【 わたしの好きなひと 】#48. 恐怖よりも勝るもの*

わたしの好きなひと。

#48.

ーーー次の日は日曜日、
真夏というにはとてもふさわしい暑い日。
私は何かを吹っ切るかのように、
家の中を雑巾掛けからとにかく大掃除をした。

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「ねぇ、星ちゃん。」
「ん?」
今日は自宅でのんびりする星ちゃん。
今はこの前の練習試合のビデオを見ていて、
1人で改善すべき点などをブツブツ言っている。
「次の土曜空いてるよね?」
「おう、誕生日祝ってくれるんだろ?空けてあるよ。」
「ーーー良かった。」
ここ最近、そのことばかり考えていた私。
何をしたら喜んでくれるかな?
何が欲しいかな?と色々考えてんだけど、
思いつくものがあまりなくて・・・。
「日曜は出かけても良いか?なんか同期のみんなが祝ってくれるみたいだから(笑)」
「もちろん、楽しんできてね。」
キッチンから笑顔で答えたーーー。

自分と星ちゃんの飲み物を持って私は彼の隣に座る。
そんな私を見て微笑んだ星ちゃん・・・
「あとね・・・」
私は彼に少しだけ寄りかかって、伝えたーーー。
「まだなんがあるのか?」
ーーー見ているビデオを止める星ちゃん。
邪魔してごめんね、と思う。
「もし・・・もしね、星ちゃんがどうしても我慢できなくなった時・・・今の私では役に立てないから・・・その時は外でして来て良いからね。」
「ーーー他の女と?」
「ーーーイヤだけど、今はいいよ。」
思ってるようで思ってないことを口走るーーー・・・。
「本当にルナは不器用だよなぁ(笑)ーーーんなことしねーよ。そんなこと考える暇があるなら、勉強でもしなさい(笑)」
星ちゃんは笑って吹き飛ばしたーーー・・・。
私は星ちゃんが試合の動画を見終わるまでずっとそばにいさせてもらった。

そしてまた新たな一週間が始まった。
月曜日、私は久しぶりにバイトに行った。
夏休みということもありやることないから、ほぼ毎日入ってる。
実はバイト先のみんなには今回のことは話していない。
ーーー毎日バイトに行っていたわけじゃないし、
変に気を遣われるのもイヤで話してないし、
これからも話すつもりはないーーー・・・。
普通にバイトをこなして、いつものように自宅に帰る。
ただ一つだけ変化があったとするなら、
夜の時間帯のバイトを避けるようになったこと。
それくらい、かな。
火曜日、水曜日、木曜日と何事もなく毎日を平和に過ごす。
それがどんなに幸せなことか、今ならわかる。
星ちゃんは週末が誕生日だから、
誕生日週間と言って大学の友達だったり、会社の同僚にチームといろんな人から飲みに誘われて毎晩飲んで帰って来てるーーー・・・。
そのせいもあり、毎朝ギリギリまで寝ていて・・・
バイトに行く前に仕方ないから起こしてあげるようにした。

そして金曜日、今日は夕方から競合チームと練習試合を控えている星ちゃん。
「ーーー頑張るから、家で勝つように祈っててよ。」
出勤際に言った・・・。
行きたい、そう思った・・・。
行けるだろうかーーー、彼の会社に。
午後過ぎまでずっと考えた・・・ーーー。
前回の試合はまともに見ることもせず、
差し入れだけして帰ってしまった・・・。
本音はあの時もきちんと見たかった。
ーーー怖いより、見たい。
その気持ちが今の私は勝ったーーー。

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決めてからの行動は速かったーーー。
あの時、日下部さんが貸してくれたスーツの上をアイロンして紙袋に入れて返す支度。
お兄ちゃんが大好きな梅干しとおかかのおにぎり、
そしてお稲荷さんも作った。
ーーー今回はそれだけ、あまり持って行っても失礼だと思ったからね。

重い荷物を持って会社の近くに着くと、
応援に来た子たちが会社のグランドに入っていくのが見えた。
練習試合だからあまり告知しないのかなって思っていたけど、結構来るもんなんだなぁと思った。
もう試合は前半が終わろうとしていて、
今ちょうど攻撃の時でーーー、
星ちゃんが見える・・・。
それだけで胸がときめいた。
QBの彼は今どこに投げるか悩んでる時で、すぐにRBのお兄ちゃんに投げた。
数ヤード進み、次の攻撃では自分から走った。
さらに数ヤード進んで、
最後の攻撃では自分で走ると見せかけ今度はWRの日下部さんに投げてタッチダウンした。
何このチームプレイ、素敵すぎるんだけど、と思った。
ーーーそしてディフェンスと入れ替え、
星ちゃんはベンチに戻った。

私は目立たない芝生の上に座るーーー。
ーーーそこからでも十分に分かる、星ちゃんの活躍。
そして真剣な眼差しはやっぱり心が惹きつけられる。
ーーー本当に好きでこのスポーツをやっているんだなって思えた。
そんな星ちゃんの側にいられて私は幸せなのかもね、と思った。

あんなに活躍した星ちゃんの結果は残念な結果となり相手チームに負けてしまったけど、
きっと選手たちにとっては良い教訓になったんじゃないかなと思う。
ー--特にお兄ちゃんや星ちゃん、新社会人にとってはまだまだ先があるから。

