【 わたしの好きなひと 】#43. 何が本当か・・・*

わたしの好きなひと。

#43.

川の流れを見ながら思ってたーーー。
この私の黒い感情も、
さっき聞いてしまった事情も、
全部一緒に流してくれたら良いのに、って。

「ーーーこんなところにいたのか。」
程なくして背後から聞こえる星ちゃんの声に自分でもドキッと体が跳ねるほど驚いたのが分かる。
必死で涙を拭って立ち上がった。
「・・・ゴメン。」
星ちゃんの顔を今見たら泣いてしまいそうで、
彼の前をスッと通り抜けた。
ーーーそりゃ違和感覚えるわけで、
星ちゃんはガシッと私の腕を掴んだ。
「ーーーなんで、泣いてた?」
と。

なんかーー、血の気が引いた気がした。
最悪ダメになっても、これは逃げちゃダメな問題な気がした。
「藍沢さんから聞いたよ・・・薫さんだっけ?ーーー子供がいるって。」
「ーーーああ、そのことか。なんでそこでルナが泣く必要がある?」
「いつ・・・いつ寝たの?いつ2人で会ってたの?ーーー星ちゃんの子だって・・・わたし、どうしたら良い?身を引いた方が良い?・・・子供から父親奪えない・・・」
「おい、ルナ!」
星ちゃんの響き渡る大きな声で我に返った。
「あっ・・・」
自分の口が勝手に動いていたことを思い知るーーー。
「藍沢が何を言ったのか知らないけど、オレは潔白だぞ。ーーー薫ちゃんが妊娠してるのは本当だし、その相談を受けていたことをルナに言わなかったのはオレの責任だと思う。・・・昨日の討論のことを話しているならば、お腹の子の父親がオレの大学の同級生だからだ。」
星ちゃんの話によれば偶然だったけど、
大学の時から知ってる友達の彼女と同期になった。
彼女は星ちゃんではなく友達のファンでファン交流がきっかけで付き合うようになって今に至る。
そんな中、彼女の妊娠が分かった。
ーーー妊娠が分かってから忙しいさを理由に会ってくれない、だから星ちゃんからも会うセッティング、もしくは説得をして欲しいと頼まれた。
そこは本人たちで解決して欲しいと断ったら昨日の喧嘩に繋がったーーー。
「ーーーでもあなたの子を身籠ってるって言ってたって・・・」
「ーーー知らねーし、言われてねえよ。あの人をあなたに聞き間違えたんじゃねえの?」
流石の星ちゃんもイライラしているのが分かる、
自分じゃなく初対面に近い人の言葉を私は信じてるからね。
「ーーー分かった。」
「分かってねーじゃん。全然理解してないし、信用もしてないよな。」
「じゃあ・・・私は何を信用すれば良い?過去に星ちゃんが遊んできたのは事実で、その中に妊娠させた可能性がゼロだって言い切れる?」
「ーーー今その話してないだろ。」
「言い切れるかって聞いてんの!」
「ーーー言い切れるよ。それは絶対に。」
「何で?何で言い切れんのよ・・・」
私は嗚咽を殺し、星ちゃんの胸に自分の拳を置いて問いかけた。
「ーーーそんなに信用ない?これでもルナに信用してもらおうと結構頑張ってたつもりだよ。」
頑張ってたーーー・・・?
確かにここ最近は星ちゃんからたくさんの愛情を感じてた。
ーーーでも、それって頑張ってたからなの?
相手を喜ばせたくて自分がしたいからするもんじゃないの?
「ーーー星ちゃんの過去が・・・ーーー、今私を苦しめてる。いつも私を抱く時・・・誰と比較してるの?星ちゃんをこんなふうにしちゃったの・・・誰?」
フッと星ちゃんは笑みをこぼした。
「ーーーいい加減にしてくれよ。・・・正直、毎回こんなこと言われてオレも疲れるわ。ーーーちょっと頭冷やそう、ルナも顔洗ってから戻って来なよ。」
ーーー星ちゃんは私の拳を自分の胸から外し、
私はそこに1人残された。
・・・確実に終わった、そう思った瞬間でもあった。

自宅に戻った私たちはとにかく無、その一言についた。
ーーー車中も寝たふりをしていたせいもあり、ずっと無言。
今も無言が続き、星ちゃんは寝室で何かをしている。
私はリビングで今日の片付け、
そして今はシャワーを浴びている・・・ーーー。

