#49.
ーーー過呼吸は一般的に心に抱えている恐怖や不安などが引き金となって精神的ストレスに伴い起こると言われている。
私の場合・・・、
藍沢さんという存在自体がストレスに繋がったのかもしれない。
・
「・・・大丈夫か?」
お兄ちゃんは私を抱きしめ、落ち着け、俺たちが付いてるから、大丈夫だから、落ち着いて、とまるで自分に言い聞かせるように何度も何度も呟いた。
ほどなくして私も少しずつ息が落ち着いてきた・・・。
外を眺める、もう日が暮れていて外は暗いーーー。
あーあ、星ちゃんのファンにも悪いことしちゃったな、って思った。
きっと星ちゃんは帰ろうとしている私を見つけたんじゃないかな、
それを引き留めようと追いかけたのにあんなことになって申し訳なかったな。
「太陽、QBミーティング終わったから次RB始まるよ。交代する・・・」
星ちゃんがシャワー浴びてすっきりした顔でやって来た。
「今、行くーーー。星、今日、ルナを連れて帰ろうと思う。」
「えっ!?」
私と星ちゃんは同時に驚いた声を出し、顔を合わせた。
お兄ちゃんは星ちゃんに今、過呼吸を起こしてしまったことを伝えた。
「ルナはどうしたい?俺はこの問題は星には重過ぎると思ってる、あくまで星は他人だ。これは身内であるオレが引き取るべき問題だと思う。父さんたちにも連絡していつでも預かるって言ってる・・・」
そんな、勝手に・・・。
確かにお兄ちゃんの言ってることも一理あるというか正論に近いーーー。
でも私の気持ちは??
星ちゃんの気持ちは・・・?
「私は・・・お兄ちゃんと一緒に帰った方が良いんだろうと思ってる。」
「ルナっ・・・」
「星ちゃんと今一緒にいても苦しめるだけだって思ってる・・・」
「なんでそんな風に思うかなぁ・・・」
私はうつむいて拳に力を込めて言った。
「ーーー分かってるよ、お兄ちゃんが正論だって。それが一番良い道なんだって分かってるよ。」
「だったら親父にも伝える・・・」
とお兄ちゃんが言いかけている途中で私は遮った。
「でもね、理解していることと思っていることは違うの。お兄ちゃんが合ってる、でも私は星ちゃんと一緒にいたい。」
「ーーー頼む、太陽。俺が必ず支える、約束するから・・・ルナと離すのはやめて欲しい。」
星ちゃんは私の手を強く握ってお兄ちゃんに言った、言い切った。
・
ーーーどれくらい時間がたったんだろう。
私は星ちゃんと手を繋いでただ椅子に座っている。
会話はなし、だけど心地良いこの場所が・・・。
「ーーーお兄ちゃん、納得してくれたのかな?」
「多分大丈夫だと思うよ。何だかんだ太陽はルナの事一番だからな(笑)俺も取られないようにしないとな(笑)」
星ちゃんは笑顔で言った、
そして私を突然抱きしめたーーー。
「・・・どうしたの?」
「ーーー藍沢・・・」
今度は星ちゃんから出てきた藍沢さんの名前に私は体をビクッとさせた・・・。
その名前を聞くだけで震えが起きそうになる・・・。
「大丈夫、今は俺とルナしかいないーーー。絶対に何も起こらない。」
そして星ちゃんは私に言った。
「ーーー藍沢、なんだな?」と。
私はただ震える体を抑えながら、星ちゃんに強く抱きしめられながらも、コクンと頷いた。
星ちゃんは頭を抱えていた・・・。
多分お兄ちゃんもさっき私にそれを確認しようとした、
でも出来なかったんだね。
同じチームで、同じ同期で・・・
星ちゃんは一番疑いたくなかった人間を疑うことになってしまった。
「どうして分かったの・・・?」
私は恐る恐る星ちゃんに聞いてみた。
「ーーールナが見に来たのは来てすぐに気が付いたよ。薫と話しているのも安心した。サイン会がちょうど終わった時に様子を確認したらすげー恐怖の顔してて・・・この前の時みたいな顔で、その先を見たらそこに藍沢がいてルナは逃げるようにグランドから消えた。一人に出来ないと思って追いかけたんだよ、そしたらあの悲鳴・・・。藍沢だって確信した・・・。」
私は星ちゃんに抱きしめられながら何も言わなかった・・・。
「・・・星ちゃん板挟みで辛いよね、もう忘れて。私も頑張って忘れるから・・・」
「それじゃルナが・・・あいつに何も制裁を与えないまま忘れろっていうのか?」
星ちゃんはすごい怒ってた、
鈍感な私でも分かるくらいすごくすごく怒ってるの。
「ーーー星ちゃんが私の味方になってくれているだけで救われるよ。だから・・・」
「・・・んなこと出来ねーよ!」
星ちゃんはそう言って私から突然離れて、会議室から出て行ってしまった。
・
「藍沢!!!!!」
私も星ちゃんを追いかけた、でも時すでに遅くて彼は仲間と一緒に自動販売機前でたむろっていた藍沢さんに殴りかかった。
「星ちゃん!!!」
首を掴み、壁に押し当てるーーー。
「なんで・・・なんでこいつなんだ・・・。彼女になんてことを・・・」
日下部さん含め、その場にいたメンバーが凍り付く。
「星ちゃん!!やめて!暴力はダメ!!」
苦しそうにもがきながらも笑ってる藍沢さんーーー。
気味が悪い・・・。
私は危ないからと日下部さんに移動させられ少し離れたところから星ちゃんに向かって叫ぶ。
「答えろ、藍沢!なんで彼女に・・・」
「ーーーだった。」
「はっ!?」
「彼女のことが好きだった、星也の気持ちなんかよりずっと好きだった・・・それだけだよ。」
「好きだったら何でもして良いっていうのか?!ーーー俺の女だって知ってたんだろ?!」
「知ってたよ、最初からずっと。だからだよ・・・だから彼女を襲った。どうせ俺のものにならないなら一度くらい抱いたって誰も怒らないだろ?」
藍沢さんは笑ってた・・・。
どうしてこんな時に笑えるの?
「おまえ・・・」
星ちゃんが藍沢さんに向かって殴る・・・
「星ちゃん!」
私は必死に声を出して止めた、だけどその瞬間に藍沢さんは顔面パンチを食らって廊下に倒れた。
「ふざけるな!妹がどれだけ怖かったか知ってるか?今も怯えているの知ってるのか?あの時、日下部さんがいなかったら・・・」
そう・・・
殴ったのは星ちゃんじゃなくて横入りしたお兄ちゃんだった。
もうそこは騒動、というレベルじゃなかった・・・。
・
「私が応援なんかに来たからこんなことになってゴメンね・・・」
あの後、コーチたちが何事だと来ていろんな事情を吉永さんがすべて話していた。
そして藍沢さんとコーチ陣は他の部屋へと消えた、
きっと本当の事情を聴くためだろう。
「俺はルナがいるのを知って嬉しかったよ・・・」
「最近、星ちゃん甘いね(笑)」
「そうか?いつも俺はこんな感じだと思うけど?(笑)」
二人で笑いあう帰り道、
すごく幸せだった。
さっきまでの騒動がウソのようにーーー。
・
そして次の日、星ちゃんは23歳のお誕生日を迎えた。
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