#64.
私は先日、星ちゃんが受けていたインタビュー雑誌を取り出した。
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その中にアメフトをやろうと思ったきっかけが載っていた。
ーーー答えは彼らしく軽いもので、
モテそうだから、だった。
ただきっかけは中学時代に偶然にテレビで見た本場アメリカのスーパーボウルなんだって。
・・・もしかして、いつかはアメリカに行きたいのかな、とは思った。
良かったね、星ちゃん。
夢も叶い、モテてるよ・・・笑
私としては切ないけど、好きな人の夢はやっぱり嬉しいし応援してあげたいと思うよね。
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「ねぇ、星ちゃん。」
「ん?」
私たちは恒例となっている寝る前の2人の時間を持っているーーー。
ベットに並んで手を繋ぐ、この時間は本当に幸せだ。
「今日ね、星ちゃんがインタビュー受けた内容を読み直したの。」
「何で急に?(笑)」
「なんとなく(笑)星ちゃんはいつか本場のアメリカでプレイしたいと思う?」
ーーー少し沈黙が続いたけど、
星ちゃんが考えている時間だったからあえて私もなにも言わなかった。
「うーん・・・行きたい気持ちはゼロじゃないけど今は良いかなって思うかなぁ。今行ったらルナ、耐えられないだろうし(笑)」
そうね、この距離でもダメなのに遠距離をする自信は私には全くない。
もし・・・いつか彼がアメリカに呼ばれてしまったら、私はどうすれば良いんだろう?
と起こってもないことに対する不安も芽生えた。
「そっかーーー・・・」
「声もかかってねぇし、余計な心配はすんな(笑)」
星ちゃんは私を抱きしめた。
そしてそのままの状態で眠りに入ったーーー。
私はそんな彼の寝顔をずっと見ていた。
毎日外で働いて、練習もしていて・・・
寝るために帰ってくるにしろ、あまりイライラせずにいつもニコニコしている星ちゃん。
私は彼の笑顔を守るために何ができるだろうか、
寝顔を見ながらずっと考えていた。
ーーー結局答えに行き着くのは、彼の側にいること。
彼と私が考えている側にいるは意味が違う可能性が高いけど、
何よりも大切な彼の側にいるため、
そのためになにが出来るか考えようと思った。
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それから色々調べたよーーー・・・。
それこそスポーツ選手の奥様方が取るスポーツフードマイスターも検討した。
でも、きっと私には違う、もっと何か違う形があるはず、そう思った。
「俺のためじゃなく、自分の将来なんだから自分のために考えてほしい。」
星ちゃんは真剣に考えていた私にこう言った。
ーーー物理的に側にいたいと考える私、
精神的に側にいようと考えている星ちゃん、
明らかに違うんだよね・・・ーーー。
でもここで私は晴菜の言葉を思い出したーーー。
彼氏中心の生活をしていたら苦しむのは自分だと。
それに彼氏中心の生活ばかりしていたら相手が重荷に感じて離れていく、と忠告もされた。
星ちゃんの言葉を聞いて晴菜の言葉を思い出し、
こういうことなんだな、と私は痛感した。
ーーーそれからすぐ、私はバイトを変えた。
奏さんの周りの女子たちと揉めてから佐久間さんや栞ちゃん、その他諸々と交流するのが怖くてバイトも控えめになっていた。
だから店長もなんのことなく承諾してくれた。
そして新しいバイト先はーーー・・・
駅前にある大学病院でピアノを弾く仕事だった。
1番好きなことをって言われたら、やっぱり私にはピアノしか残されていない。
弾けるかどうかも分からないけどもう一度だけ挑戦してみたいと思った。
そんな時に偶然求人雑誌で見つけたこのバイト、
すぐに採用された。
ーーー毎日病院のホールでピアノ演奏を弾くわけじゃない、
演奏がない日は小児病棟のひよこルームで子供たちに毎日弾いてあげて欲しいという病院側からの依頼もあった。
ーーー子供たち相手なら本格的なピアノ演奏を弾くことも多くないし自分のリハビリになると思ってこのアルバイトに決めた。
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私が奏でる音楽はポップピアノーーー。
世間一般で言われているクラシック音楽とは違い、
今の音楽に合わせてポップ風に奏でるため、
鍵盤を激しく叩くことが少なくない。
ーーーある一定の音を弾こうとすると指の感覚がなくなり、弾けなくなったのが初めだった。
弾いてるのに弾いてる感覚が持てなくなって、
そしたら鍵盤に触るのが怖くなった。
ーーー最終的にピアノに触れるのが怖くなった。
でも今なら出来る気がするーーー・・・
自分でやりたいと望んで見つけたバイトだから、
自分にとっても子供たちにとっても心の癒しになれば良いと思った。
ーーーピアノをもう一度完璧に弾けた時、
星ちゃんを驚かせたい。
そう強く思ったーーー。
・
毎週木曜日の3時半から開かれる病院のホールでの生演奏。
これに合わせて授業も後期は変更した。
あとは子供たちに毎日弾いて口ずさんでくれるのを私も今楽しんでいる。
今のところ・・・なんも怖いものはなく楽しんで弾けている。
「るなちゃーん、次これききたーーい!」
子供たちから聞こえるキャッキャという楽しい声が私を癒すーーー・・・。
「でね、大輔くん出ていう5歳の子がいてね・・・ドラゴンボールが好きなんだって。私はあまり知らなくて調べちゃったよ、色々勉強しないとダメだなって思った。」
「おー、いいなぁ(笑)」
最近の星ちゃんと私の会話は新しいバイト先でのことが多い。
でも彼は私が楽しそうに話すから嫌がらずに聞いてくれる。
「でね、18歳の子もいてね・・」
「小児病棟に?」
「うん、幼い頃から通ってる子はそのまま診察してるの。大学一年生で、喘息で今は入院してるんだけど・・・私より一つ学年が低いのに、私より頭が良くて、ほら私の苦手の古英語とか普通にすぐ理解してて凄いんだよぉ。」
「ーーー楽しそうで良かったな。でも、そろそろ俺との時間も楽しもうな?」
長い話を聞き飽きたようで、
星ちゃんは私にニヤリと微笑を浮かべて軽めのキスを落とした。
ーーー星ちゃんはいつも私を抱くときは、
軽いキスから始まる。
次第に強くなるけど、軽くキスして焦らしてというのが彼のスタンスなんだろうなぁって思った。
・・・その夜も次の日が休みということも重なり、
明け方まで何度も彼に抱かれた。
そんな毎日を過ごし、
星ちゃんの2回目のシーズンが終わった。
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