私はそれからの毎日、星ちゃんと顔を合わせないようにした。
彼が起きる前に家を出て喫茶店で時間を潰す、
そして彼が帰宅する前に寝るーーー。

そんな日々が数日続いて、私はまた小林先生に呼び出された。
今日は金曜日、古英語で小テストがあった。
ーーー見事にまた赤点と言えるほどの点数を取ったからだ。
今回は理解出来なかったんじゃない、
試験に集中できなかったからーーー。
「また分からなかった?」
「いえーーー・・・今回は・・・」
先生に何も言わずに大粒の涙が溢れ、慌てた先生は私にハンカチを差し出した。
そして、簡潔に先生に星ちゃんとの出来事を話した。
「ーーー思ったより重いですね(笑)確かに逆の立場だったら学校休みそうなレベルです、そういう意味では休まなかったことを褒めてあげましょうかね(笑)」
先生は微笑を浮かべたーーー。
「ーーー」
「広瀬さんがその彼とどうしたいか、まず考えてみたらどうですか?キッパリ別れられるなら同棲解消して家を出た方が良い、まだ気持ちがあるならきちんと向き合うべきだと僕は思います。ーーー向き合わないで僕みたいに後悔してほしくないので。」
ーーーそして、先生は学校にも話してないけど実は既婚者で、ある日大喧嘩をして家を出た奥さんが交通事故に遭いそれっきり入院生活になっていると教えてくれたーーー。
誰にも秘密ですよ、と言われて何だか自分が特別な人みたいで少し胸がくすぐったかった。

「えっ!じゃあ奥さんは5つも下なんですか?」
「そうですよ、広瀬さんの彼氏はいくつ?」
「ーーー4つ上かな。」
「大してわたしたち夫婦と変わらないですね笑」
ーーーそして、今わたしたちは一緒に夕飯を食べている。
金曜だし星ちゃんはどうせ飲み会だと思って、
独り身の夕飯どうし食べて行こうという話になって。
「奥さんの写真見たいです、ある?」
「ありますよ、もちろん。でも見せません、僕だけのプリンセスなんで(笑)」
意味分かんないけど、奥さんをすごく愛しているのは伝わってくるーーー。
「いいじゃん、誰にも言わないし、ね?笑」
私もちょっと乙女チックに馴れ馴れしく頼んでも却下。
「自分だけのものにしておきたい気持ちって言ったら理解出来るかな?」
「ーーーあっ、はい。」
妙に納得した自分がいたーーー。
私も、星ちゃんの写真を誰かに見せるのが実はあまり好きじゃない。
私の場合理由は似合わないとか色々な意見を言われそうで嫌だから。

「本当に良いんですか?」
「生徒からお金は取れませんよ(笑)」
「でも自分の分は・・・」
「いいから、ここは奢られておきなさい(笑)」
素直にお礼を言って店を出て駅まで歩くーーー。
金曜の繁華街はやっぱり混んでる。
先生の横を歩いていても置いてかれそうになり、
先生は私の手を引いたーーー。
「ごめんね、今だけ手を借りますね。」
ご丁寧に許可まで取ってほんの少しだけ手を繋ぐ。
ーーーその時思ったの。
この手が・・・星ちゃんだったら良かったのに、って。

先生とは反対方向だから別々の電車に乗り、
私は帰路に着いた。
ーーーえ、鍵が開いてる?
「ーーーただいま。」
久しぶりに顔を合わす星ちゃん、
やっぱりお互いに気まずさがあった。
「ーーーああ。遅かったな。」
「うん、外で食べちゃったから。ご飯は?」
「食べて来たよ。」
ーーー会話が続かなくて、
私は荷物を置いてシャワーを浴びに行った。

それにしても金曜なのに珍しくない?
何で?
聖ちゃんと話す覚悟はしていても突然すぎて動揺しすぎてる自分が風呂場にいるーーー。
それでもお風呂はいつかは出なきゃならなくて、
いつもより少しだけ長いシャワーを浴びた。

テレビの前に座る星ちゃん、
片手にはビールを持ってる。
ーーー飲んでこなかったのかな、と不思議に思う。
それと同時に彼の横に座る勇気がなくて、
私は寝室に移動したーーー・・・。

「るな、明日なんだけど・・・」
コンコンという音と同時に扉が開かれ、
少し遠慮がちに星ちゃんが顔を出した。
私は咄嗟に書いていた日記を閉じたーーー。
「あっ、明日?」
「練習試合があるんだけど、日下部さんがはちみつレモンをまた食べたいと言ってて、太陽がおにぎりを持って来いって言ってて・・・ルナに頼めと。無理しない範囲で作れたりする?・・・俺、持っていくし。」
「うん、分かった。」
ーーー私は苦笑いをこぼしながらも、その話を承諾した。
「明日は公開試合だから、同期もみんなが応援に来る。ーーーそこに薫も来るよ、俺の話に嘘がないと本人の口から聞いて欲しい。」
真剣な眼差しで星ちゃんは言ってくれたけど、
私は首を横に振った。
もう良いんだーーー・・・。
「ーーーそっか。その理由を聞いても良いか?」
星ちゃんは気づいたらベットに座ってた。
「特に理由なんてーーー・・・」
「他に好きな人ができたから、当たってる?」
彼はこちらを見て微笑を浮かべてた。
えっ、好きな人って何の話?
「何の話?好きな人なんて・・・」
そこで、ハッとした。
「思い当たる節があるだろ・・・」
今日、先生とご飯食べたお店は星ちゃんの職場の近くだった。
会社がレストランからも見えたし、
何しているのかなぁってずっと先生にも言ってた。
「ーーーゴメンね。彼は古英語の先生で、2回連続で赤点並みに取っちゃって呼出されちゃって・・・」
「それでご飯食べに行くのか?結局、ルナも俺とやってること変わんねえよ。」
何も返せなかった、
だってそれが正論だからーーー。
私は星ちゃんとうまくいってないことを理由に先生に逃げていた、
星ちゃんに責められても反論の余地がない。
「でも先生は事情があって今は一緒に暮らしてないけど結婚もしてるし・・・」
「結婚?ーーー学校の教授とか既婚者とか、もっとタチ悪いだろ・・・」
星ちゃんの顔色が一瞬で変わった気がする。
「今は先生と生徒でも、それを超えたらお前どうするつもりなんだ?ーーーもし、あの人に誘われたら乗るだろ?・・・男ってのはな、女をそういう目でしか見ないんだよ。」
「ーーー軽率だったね、ゴメン。」
「あんな楽しそうに笑ってるルナを久しぶりに見た。俺はお前を苦しめてるだけなんだろうなーーー・・・」
私は涙を止めることが出来なかった。
ーーーもう終わり、それを確信してしまったから。
星ちゃんは決めたんだ・・・ーーー、
そう思った。

