#68.
愛してるーーー・・・、
だから別れる。
・
試合当日の朝、
星ちゃんは珍しく朝早く起きた。
「俺に勇気をちょうだい・・・」
そう言って私を抱きしめ数分その状態で立ってた。
何の勇気で何を願ってるのかわからなかったけど、
彼はよしっと気合を入れた。
「ーーー後で待ってるからな。」
「うん、頑張ってね。」
私は見送った。
・
理央と一緒に向かった公式引退試合、
さすが人気者ということもありかなりのギャラリーが既に賑わっている。
当日券も売り切れ、中に入っても立ち見の人もわんさかいて星ちゃんの人気ぶりがうかがえた。
こりゃ相手チームも空気を読んで負けないとダメね、なんて理央と話してた。
試合の後は星ちゃん最後の握手とサイン会もあるから女性がたくさんだーーー。
改めて彼の人気は凄いなぁと思った。
星ちゃんの準備してくれた指定席に座る私と理央。
本当に1番前の真ん中で、逆に恥ずかしくなる。
既に選手たちも会場に出て来ていて、
星ちゃんは私を見つけるやすぐに手を挙げた。
その手を挙げただけでも悲鳴が聞こえ苦笑いがこぼれる。
ーーーん?今私に手をあげたの?
今までこんなことなかったのに、と不思議だった。
試合開始までの数十分、
私と理央はグランドを眺めながらも就活の話をしていたーーー。
理央はチア部所属だからスポーツ推薦で行ける確率が高くなった。
私は・・・まだ何も決まってない状態。
でも少しずつ面接を受けていこうかな、という気持ちにはなって来てる。
子どもや英語と携わる仕事、そういうものを中心に探してる真っ最中。
ーーー ピー ーーー
試合開始の音が鳴った。
いつも遅刻で途中から見ていた私は初めて最初から見た。
何度見てもディフェンスのあの防具と防具が当たる衝撃音は慣れないし好きになれない。
久しぶりに見る星ちゃんの試合、
爽快にスルッと相手を抜いて前よりも上手になっている気が素人ながらに思った。
「ーーーこれで見納めとなると寂しいねぇ。」
「本当に・・・」
理央は私の決断に対して何も言わなかった。
気持ちはわかるようなわからないような、とだけ。
でも私が決めたなら応援する、と言ってくれた。
第2クウォーターは相手チームが優勢、
そこからのハーフタイムで一度控室に戻る選手たち。
私は祈るように手と手を組み合わせ、勝つことを願った。
最後だから・・・勝たせて欲しい、何度も願った。
第3クウォーターで反撃が始まり、
そこからの星ちゃんとお兄ちゃんコンビが大活躍して逆転勝利へと導いた。
ーーー胴上げされてる星ちゃん。
良かったね、勝って良かったーーー。
この光景を中継しているテレビもめちゃ撮ってて、
カメラマンも泣いていた(笑)
私も自然と涙がこぼれ落ちていた。
「こ、こっちに来るんじゃない?!」
「えっ!!」
そして、胴上げから下された星ちゃんはチームのみんなから背中を押されて私の方に歩き出した。
な、なに・・・?