さてー--、私はどうしたもんかと考える。
日下部さんに返却するスーツや差し入れをどう渡そうかー--。
というのも今日はファンサービスディというものもあったようで、
現在選手の皆さんはファンの子たちと写真と撮影したりサインをもらったりしている最中だー--。
星ちゃんもお兄ちゃんもファンの子たちに笑顔を向けて写真に応じているのが見える、
特に星ちゃんはちやほやされるのが好きだからとても楽しそうだ。
ー--ファンは味方につけておいた方が良い、と言葉をよく耳にするけど彼女としては少し不安要素もある。

「ー--もしかしてルナちゃん?」
「えっ・・・?」
一人悶々と悩んでいると見知らぬ女性に話しかけられたーー。
「初めまして、太陽くんや星也くんの同期の石田と言います、みんな薫って呼んでるわ。」
私の横に遠慮のかけらもなく座るその女性はスーツがとてもよく似合う背の高めの綺麗目の女性だった。
ーーー星ちゃんたちが言ってたように妊娠説は本当なようで、少しだけお腹が膨れているのも分かった。
「あっ、広瀬ルナです・・・」
「前に太陽くんが写真見せてくれた時に可愛い子だなって思ってたの。でね、今、似ている子がいるなって思って声かけちゃった。」
えへっと笑うその彼女はきっとおちゃめなひとなんだろうー--。
「ありがとうございます、で良いんですかね?」
私もよく分からなくて二人で笑いあう。
「ーーー星也くんとお付き合いしているんでしょ?私と彼の友達との間のことで揉めちゃったって聞いて、直接私から話したいって思っていたのよ。」
そう話す彼女は、本当に優しさの塊のような表情をしていた。
「いえ・・・私もあの時は色々あって疑ってばかりで。」
「仲直りはした?」
「ーーーたぶん。お腹の子は順調ですか?」
「ええ、とても順調よ。ーーー今は彼とも一緒に暮らしてて、もうすぐ安定期だからそしたら結婚式をするの。」
幸せそうだなって思ったーーー。
心から幸せなのが伝わって来てこちらまで幸せな気分になっちゃうよ。
「素敵ですねーーー。」
「そうそう、それより日曜・・・」
と彼女が言いかけたところで、私は突然体が震えだしたーーー。
「大丈夫・・・・?」
薫さんは私に問いかけたけど、私は目先にいる人物から目が離せなくなった。
こちらに向かってくる藍沢さんは嫌な笑みを浮かべているーーー。
あの人は言った、
星ちゃんにポジションも好きな女も奪われた、と。
私はあの時、恐怖を感じながらどこか冷静で思ってた。
ーーーこの人はきっと星ちゃんに認めてもらいたいんだろう、
それを星ちゃんを傷つけることでしか表せない可哀そうなひとなんだって。
でもそんなのお構いなしに藍沢さんはこっちに向かって笑ってくる。
ーーー怖い、そう思った。
自分で来ると決めたのに、やっぱりいざ目の前に彼がいると怖くてあの時の情景が鮮明に思い出される。
「・・・顔真っ青よ、大丈夫?あ!藍沢くん!」
そして彼女が藍沢さんに気が付いた・・・。
「す、すいません!お兄ちゃんたちを待っているんですよね?これ差し入れです、失礼します!!」
ーーー半分強引に私は藍沢さんがこちらに足を止める前に、必死で逃げた。

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速足でグランドを後にして、必死に入口付近まで走るーーー。
お疲れさま、そう言いたかったのに・・・。
結局前回と同じ、いや、今回はそれよりもひどいことをしてしまったと思った。

ーーーガシッ!!!ーーー
あと少しで正門、というところで私は捕まった・・・。
「いや・・・いやぁ・・・・!!!」
私の悲鳴にきっとその周辺にいた人たちがみんな気が付き、振り向いたーーー。
でもそれは・・・藍沢さんじゃなくて私の安心できる場所だった。
「落ち着け、大丈夫、大丈夫だから・・・。深呼吸して。」
まだユニフォームを着用したままの星ちゃんは私をこれ以上ないくらいに抱きしめた。
私は星ちゃんの言われるがままに深呼吸をして、
その間にお兄ちゃんが持ってきてくれた水で気持ちを落ち着かせたーーー。

正門は目立つーーー、
からと私はマネージャーの吉永さんの配慮で部室とは少し離れた小会議室に通された。
ミーティングなどで使うって前に言ってたね。
私は星ちゃんに抱えられながら会議室にあった椅子に座る、
どうしよう、震えが止まらないーーー。
星ちゃんは悔しいのか怒っているのか分からないけど眉間にしわを寄せて何かを考えこんでいた。
ーーーガチャーーー
そこに着替えたお兄ちゃんが入って来た。
「星也、ミーティング始まるからシャワー浴びて着替えて来いよ。ルナは俺が見てる。」
「んっ・・・分かった。」
星ちゃんは私から離れて、お兄ちゃんによろしくと言った。
「お兄ちゃん、お願いがあって。」
「ん?」
「これ・・・日下部さんに返しておいてもらえないかな?」
私は手にしていた紙袋を渡した。
「これ渡すために今日来たのか?」
「それだけじゃないけど・・・」
しばらく沈黙が続く、だけどその間もお兄ちゃんは震える私の手をずっと握ってた。
「・・・なぁ、藍沢・・・」
お兄ちゃんがその名前を呼んだだけで私は体が震えた、
その人の名前を呼ばないで、そう思ったから。
「・・・はっはっ・・・」

そして私は過呼吸を起こした。

 

すいません、あまりにも長いので一度ここで切ります♪
次回はまた明日以降に*
素敵な夢を♡
余談ですが今日から夏休み、
でもコロナが増えていて自宅から出たくない母娘はプール開き!
一ヶ月振りの自宅プールだったので、大きなクモがいて悲鳴でした(笑)
ではでは・・・Good Night♪

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