【 わたしの好きなひと 】#67. 思い出の地で・・・*

わたしの好きなひと。

#67.

桜の満開の4月、
私は大学3年になった。

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星ちゃんとの暮らしは恋人から同居人になったような雰囲気をあの日からずっとしている。
勝手に出ていかない、約束したから理由なしに出て行くことはしなかった。

就活も本格的に始まれば私も忙しくなり、
多忙の毎日を送っているーーー。
ピアノへの道に踏ん切りがついた私は、
今何がしたいのか途方に暮れている最中。

「ーーーアメリカに来ないかって誘いを受けた。」
そんな矢先ーーー、
ある日の夕飯の時に彼は言った。
スーパーボールみたいな大きなチームじゃなくアメリカの中でも格下のチームだけど、
本場でやることで力は上がるんじゃないかと監督に念を押されたと。
ーーーいつかはそんな日が来るじゃないかと思ってた。
「凄いね、少しずつ本当に夢を叶えているね!いつから?」
「まだ先だけど9月って言ってたかな・・・」
「凄いなぁ、楽しみだねぇ。頑張ってね!」
私は笑顔で伝えてあげたーーー・・・。
「まだ行くかどうか悩んでる。」
「どうして?せっかくのチャンスなのに行かないのは勿体無いよ!」
「どうしてって・・・国を超えての遠距離になるんだぞ?耐えられないだろ?」
星ちゃん、私の描く未来と星ちゃんの描く未来は違うのはこの前の大げんかで分かったよね。
その前から私は彼との未来を夢見てしまうけど、
星ちゃんは現実をいつも見ていたーーー。
見ている方向が違うこと、分かってたよね。
「じゃあさ、私たちは9月で終わりにしようよ!」
「はっ?」
「そしたら星ちゃんも何も気にすることなく渡米出来るでしょ?だから引き受けないとダメだよ!」
「ーーー本気で言ってるのか?」
「ーーーうん。あと半年間、よろしくお願いします。」
私は彼に頭を下げたーーー。
「悪い・・・頭冷やしてくる。」
納得出来ないのも、理不尽なこと言ってるのも分かってる。
でも星ちゃんがそばにいたら私は強くなれない。
私が側にいたら星ちゃんがダメになる、私は彼を壊してしまう。
でも大好きだから自分から離れることができない。
物理的に離れるこのチャンスがあるなら、
それを利用する、そう思っただけなの。
その夜、星ちゃんは朝方に帰宅した。

次の日の土曜、私は初心に戻りたくて星ちゃんと初めてデートした海に来ていた。
暖かくなってきているとは言え海辺はまだ肌寒く、
湿気も多くて髪がバサバサになる。
ーーー プルルル ーーー
「はい、どうしたの?」
昼下がりの2時、星ちゃんから着信を受けた。
「ーーー今、どこ?」
「星ちゃんと初めてデートした海に来てるよ。」
「何でそんなところ・・・今から行くから絶対に動くなよ。」
何か焦ってる様子の星ちゃん。
「どうしたの?何かあったの?」
「ーーー何もねえよ。起きたらいないしビビっただけ。」
「ーーーじゃあ帰ろうか?」
「そこで何してんの?」
電話で会話しながら、彼が支度しているガチャガチャと言う音が聞こえる。
「付き合った当初のこととか色々思い出していた、忘れないようにって(笑)」
「やっぱ今から行くわーーー、待ってて。」
ガチャっと電話を切られ、
私は近くの喫茶店で紅茶を頼んだ。
1時間は来ないだろう、そんな時間、外にいる自信はないから中で待つことにした。

