【 わたしの好きなひと 】#47. もう一度・・・*

わたしの好きなひと。

#47.

8月も半ばになり毎日うなだれるような暑さに気力を失っている。
ーーーでも8月は星ちゃんのお誕生日がある。
私はーーー・・・何をして祝ってあげようか、
今毎日そのことだけを考えて過ごしてる。

「ーーーただいま。」
そして、今日、彼は海へ行った。
いや、毎週のように行ってる。
この前は大学の友達と、その前はチームメイト、
そして今日は同期のみんなとーーー。
めちゃくちゃ夏を謳歌している。
だから今の星ちゃんはーーー、真っ黒だ。
「おかえり、楽しかった?」
「ーーーおう。はい、お土産。」
「えっ、何?」
「ここのシュークリーム、好きだろ?」
私と星ちゃんもだいぶ距離が縮まった。
ーーーなんと言うのだろう、少しずつスキンシップも取れるようになった。
外に行けば手も繋げるようになったし、
一緒に隣り合わせに座り寝ることが出来るようになった。
ーーー当たり前の生活が少しずつ出来てきている。
「わぁ、ありがとう!夕飯後のおやつの時に食べようかな。」

星ちゃんがシャワー浴びてる間、私は夜ご飯の支度を始めた。
冷蔵庫の中身を見て、何が作れるか悩んで携帯で調べる。
ハンバーグかカレーか、唐揚げにしようと思って星ちゃんの意見が聞きたくて洗面所に行った。
「うわぁ、ビックリした・・・」
「ご、ゴメン!」
扉を開けたらちょうど彼が着替えてる途中で、
めちゃくちゃ驚いていることに私は笑った。
ーーー真っ黒に焼けた綺麗な肌、
鍛えられている綺麗な体のラインがしっかりと目立つ。
一瞬だけど星ちゃんの生の体を久しぶりに見た。
ーーー見た瞬間、私の体が熱を持ったのを感じた。
あっ、わたし・・・
星ちゃんに触れたい、そう思ってる。
出来るかどうかは別として、自分が彼に対してそう思えたことが嬉しかった。

星ちゃんが選んだのはハンバーグ、
だから私はご飯もピラフにして洋食セットを作った。
美味しい美味しいといって、
がっついて食べる星ちゃんーーー。
子供かよ、と思った(笑)
「美味しいーーー!やっぱりここのはマロンが1番!」
そして先ほど星ちゃんが買ってきてくれたシュークリームを食べる私たち。
本当に滑らかだけど濃厚で、ここのはいつ食べても美味しい。
「ーーーそういや、今日ナンパされたよ(笑)」
「えっ!!」
最近、私は自分からあえていろんなことを聞かないようにしている。
星ちゃんに迷惑かける、ってのもあるけど。
それ以上に聞いて不安になって自分の心が壊れるのが嫌だったから。
「ーーー何もない、何もない(笑)一応報告はしておく・・・」
でもね、聞かなくなったからなのかな。
星ちゃんから言ってくるようになったんだよ。
「やっぱりモテる男は違うねぇ、毎週ナンパされてるよね笑」
「いつでもお供大歓迎だからな(笑)」
何度も一緒に行こうと誘ってくれる星ちゃん、
でもまだ私はそこまでは行けないでいた。
「私の美ボディに惚れちゃうよ(笑)」
「アホか!(笑)」
こうして星ちゃんとその日のことを話す時間が好き。
笑い合える時間が好き。
ーーー星ちゃんの隣にいることがすごく好き。
私は床に手をついていた彼の上に自分の手を添えた。
えっ、と一瞬私を見た星ちゃん、
でも何も言わずにその状態を保ってくれていた。
細くて長いーーー、
本当に全てが綺麗な作りをしている星ちゃん。
この大きな手に何度助けられたんだろう、
何度拒否しようとしてしまったんだろう、
何度私を抱きしめてくれたんだろう。
ーーー今、隣にいることが当たり前だと思ってはダメだと教えてくれたのも星ちゃん。
「ーーー星ちゃん、ありがとう。」
大好きの代わりにたくさんのお礼を伝えるーーー。
感謝しても仕切れないほどのものを聖ちゃんはくれた。
こんな不安定でわがままな私にいつも愛をくれた。
ーーーだからありったけのありがとうを今伝えたい、そう思った。

私は最近では慣れた星ちゃんとの時間を寝室で使うーーー。
セミダブルの大きくもなく小さくもないベットに並び、
夏なのにくっついて手を繋いで寝るのが習慣になった。
横になりながら話すこの至福の時間もスキ。
私を見下ろしながら楽しそうに話し、
私と視線を合わせて話してくれる彼が好き。
ーーー全てが大好き。

