#75. 最終回
クリスマス当日、
急遽予定の入った星ちゃんを置いて、
私は一足先に予約していると言ってた場所に向かった。
・
ポートランドからバスに乗って、さらに山を登る。
その頂点にあった唯一のホテルなのかレストランなのか分からない大きな建物。
ーーーちょっと入るのに抵抗すら覚えた奇妙な館とも言える場所。
そーと中を開けてみると大きなシャンデリアが目立ち、
本当にどこかの洋館に来たような感覚に陥った。
だけどレストランの入り口だったようで、
奥は多くのカップルで賑わっているのが見えた。
「ーーー突然失礼致します。桐山ルナ様でよろしいでしょうか?桐山星也さんよりこちらにご案内するように伺っております。」
受付に声をかけようと思ったら突然背後から美しい声が響いてきた。
「あっ・・・はい。」
その名札には支配人と書かれていて、
受付の執事の人もその女性にお辞儀をしていた。
ーーー私は言われるがままにその人に付いて行き、
駄々広い部屋へと案内された。
「ーーーあの、星也さんは?」
「もうすぐ到着されるとのことですよ。ルナ様はこちらでお待ちください、今担当のものが参ります。」
担当?
なんの担当?
ーーー不安になった私は星ちゃんに電話をかけようと携帯を取り出した。
「お待たせいたしました!さぁ、今から支度をさせていただきますね!」
あまりにも元気な声で部屋に入ってきたから驚きで携帯を床に落としてしまった。
「あっ、すいません・・・」
「では、今からとびきり美しい姿に変身いたしましょう!」
携帯を取ってくれたその人はとても元気で笑顔が非常に可愛らしい若い方だった。
その言葉と同時に私の携帯、鞄や身近なものを助手らしき人に渡して手ぶらにしたその女性は一目散に私の髪型を扱い始めた。
脳の手術で短く切った髪の毛も今はもうロングヘアになっている、
生まれつきのカーリーヘアは変わらないけど。
「すいません、何が起こってるのか分からないのですが・・・」
「星也さんに美しくして欲しい、と約束いたしました。」
戸惑う私をこの人は笑顔で返す。
「ルナさんの癖を生かしてサイドアップはどうでしょうか?イメージはこんな感じです。」
サンプルを見せてもらえて私も賛同した。
いやいや、賛同してる場合じゃない。
この状況を把握しないと、でもね、鏡の前でまるで違う自分に変身するのは悪い気分じゃなくてすごく幸せな気分だったから何も言えなくなった。
あっという間に出来上がった髪型、
たった少しの髪型でこんなに印象が変わり、
同じ人物とは思えないほど可愛いと思ってしまった。
「わーー、自分じゃないみたいです。」
「女性は少しの変化で変わるんです、髪型だけでも毎日変えたら毎日違う自分になれるんですよ。」
「ーーーありがとうございます。」
「次はお化粧に入るので目を瞑っててくださいね。」
えぇぇ、まだあるの!?
なんていうのを考える隙もなく彼女は私のお化粧を取り化粧水から何から何までやってくれた。
そこからお化粧に移るまでも時間かからず、
ほんの一瞬でお化粧も出来上がった。
ーーー誰、これ?
すっぴんに近いお化粧ばかりしてる自分が、
今はっきりとお化粧されている自分が、
どちらが自分なのかわからなくなる。
それほどまでに別人化していた。
「我ながらかわいいです!今、旦那様を呼んできますね。」
ーーーどういうこと?
