#04.
程なくして私たちは星の王子さまミュージアムに辿り着いた。
外観は壁で覆われてあまり分からないけど、
中はとても可愛くて西欧に旅行に来た気分になれた。
・
「見て!このお城、まるで美女と野獣みたいじゃない?」
「ーーーゴメン。美女と野獣見てないから分からん(笑)」
「そうだよね、ゴメンゴメン!」
奥に進むと教会もあったり、スタンプラリーがあったり。
ライブラリにカフェに・・・
とにかく短時間でも思う存分楽しめるミュージアムだった。
それに隣接されているレストランではランチにはオムライスやカレーなどがあって、
星の王子さまをモチーフにして可愛らしかった。
私たちは食べてないけどメニューに載っていて、
今度ランチに来ても良いねって話をしていたの。
ーーー楽しい時間はあっという間。
「ーーーそろそろ帰ろうか。混雑しても困るし、太陽に怒られるのも嫌なんで(笑)」
「うん、運転ごめんね。」
「ノープロブレムっしょ。」
また車を2時間弱走らせ、星ちゃんの住むアパートに着いた。
「車を置いてからルナの家まで送るよ。」
「えー、近いし1人で帰れるんですけど(笑)」
「ひとつ教えてやる。彼氏がそう言ってくれてる時は素直に従ったほうが良いぞ(笑)」
「ーーー分かったよ。」
こんなやりとりが車内の中で行われ、
私は星ちゃんの言葉に甘えることになった。
・
「るな、ここで待ってて。今、荷物置いてくるから。」
「うん。」
少しだけ購入したお土産を手にしていた星ちゃんは荷物を置きに部屋まで戻る。
ーーーその時に聞こえた。
星也!と叫ぶ大きな声が。
ふと声の方を振り返るとその女性が星ちゃんに抱きついたところだった。
驚く星ちゃんも引き離そうとしてるのが分かったけど、その女性は引き離されてもしがみついていた。
私はーーー、呆然とその光景を見ているだけだった。
自宅を知ってる時点で、きっと頻繁に来ていた女性なんだと思う。
それにこの人だけじゃないと思う、
星ちゃんはきっと女友達と今も結構遊んでると思う。
ーーーでも私にそんなこと怒る権利ないんだよね。
キャーキャー外にいるとうるさいから、
とりあえずその女性を招き入れる形を取った星ちゃん。
私はそれを見て自宅の方に歩き出した。
ーーー別に1人で帰れるし。
・
「るな!!」
星ちゃんと私の家は歩いて15分という近い距離にある。
大学に入学する時にお兄ちゃんの近くに住むと突然星ちゃんが言い出したのであって、決して私が頼んだわけでも何でもない。
時期もかみ合わないしね。
「あれ、星ちゃん。どうかしたの?」
私を追ってきたのか息を切らした星ちゃんが走って私の腕を掴む。
「どうかしたのじゃないだろ・・・下で待ってろって言ったはずですけど?」
「だって来客あったみたいだし取り込み中だったようだから時間かかりそうで、近いし帰ってしまえって思ったんだけど。」
私の返事に彼は釈然としない様子だった。
「ー--送るよ。」
自宅までのほんの数分、私たちは無言で隣り合わせに歩いた。
・
週が明けて月曜日、私は担任の元に急いだ。
大学、専門学校、就職、ありとあらゆる可能性を見出したかったから。
でも先生はもう一度ピアノ推薦について真剣に向き合って欲しいとも言ってた。
放課後も借りた資料に目を通しても自分のやりたいことが分からない。
ー--私にはピアノしかないことくらい、分かってるんだよね。
頭のどこかでは分かってるんだよね・・・。
だから私は気が付いたら音楽室のピアノの前に座ってた。
目をつぶって深呼吸をするー--。
楽しく笑顔で演奏する自分を想像するー--。
目を開いて鍵盤に手を乗せた。
弾こうとすると手が震えて、弾くのが怖くなってしまった。
こんなんじゃみんなの期待を裏切るだけ、
ピアノ推薦なんて貰えるわけないんだよー--。
悔しくて悲しくて私はその場で大粒の涙を流した。
しばらくして私は教室に戻った。
ー--ピアノの道は絶望的、だったら自分に向く進路を決めるしかないから。
「ー--もうすぐ18時になるぞ。」
「あっ、すいません!今、帰りますー--。」
見回りの先生に見つかって、私は資料をカバンに入れて下駄箱に向かった。
帰りたくないなぁ・・・。
今日はそんな気分だ。
「るな、まだ学校にいたのか?」
「あっ、お兄ちゃんと・・・せい・・・あっ、星也先生とさつき先生。」
「俺たちももう帰るから、一緒に帰るか?」
「・・・ゴメン。」
お兄ちゃんと星ちゃんの顔を見たらまた涙が出そうで、
私は咄嗟に走り出した。
自宅に戻ってお兄ちゃんに夕飯に呼ばれても部屋から出ることが出来なかった。
そしてー--、星ちゃんからの何度かの着信も初めて拒否した。
・
「昨日はごめんね。もう大丈夫だから。」
朝食時に会ったお兄ちゃんに昨日の夜のことを謝罪した。
お兄ちゃんは私から発信しない限り基本的には追及してこない。
今回も追求して来なくて逆にそれが救われた。
一方の星ちゃんはそうはいかないーーー。
彼は納得いくまで話し合うタイプの人間だから。
「昨日はすいませんでした。もう元気です!」
実習中の平日は特に外で会うのが難しくて、
だから私は普通に生徒が話すように星ちゃんに話しかけた。
3年の女子が話してるように話せば違和感ないはずだもん。
「ーーーもう大丈夫?」
「ありがとうございます。それだけ伝えたかったので。」
そのまま会釈をして3年の校舎に戻った。
・
「英文科に進みたい?」
「はい、今更推薦を狙っていません。11月の入試で頑張ってみようと思います。」
本当は就職が濃厚だったけど、
お父さんが絶対に反対すると思った。
だから私は将来的に使えそうな英語の道に進むことを決めた。
ーーー英語も得意科目だし、と思って。
もう迷わない、悩まない、泣かない。
そう決めたから。
「広瀬、まだ時間あるか?今から推薦できる大学もあるから一緒に見てみようか。」
私の担任の吉谷先生はとても親身な先生で生徒からの信頼も厚い人。
私の進路のこともすごい心配してくれる。
こうして放課後時間を気にせず一緒に調べてくれたりもする本当に良い先生。
私は先生が出してくれた椅子に座って、ずーと一緒に英文科のある大学で今から推薦が間に合う大学を調べた。
「ここは広瀬の家からだと遠いと思うぞ、一人暮らしの予定は?」
「ないです。」
「じゃ、ダメだな。ーーーこっちは新規校舎設立中だから綺麗だろうな、候補にしよか。」
「ーーーこっちは?この学校はどうですか?家からも1時間だし、女子大だから私に向いてると思うのですが(笑)」
「広瀬、男子嫌いだっけ?」
「嫌いじゃないけど得意でもなく(笑)」
「ここも候補にしておくか。」
そうこうしてる間に2時間が経過、
私はお兄ちゃんに声をかけられた。
「取り込み中すいませんが、あまり遅くなると父が心配するので妹と一緒に帰っても良いですか?」
「おー、広瀬兄!悪い悪い、遅くなっちまったな。お兄さんと帰ったほうが安心だ。」
「先生ありがとう。また明日・・・」
「おう!明日までに調べられるものはやっておくよ。とりあえず一安心だな。」
私は先生に手を振ってお兄ちゃんと自宅に戻った。
ーーー星ちゃんももちろん一緒に。
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