「どした?」
私は自分を見下ろす星ちゃんに視線を向ける。
「ルナ?」
私は勇気を出して星ちゃんに抱きついたーーー。
久しぶりの感触、
硬いけど優しい体、
とくんとくんと聞こえる星ちゃんの心臓の音。
ーーー怖さなんてなかった。
ただドキドキしていた。
だって大好きな人だもんーーー。
でも久しぶりで星ちゃんは驚いていたね。
戸惑ってたの、知ってるよ笑
「ルナ、少し震えてる。ーーー無理すんな・・・」
「星ちゃん・・・」
「ん?」
「ーーー私の話を聞いてもらえる?」

あの日からきっとあの日にいた全員が何が起きたのか私の口から話すのを待っていたんだと思う。
ーーーこんなに時間かかったけど、話す勇気が出たよ。

「ーーーああ。」
星ちゃんの拳に力が入ったのが分かった。
ーーー怖かったんじゃないかな、と思う。
私はあの公園で何が起きたのか、全てを話した。
包み隠さずすべてを。
「もしあの時、あの場所に日下部さんが来なかったら・・・私は最後まで・・・。」
ーーー遠くを見ながら私は言った。
「ーーー裏切ってごめんなさい。汚れてごめんなさい。」
ーーーでも星ちゃんからの反応がない。
目をつぶって手を繋いでない反対の手をおでこに乗せてる。
・・・まさか、寝てる?
「ーーー寝てる?」
その私の問いかけにはすぐ反応が来た。
「こんな話をされて寝るわけないだろ・・・。ちょっと待って、今ね、怒りを必死に抑えてんの。そいつに・・・一つ教えて、オレの知ってる人?それとも通りすがりの人?」
ーーー私は星ちゃんたちの人間関係を壊したくなくて和えて相手の名前は伏せた。
「ーーー知ってる人、だよ。」
「日下部さんも知ってるってことは・・・会社の人間・・・チームの人間!?」
私の答えなんて聞かずに、表情で分かったんだろうね。
彼は頭を抱えるようにマジかよ・・・と言った。

「ーーー話してくれてありがとう。辛かったのに、思い出させてごめんな。」
ーーー少し落ち着いてから星ちゃんは私に言った。
「怒らないの?」
「オレが?ルナに?」
「ーーー1人で勝手に出て行って、日下部さんが来なかったら・・・」
「・・・ルナの意志じゃない。それに1番辛かったのはルナだ。お前は汚れてもないし裏切ってもないんだよ、余計なこと気にすんな。」
冷静に私には伝えていたけど、
必死に感情を殺していたねーーー。
私にはすぐ分かったよ。

「星ちゃん・・・私を抱きしめて欲しいの。」
「ーーー良いのか?」
「うん。」
彼はそっと私を抱きしめた。
トクントクン、星ちゃんの鼓動の速さが聞こえる。
あーーー、緊張してるんだな。
私たちは見つめあって付き合いたてのカップルのように恥ずかしくて笑った。
そして私は星ちゃんに唇を重ねたーーー。
「ルナ・・・」
「不安なの、このままこうやって触れられないのかなって。」
私はまた唇を重ねたーーー。
「ルナ!震えてるだろ、やめておけって・・・」
「私が最後にしたキス知ってる?星ちゃんみたいな優しいキスじゃなくて欲望だけで落とされた強くて痛くて苦しいキスだった。それが最後なの、キス・・・異性と触れ合うことがこんなにも優しくて美しい、星ちゃんと触れ合うことが幸せなんだって思い出させてよ。」
自分が大胆な行動に出たことも、
震えていることも知ってるーーー。
でもそれ以上に星ちゃんの愛を感じたかった。
ここを乗り越えなければ先がないと思ったの。
「ーーー辛くなったら言えよ、それが約束。」
彼は私を受け入れてくれたーーー・・・。
上から降ってきたキスは相澤さんとは全然違くて、
本当に優しいキスだった。
キスだけでとろけてしまいそうな、そんな優しいキスだった。

でも結局最後までは出来なかった・・・。
星ちゃんがあの人の顔に見えてしまって震えを抑えることが出来なかった。
ーーー自分から提案して最低だと思う。

「ごめん、私最低だね・・・」
自分だけ気持ち良くなって星ちゃんに我慢させて最低だと思う。
「ーーーよく頑張ったと思う。それに時間はまだたくさんある、焦らず進もう。」
なんでそんなに優しいんだろう。
ーーー自分の気持ちとできない不甲斐なさに私は星ちゃんに抱きつきながら涙をこぼした。
そんな私を包み込みながら、頭を撫でていた星ちゃん。
ーーー気がついたら私たちは朝を迎えていた。

 

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