#46.
目の前にいるルナが別人みたいに見えるーーー。
叫んだと思ったら・・・
そのまま意識を失った。
ーーー多分その場にいたオレと太陽が思ったことは同じだ。
・
「ーーー日下部さんは知ってたんですか?」
俺たちはルナを寝室に寝かせてから三人で話し合ったー--。
「・・・あの日、オレが止めに入らなかったら大変なことになってた。ーーーオレからはそれしか言えない。」
「それっていつですか?」
「ーーー練習試合の前の日、だな。」
オレは頭を抱えたーーー・・・。
オレだ・・・ーーー。
オレのせいだーーー。
「ーーーあの日、ちょっとしたことでルナと討論したんです。BBQの日からちょっと彼女の不安定が病的で、オレも疲れ切ってて言い合って、出て行った彼女を追いかけることもなくそのうち帰ってくるだろうと、普通に朝を迎えたんです。ーーーどんな気持ちで試合に差し入れ持ってきた・・・」
「ーーーお前のせいじゃない。オレがもっと妹を気にかけておくべきだった。お前に甘えていたんだと思うーーー。」
太陽はそう言ったけど、
違う、責任はオレにあるーーー。
絶対にオレが悪いんだーーー・・・。
どんなに疑われてもきちんと薫のことを説明するべきだったし、
直接友達にも会わせるべきだったのかもしれない。
ーーー俺が余計なことを吹っかけて、余計なことを言わなければ彼女が家を出ることもなかった。
ー--太陽が自宅に戻るとき、ルナを連れて帰ろうとした。
「俺が面倒みるよ、俺の妹だから。親父たちのところにルナを置いても良いしそれはこっちで・・・」
「良い、俺がこのまま彼女と一緒に住む。」
「それじゃお前が辛いだけだろ・・・」
太陽は俺の心配をしていたけど心配ご無用。
「覚悟してるよ、これを招いたのは自分の責任だから責任は取る、それだけの話だから。」
ー--どんな状況になっても彼女を自分の近くから離すことだけは受け入れなかった。
・・・いや、受け入れたくなかった。
・
太陽たちが帰ってから何時間経過しただろうー--。
俺は彼女の身に何が起こったのか、相手は誰だったのか・・・
色んな想像をしたけど、まったくもって思い当たる節がなかったー--。
それほど俺は・・・ルナに甘えていたんだとすごく反省した。
「ー--お兄ちゃん帰った?」
寝室からそっと出てくるルナの声にハッとした。
「帰ったよ、また明日様子を見に来るっていうから毎日来るなって断っておいたわ(笑)」
「ー-ーありがとう。」
ルナはどこに座るべきか悩んでいる様子だったーーー、
目をキョロキョロさせてオドオドしている。
「・・・コンビニ行ってビールでも買ってくるよ。何か欲しいものあるか?」
「・・・かないで。」
「えっ?」
「一人で置いてかないで・・・」
自分なりに気を利かせたつもりだったけど、俺は逆に彼女を不安にさせてしまった。
ー--女心は難しいな、と心底思った瞬間でもある。
「悪い、一人になりたいと思って・・・。何やってんだろな(笑)」
ルナは大きく深呼吸をしてゆっくり歩いて俺の座るソファの隣に座ったー--。
「無理すんなー--。なっ?」
距離を空けた俺に、ルナは少し寂しそうな表情をした。
そしてー--・・・そっと手を伸ばして俺に触れた。
その彼女の手は・・・すごくすごく震えていた。
「ゴメンー--、今はこれが限度。でも・・・星ちゃんが嫌とかじゃなくて、分かってるんだけど・・・」
「ー--大丈夫だよ、ゆっくり進んでいこう。」
・
あれから数週間が経過したー--。
ルナは少しずつ元気を取り戻していると思う。
俺と彼女の間に元通りの生活はまだ出来ていないけど、少しずつ笑顔が増えてきた。
太陽や日下部さん含め、晴菜ちゃんだったり大学で知り合ったという希ちゃんカップル、
そして小林先生など色んな人に支えてもらっているからだと思ってるー--・・・。
「ー--どうか彼女のことをよろしくお願いします。」
「どうやったらあんなネガティブになるのかと話を聞いて思ってはいましたが、想像以上のイケメンなんですね(笑)ー--そんなあなたに愛されている自覚をもっと持って欲しいですね(笑)」
希ちゃんカップルがルナを訪ねてきた時、小林先生も一緒だった。
全く授業に出なくなって心配で一緒に来た、と。
そして俺は初めてこの先生に会ったー--・・・。
ルナが友達と話している間に俺はこの先生と話をさせてもらった。
奥さんが入院中であることも、ルナの相談を受けていたことも、
やましい関係ではないことも、今でも奥さんを愛していること、
ルナに似たような妹がいるから彼女を妹のように勝手に思っていることー--。
小林先生は自分の思いをすべて話してくれた。
だからー--、俺も討論した原因が二人の楽しそうな姿を見たことを正直に話した。
彼は笑って、ありえませんから、と言った。
例え下心があったとしても広瀬さんはあなたのことがすごく大好きだから受け入れません、と。
ー--あの日を思い出せば、人生で初めて嫉妬という感情を覚えた瞬間でもあったと思う。
今までいろんな人と付き合ってきたけど、
相手が誰と出かけようが連絡なかろうが気にすることは一度もなかった。
それが・・・このざまだ。
ルナを好きになって彼女しか見えなくなって・・・
そしたら彼女のすべてを知り尽くしたいと思った。
ー--彼女だけは裏切らない、そう思っているのに実際に異性と楽しそうにしていたら嫉妬心が爆発する。
ー--・・・女々しいにもほどがあると思って俺は苦笑いがこぼれた。
でも小林先生はそんな俺を認めてくれた。
男だって人間ですから、と。
なぜ自分の感情をこの人に話したのか分からないけど、話しやすいんだと思うー--。
人の感情を読み取るのが上手で、聞き上手、そう思った。
・
「先生と何を話していたの?」
「ー--ルナの復帰後の大学の様子とか?その他もろもろ(笑)」
「なんか変なこと言ってた?古英語苦手だから・・・」
「授業の事なんて何も話してないよ、だから言ってない(笑)」
「えっ・・・」
俺はそう言って彼女の笑顔にほほ笑んだー--。
嬉しいんだ、こうして笑いかけてくれる君を見れることが。
少し、少しずつだけど彼女の心は・・・
少なくとも俺を含めた身近な人に対しては元に戻ろうとしている、そんな気がした。
「えっ・・・」
その証拠として、彼女は就寝前に俺の隣にくっついて手を繋いで来た。
「ー--大丈夫、星ちゃんなら大丈夫だから・・・今日だけでもこうして寝ても良い?」
「無理してないか?」
「してるように見える?」
おどけた笑顔を見せた彼女に、胸に熱が上がるのが分かった。
あの日から今日までベットは同じでも家庭内別居の夫婦のように距離を空けて寝てた俺たちー--。
久しぶりにこうして隣に一緒に眠る・・・---。
それだけのことがこんなにも嬉しいんだな、
俺もルナ沼から抜け出せないな、と苦笑いがこぼれた。
・
彼女が眠りにつくのを見守って俺は隣に眠る彼女を軽くそっと一瞬抱きしめた。
「ー--ありがとう。」
側にいてくれて、笑ってくれて・・・
全てに感謝を込めて彼女に伝えた。
ー--そして俺も眠りについた。
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