こちらに向かってくるから観客もキャーと黄色い声を上げている。
ーーー私の前で立ち止まった星ちゃん。
見たことないくらい真剣な顔をしている。
だっていつも笑ってて柔らかい雰囲気の彼だから。
「るな・・・」
「な、なに?」
「勝ったよ。」
「うん、見てたよ。おめでとう。」
この様子をカメラマン撮ってるけど、私も映ってるの?と冷静な自分がいた。
「ーーーここまでアメフトを頑張れたのはルナのおかげだと思ってる。お前は学生だから・・・まだ早いまだ早いってずっと言い聞かせていた。ルナの先走る気持ちに賛同したくても出来なかった、ゴメン。ルナが遠距離は出来ない、別れると決めた時に俺も決めたんだ。ーーーお前と離れない道を選ぶって。学生だろうともう関係ない、自分のしたいようにするって決めた。」
「ーーー何言ってるの?これから渡米して力をもっと付けてこないと・・・」
「分かってるよ、行くよ。ーーールナも一緒に行こう。」
「えっ?」
「ーーー俺と結婚して欲しい。」
星ちゃんは私に指輪を差し出したーーー。
さらなる甲高い声が聞こえる中、
私は何が起こってるのか混乱して理解できずにいた。
「・・・本気?」
「こんな大事なこと、こんな場所で冗談では言わない。だから勇気をくれって今朝言ったろ?(笑)」
「そんな・・・」
願ってもない申し入れに私は衝撃を隠せなかった。
そんな私にカメラが向いている、返事を待つかのように。
「ーーー返事を聞かせて欲しい。俺と結婚してくれますか?」
私は背中をポンとニコニコの理央に軽く叩かれた。
あっ、応援してる、そう確信した。
「ーーーよろしくお願いします。」
黄色い声援と同時に大きな拍手が舞い起こった。
星ちゃんはいつもの笑顔になると、
私をヒョイっと抱き上げてグランド内に降ろした。
そして私に軽いキスをして、
見つめあった私たちーーー。
久しぶりに心から微笑んで、また唇を重ねた。
・
私は隠れるように帰宅したけど、
星ちゃんはあの後行われた握手会、すごく大変だったらしい。
ファンの子たちからの質問攻め、
そして私の情報など、いろいろ聞かれて大変だったと。
「ーーーただいま・・・」
疲れ果てて帰って来た星ちゃん。
「星ちゃん!何であんな公の場で・・・ニュース見た?!私の顔、丸出し!もっとお化粧すれば良かったよぉ〜・・・」
「ーーーそっち?(笑)ルナは何しても可愛いから大丈夫だよ。」
「握手会大変だったって今お兄ちゃんから電話きたよ。」
「そりゃ大変ですよ(笑)ルナの情報も知れ渡って迷惑かけるかもだわ、まじゴメン。テレビ放送のことまで頭入ってなかった・・・」
「ーーー大丈夫、乗り切るから(笑)」
「それと・・・ルナの先走る気持ちに理解示そうとせず気づかないふりをしていたこと悪かった。・・・卒業まで、ルナが卒業まで待とうって決めていたんだ、本当は・・・。ーーー大学やめることになるぞ、後悔しないのか?」
「私は星ちゃんの側にいることが1番幸せだと思ってる。でも何かを見つけろって言われた時、やっぱりピアノだった。ーーー無理やり英語への道を選んでいたけど、その選択をしなくて良いなら星ちゃんの隣で支えられる人になりたい。」
星ちゃんは私を強く抱きしめた・・・ーーー。
「ルナとの喧嘩は神経すり減るんだよ・・・。頼むから悪い方向に決めつけないで欲しいんだ。」
「ーーー合コンいけなくなるよ、いいの?(笑)」
「本当にあれは騙されたんだって笑笑」
「ーーー今後、結婚しちゃったら私許せなくなるよ?」
「ーーールナと知り合ってから自分の意志で行ってないし(笑)もっと俺を束縛してよ、愛されてるって思えるからさ。」
彼は私をさらなる力で抱きしめ強くキスをした。
ーーーそしてまた私は彼の世界に入った。
頂点を渦巻く、
何度も何度もまるでここは地球じゃないみたいに。
宙に浮いている感覚に陥る。
それほどまでに私は我を忘れたーーー。
天と地獄とはこのことだと思う。
別れの覚悟で行った最後の試合が、
まさか今幸せの絶頂に変わってる。
「ーーー子ども欲しいんだろ?籍、入れたら作ろう。」
そう言った順序は変なところ真面目な星ちゃんは守るんだね。
でもいつもと違うのは、
私の腹部を強く押しながら彼は何度もついた。
お互いに何度も何度も力尽きるまで求め合ったーーー。
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