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「ーーーるな」
本当に1時間でやってきた星ちゃん。
「本当に来たんだね(笑)見て、ここの海の家とか変わってないよね(笑)」
付き合ってから一度も一緒に来てない。
「遠くてあまり来ないからな、ここは・・・」
「うん・・・ーーー。懐かしいね、あの頃はさ、星ちゃんに振り向いてもらうので毎日必死だった笑」
「ーーー今は?」
「今は何だろう?ーーー星ちゃんを忘れる努力するのに必死かな(笑)そのために来たんだし(笑)」
「ーーーそんな努力するくらいなら・・・」
「前に星ちゃん言ってたよね、私に溜め込むようにしてしまったの自分のせいだって。」
「言ったな。」
「それ、違うよ。私がただ星ちゃんのそばにいたくて、迷惑や心配かけたくなくて言わなかった、それだけのことだから。」
「そばに居たいと思うなら・・・」
星ちゃんが何を言いたいのかは分かる、でも・・・。
「星ちゃん、私ね、星ちゃんとの結婚や子供を夢描いてた。」
「ーーー俺だって考えてないわけじゃ・・・」
私は首を横に振った。
「もういいの。私が思い描くような未来はきっと星ちゃんは幸せにならないし望んでない。・・・私は今すぐ一緒になりたかった。この先も星ちゃんのそばに居たら苦しめてしまう、あなたの才能を潰してしまう。だからアメリカの話が出た時、ホッとした。ーーー解放してあげられるって思ったよ。」
「ーーーるな」
「星ちゃん、私には遠距離は無理だよ。ーーーゴメンね。」
私は隣に座る彼に抱きついた。
「ーーー決めたんだな?覆さないんだな?」
「うん。」
「俺が何を言っても聞く耳持たないってことだよな?」
「ーーーゴメンね。」
「分かった。アメリカの話は受け入れるーーー。ルナとのことは正直納得はしてないけど、ルナの気持ちも分かった。」
「ありがとう。渡米まで喧嘩しないで仲良く過ごしたい(笑)」
そう言った私を星ちゃんは強く抱きしめたーーー。

星ちゃん、多分これが本当に最後なんだね・・・。
沢山の喧嘩と家出と別れを繰り返した私たち。
でもいつも星ちゃんは納得せずにいたーーー。
今、きっと納得してくれてる部分があるんだよね。
星ちゃんと過ごした3年間は辛い記憶の方が多いけど、
幸せだったなぁって思う。
そんな3年間を思い出し、
私は彼の腕で涙を流したーーー。

私の就活も本番化してきた8月、
星ちゃんの渡米行きが公式発表され、
一時期は時の人のように凄いニュースになった。

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「凄いなぁ、私って凄い人と付き合ってたんだね笑」
「今さら何?(笑)」
「ほんと、今更なんだけど(笑)」
私と星ちゃんは別れの期限を決めたあの日から一度も喧嘩をしていない。
過ごし方は前と同じなのに気持ちに余裕が出来たのか、
相手を思いやれるようになったのかわからないけど、
前よりも良好な関係を築いているのではないかなと思う。
「ーーー最後の試合いつだっけ?最後だから行こうかな・・・」
「2週間後。来ると思って席は取ってあるよ(笑)1番前の席取ったわ(笑)」
「ありがとう、行くようにしたいなぁ。」
ーーーお互いに別れの期限が近づいているのに、
いつ別れるとかそう言った言葉は出てこない。
私の中で・・・
最後の試合を見てからこの家を出ようかな、くらいの軽い気持ちでいる。

そして試合の2日前、
私は星ちゃんに抱いて欲しいとお願いした。
試合前日はスポーツ選手にとって大切な日のためそう言った行為自体タブー。
だから私は2日前を選んだ。
「ーーー昨日抱いたじゃん(笑)」
ここ最近、良好な私たちは毎日のように体を重ねている。
星ちゃんからも凄い愛を感じるし、
私からの愛もきっと伝わってる。
離れるのが辛い・・・。
そう思ってしまうとダメだから考えないようにしてる。
「星ちゃんに触れてないと私はダメみたいで(笑)」
本心を伝えた、本当だから。
だから彼がアメリカに行ったあと、私はどうなるのかなって不安もある。
「ーーー覚悟しろよ。」
彼はいつもの優しいキスじゃなく、
最初から強引なキスから始まった。
その彼の世界に私はとろけて、
何度も何度も頂点に立たされたーーー・・・。

ありがとう・・・ーーー。
その言葉の代わりに私は何度も彼にキスをした。

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