#03.
星ちゃんたちが教育実習を始めて1週間、
初めての週末を迎えた。
「ちょっと顔貸してよ。」
突然前日に誘われた土曜日デート。
お兄ちゃんもちょうど彼女とデートで不在、
お父さんは土曜も出勤だから暇を持て余していた私は即答でイエスだった。
「どこ行く予定なの?」
「秘密。でも動きやすい格好出来て、オシャレはいらない。そんなおしゃれでもないけどな(笑)」
余計な一言が多いと思いながら、
私はそれよりも星ちゃんと出かけられることの方が嬉しかった。
学校で毎日見掛けるけど、やっぱりそれとは違うからさ。
当日の朝、星ちゃんは自宅マンションの下まで迎えに来てくれた。
「おー、ラフな感じ!るなはそう言う方が似合ってるわ!」
長いクルクルヘアをお団子アップにして、
Tシャツにジーパンという本当に動きやすい格好を選んだーーー。
それをこっちの方が似合ってる、とは・・・
流石にちょっと凹んだけど、悔しいからそんな素振りは見せない。
ーーーだって、悪気があって言ってるわけじゃないの分かるから。
「ーーーありがとう。星ちゃんの私服を見るのも久し振りでなんだか嬉しい。」
「早く車に乗れ、行くぞ。」
行き先は分からず高速に乗り、
私は助手席からただ景色を眺めていた。
ーーー車に乗ること2時間、私たちは芦ノ湖に到着した。
駐車場を降りて一番目立つ大きな船、
ちょうど下船の時で多くの人が出てくるのが見えた。
「うわぁ、湖なんて来たことないかも!」
「えっ、初めて?!」
驚く星ちゃんを前に私は答えた。
「お父さんいつも仕事で忙しいし、休みの日は家でゆっくりが多いからさ笑」
「ーーーなら船、乗ろうか。次の船、1時間後だからそれまで散策するぞ。」
私の意見を聞くまでもなく星ちゃんは歩いて、
その辺にあったお土産屋さんから始まり最後には2人でソフトクリームを分けて食べた。
すごくすごく幸せで楽しい時間なんだけど、
ずーと星ちゃんの携帯が鳴ってるのに私は気づかないふりをしていた。
ーーー電話に出たらこの幸せな時間が終わってしまう気がして。
あくまで表現上は彼氏彼女の私たちだけど、
星ちゃんの中で私は妹的な存在に変わりはないことはこれだけ一緒にいたら分かるからそれが終わってしまいそうで言えなかったーーー。
「アイス美味しかったねーー!もう船の時間?」
「ーーーあと15分だからそろそろ向かうか。」
「楽しみだなぁ、船!屋上デッキに行きたいなぁ、風に当たりたい(笑)」
「どうぞどうぞ、お好きなように(笑)」
チケットを購入して乗船する。
ーーー道順に行くと地下だったけど私はあえてそこを避けて屋上デッキに向かった。
屋上デッキには船長さんのレプリカも置いてあって記念撮影も出来る。
周りを見てみると家族写真を撮ってる人が多くて微笑ましかった。
「ーーー羨ましいか?」
「ちょっとね。わたし、お母さんの記憶ないから4人で旅行に来たとかないからさ笑 でもお父さんが近場でもたくさん連れて行ってくれたし満足してるんだけどね!それでも時々お母さんはどんな人だったんだろうって思ったりすることはあるけどね(笑)」
デッキの手すりに両腕をかけ湖を見ながら星ちゃんに答えた。
「ーーーいつか俺がルナを母親にしてやるよ(笑)」
「・・・遠慮しておきます(笑)」
「うわぁ即答だし(笑)それにほんと、素直じゃねえよな(笑)かわいくねぇ笑」
ーーー私なりの強がり。
そりゃ大好きな星ちゃんと一緒にって思うことは最近多いけど、
それを望んでしまったら女癖がそもそも悪い人だから不安になってばかりになりそうで怖い。
それにあと半年で私たちの関係は終わる約束だから。
「ーーー何で今日ここに連れて来ようとしたの?」
普段はめんどくさいからと遠くに出かけようとしない星ちゃん。
だから今日こんなに遠くに来たことが不思議で仕方なかった。
「ここ最近のルナを見てて元気ないと思ったからさ(笑)」
えっ、と驚きを隠せない私に星ちゃんは続けた。
「実習の合間に時々見掛けたけど何となく無理して笑ってる気がして気になったんだよ。柄にもないことしてるって自分でも恥ずかしいわ(笑)」
自分の頭をくしゃくしゃさせながら話す星ちゃんは照れ隠しをして来てその気持ちが私は嬉しかった。
ーーーすごくすごく嬉しかった。
だって会えてない時でも私のことを考えてくれていたってことだから。
「星ちゃんは私のことが大好きなんだね(笑)」
ーーー妹としてね、とは言わなかった。
「何だそれ(笑)意味不明なんですけど(笑)」
それからの会話は少なく、
ただ船上デッキから大きな波立つ湖を2人で眺めた。
この時間が私の気持ちを落ち着かせる。
目をつぶって波の音だけを聞く。
心地よい時間だーーー。
唯一気になるのは星ちゃんの携帯からなるバイブ。
「星ちゃん、朝からずーと携帯なってるよね?そろそろ出たら?」
「ーーー大した用事じゃないし大丈夫だよ。」
少し視線を逸らした星ちゃんを見て、女性からの電話なんだってすぐに分かった。
「星ちゃんにも付き合いあるし私、何も言わないし今までも言ってないよね。ーーー向こうで飲み物を飲んでるから電話終わったら教えてね。」
少しだけ冷えた目で冷えた声で彼に伝えた。
ーーー出てもらわないとこのままずっと電話が鳴り続けるのを気にしてしまう自分がいて、
それが嫌だったの。
「待たせてゴメンな。」
待つこと15分以上、やっと星ちゃんが戻って来た。
「ぜーんぜん。なんか飲む?」
「いーねー。オレはコーヒーで。」
「大人だねぇ(笑)あっちに撮影スポットとか沢山あって撮影して来ちゃった。」
ほらっと、携帯の写真画面を彼に見せた。
「おー、本当だ!これ飲んだらもう一度付き合ってよ。」
「いーよー。一緒に撮ろう!」
少し休憩してトリックアートみたいな撮影スポットで数カ所撮影を楽しんでいたら、
あっという間に芦ノ湖に船が戻って来ていた。
あっという間の45分の船の旅は想像以上に楽しく気持ち良いものだった。
「本当にありがとう!すごい気持ちよかった!」
「喜んでもらえて来た甲斐あったな(笑)それより腹減った(笑)なんか食いに行こ!」
腹が減っては戦はできぬ、とは星ちゃんのことであって彼はお腹空くと突然元気がなくなる。
私たちはすぐ近くにあった蕎麦屋に入った。
これまた美味しい手打ち蕎麦屋で、
星ちゃんに関しては追加注文するくらいだった。
「ーーー行きたいところある?」
「星の王子さまに行ってみたい!あっ、でもまた今度でも良いし・・・」
「ほら出た、遠慮のルナちゃん(笑)遠慮はいらねーっていつも言ってんだろ(笑)」
「ーーーゴメン。なら星の王子さまに行きたい。」
「お安い御用で。」
ーーー星ちゃんは文句も言わずに車を走り出してくれた。
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