻ったのは次の日の朝6時。
ーーー目覚めた時にオレじゃなくお前の方が喜ぶだろ、と太陽は病院と交渉して病室に夜中に入れてもらえた。
「ーーー・・・っっ!」
オレは気づいたらベットサイドで寝てしまっていて、
ルナのオレの髪に触れる感触で目が覚めた。
ハッと顔を上げると優しい笑顔でコチラに微笑んでいる彼女がいた。
俺はすぐにナースコールを押して明日の着替えをとりに行った太陽に連絡しようとした。
「ーーーまだ連絡しないで。・・・少しこのままでいて欲しい。」
酸素マスクを通してだからうまく聞こえなかったけどそう言ってる気がして俺は椅子に座った。
ーーー俺がずっと握っていた手を彼女は強く握り返した。
記憶ある・・・、俺はそう確信した。
ーーーそしたら恥ずかしさも忘れて俺はルナの前で初めて涙を流した。
正直少し不安だった。
もし目覚めた時に彼女の俺に対する記憶がなかったら、と。
「ーーーちゃんと全部覚えてるよ。星ちゃんと過ごした今でのことも出会った時のことも全部。」
ルナは俺の気持ちを察したように、俺に微笑みながら伝えた。
だから大丈夫、そう伝えて俺の涙を拭った。
「ーーーゴメン・・・」
俺はそう言って彼女の手を握りしめて涙を流させてもらった。
・
しばらくして太陽が病院に戻ってきた。
ーーー落ち着いた俺が連絡したからだ。
ルナはまた眠りについた、麻酔でボーとしているのもあると思うけど手術は予想以上の体力を使うからだと思う。
ーーールナを先生に託し、
俺と太陽は会社に向かった。
「ーーーおれ、ルナと星也はすぐ別れるって思ってた(笑)」
ーーー俺も思ってたよ。
「ーーーだろうな(笑)」
「だってクソ真面目ルナと・・・お前だよ?(笑)」
太陽は苦笑いしながらも本音を言うーーー。
「俺も・・・正直すぐ振られると思ってたし(笑)でもルナ沼っての?一度一緒にいたら離れらんねーよ、沼に落ちたから(笑)」
「ーーー意味分かんないけど、ルナのことよろしくな。」
会社に到着と同時に太陽は真面目な顔で言った。
俺が次にルナに会いに行ったのは2日後。
あんなに伸ばしていた髪の毛も手術のためにボブカットにして、頭部はまだ包帯が巻かれている。
だけど少しずつ回復していて、
酸素マスクも取れ、今は歩く練習をしていると言うことだった。
「ーーー今日ね、バイトの人たちがお見舞いに来てくれたの。それで、みんなからの寄せ書きもらった。見て、すごい嬉しかった。早く戻りたいなぁ。」
ルナは体調悪くしてからバイトを辞めることも視野に入れたみたいだけど始めたばかりのバイトを途中で投げ出したくないと言う思いが強かったみたいで、きちんと事情を話して元気になって戻る約束をしたと言ってた。
「良かったな、彼らのためにもたくさん食べて元気になろう!」
「今日は全部食べられたよ!すごいでしょ?」
俺と話す時のルナは素でいてくれる、そんな気がして俺自身も彼女と話すのが楽しかった。
ーーー俺がいられるのは1時間だけ、
練習後にどんなに急いでも到着するのは7時、
面会時間までの8時までが本当にあっという間に感じる。
「ーーー下まで送るね。」
ルナの病室は5階、彼女はベットから降りる。
「大丈夫だよ、1人で登ってくるの怖いだろ。」
「それより星ちゃんと離れる方が嫌かな・・・」
ルナは入院している方が素直な気がする。
ーーー俺は彼女を抱きしめた。
まだ繋がれている点滴の邪魔にならないようにそっと。
「ーーー薬臭いよ、わたし・・・」
「いいんだよ、頑張った証拠なんだから。ーーー明日からもまた頑張れるわ。」
頑なに俺の意見を聞かないルナは結局入り口まで送ってくれるようになった。
ーーー3日に1回、
俺が彼女をお見舞いしたのは。
それがずっと続き・・・
1ヶ月後、やっと彼女が退院した。
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