嗚咽を我慢出来なくなった私は、
寝室にいてもたってもいられなく、
外に出たーーー。
何も持たずに落ち着いたら帰ろう、そう思った。

ーーーでも、事件が起きた。

・・・

夜のブランコはなんだか怖いなーーー。
2台並ぶブランコの一台に乗って、
私は星ちゃんに言われた言葉の一つ一つを思い出していた。

明らかに今回は私が悪いーーー。
BBQでは星ちゃんを信じてない発言して、
さらに今日は先生と勘違いされることをしたのは事実。
それにーーー、この前疲れるって言われたんだった。
なんかもう・・・ーーー、自分がダメすぎて笑える。
「ーーーるなちゃん?こんなところで何してるの?ってパジャマ?(笑)」
ふらふらに酔っ払った藍沢さんが公園の入り口からヘラヘラと私に近寄り始めていた。
「藍沢さん。飲み会の帰りですか?」
「そっ、俺ね、レギュラー外されたからやけ酒。」
「ーーー残念でしたね。」
「俺のポジション知ってる?」
「いえーーー。」
お酒のせいもあり藍沢さんの瞳は潤ってる。
「ーーーQB、星也と同じ。・・・好きな女もレギュラーも全部あいつに取られた。」
失恋でもしちゃったのかな、と思った。
ーーーきっとその人が星ちゃんを好きなんだな、って。
「それはなんと言って良いのか・・・」
「るなちゃんこそ何してんの?よほどのことがない限りそんな格好で、出て来なくない?」
ーーー鋭い。
普通女の子がパジャマ姿でこんなところにはいないもんね・・・。
「ちょっとケンカしちゃって・・・。」
ハッとした、そっか彼は私が星ちゃんと付き合ってること知らない・・・。
「彼氏と?ーーー俺と同じだね、ならちょうどよいよ、慰め合おうよ。」
そして、私は藍沢さんの瞳が一瞬で鋭く変わった瞬間も逃さなかった。
ブランコで手を支えていたわたしは逃げよう、そう立った。
でも藍沢さんは私の手を掴んで、公園の奥まで連れて行った。
「は、離してください!桐山さんとのことは残念に思いますけど・・・それとこれでは話が別・・・」
オオカミのような野獣のようなーーー、
そんな瞳をした藍沢さん。
「ーーーなんで分かんないの?俺の好きな子、ルナちゃんなんだよ?」
「えっ?」
その直後、彼は私にキスをしたーーー。
星ちゃんのような優しいキスじゃなく強い怖いとしか思えないキスを。
私はすぐ抵抗した、
星ちゃん以外の人とキスなんて嫌だーーー!
「ーーーなんで星也なの?あいつは君じゃなくても誰でも良いのに、どうしてみんな星也ばかり・・・」
ーーー重い。
藍沢さんは私に乗りかかったーーー。
危険、そう感じてるのに体が動かない。
怖くて動かないーーー・・・
携帯も何もないーーー。

私の抵抗なんて関係なく、藍沢さんは「恥を知れ!!」という声が鳴り響く助けが来るまで、
自己満足の世界にいたーーー。

寝室ですやすや眠る星ちゃんを見て涙が出た。
こんなことが起きるなんて私だって思わなかった。
そして先生の言葉を思い出した。
先生も家を飛び出した奥さんが交通事故にあった、と言ってた。
内容は違くても感情的に行動すると良くないことが起きるんだと。
今の気持ちを大切にして欲しい、先生はそう言った。
ーーーでも先生、わたし汚れちゃったよ・・・。
星ちゃんを裏切っちゃったよ・・・。

そんな私が星ちゃんの横に寝る資格なんてない。
ーーーだからソファを拝借することにした。

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