思考停止している私を担当の人は一人残して部屋から消えた。
・
ーーー ガチャ ーーー
扉の開く音で私はその方を向き、
私を見た星ちゃんは目を見開いた。
「ーーー綺麗・・・。髪型もお化粧もすごい似合ってる。」
「どういうこと?これ、なんなの?」
半ギレ状態の私は星ちゃんに詰め寄った。
「驚いたろ?(笑)にしてもルナはやっぱり化粧映えするな。」
私が怒ってるのに星ちゃんは笑ってる。
「聞いてる?これはなんなの?ご飯じゃないの?」
「ーーーキャプテンお願いします。」
私を見て微笑を浮かべた星ちゃんは扉に向かって英語で話しかけた。
そしたら大きな箱を持ったアレックスさん家族が部屋に入ってきて箱の中身を出し始めた。
「ーーー俺のアメリカ行きが決まって急いで入籍したろ?本当はもっとゆっくり手順に沿って進めたかったかなぁって今になって思ってさ(笑)」
「手順?」
「本当は結婚式したかったんじゃねえのかなって思ったんだよ!女性にとって一生に一度だろ?だからそれをキャプテンに話したら奥さんのお古だけど快く貸してくれるっていうから・・・」
「えっ?今ここで?」
状況を飲み込んだ私は急に恥ずかしくなり赤面した。
「そっ。こんな急で式場とは言えないかもしれないけどルナには結婚式をあげさせたかったんだよ(笑)」
「ーーー星ちゃんってさ。」
「ん?」
「私のこと大好きだよね笑笑」
「ーーー大好きじゃねーよ、愛してるんだよ笑」
そうとなったら話は早くて、
私はアレックスさんの奥さんに手伝ってもらいながらウェディングドレスを着用した。
体型が全く違うので大きかったけど、
ドレスなどの着付けの直しをしている奥様の手によって私のサイズに変更出来た。
「ーー Your husband is waiting at the church! 」
私の着付けの間、星ちゃんは自分もタキシードに着替えると出ていった。
奥さんの言うように教会で待つ星ちゃんの元に私は歩くーーー。
初めてのウェディングドレス、
初めての高いヒール。
初めての結婚式ーーー、
まるで嘘のような時間。
でも嘘じゃないんだよね、
星ちゃんが教会で私を待っている。
・
私は奥さんに連れられ教会の入り口に立ち、
奥様は中へと先に入ったーーー。
二人とアレックスさん家族だけの結婚式、
だけどそれでも幸せーーー。
だって大好きな人と一緒にバージンロード歩けるんだもん。
そうして扉を開けた瞬間、
私は涙をこぼさずにはいられなかった。
な、なんで・・・
たくさんの拍手が舞い起こる。
私の手を引く人物ーーー。
「ーーーお前のためにこんなにも集まってくれた。笑顔で俺と星也のところまで歩こう。」
「ーーーお兄ちゃん・・・」
アメリカに来てから一度も会えてないお兄ちゃんは前よりかっこよくなったんじゃないかな、と思う。
「ーーー星也と幸せになれよ。」
「うんーーー・・・。でもいつまでも私の味方でいてね?」
「当たり前だーーー・・・」
お兄ちゃんは私を抱き寄せた、
でも見えたよ、うっすら涙が瞳に浮かんでたの。
お兄ちゃんとゆっくり歩くバージンロード。
練習なんてしてないから何度も転びそうになったけど、
それも良き思い出。
ーーー周りを見渡せば星ちゃんの大学の友達や同期、そして日下部さんをはじめとする日本でのチームの仲間が集まってくれていた。
私の方はーーー、
怜くんや晴菜、理央、小林先生までも参列してくれていた。
「ーーーどうやって・・・」
歩きながら私はつぶやく。
「教育実習の時のツテを使って草田と晴菜ちゃんには連絡したみたいだよ。ーーー俺も手伝った。」
「ーーーたくさんの人の協力があって今日があるんだね、何も知らなかった。」
「・・・すんげー愛されてんだよ。」
その言葉と同時にお兄ちゃんと星ちゃんは入れ替わった。
違和感があるーーー。
お兄ちゃんにお辞儀する星ちゃんを見るのは。
親友同士の二人が今度は兄弟になるんだもんね。
あんなに仲良しの二人が今度は兄弟に。
ーーー人と人の縁は不思議だな、と思った。
・
神父様の前に立った私たち二人。
結婚証明証を二人で記入する、
そして指輪の交換ーーー。
今の私の指輪はプロポーズしてくれた時にグランドでもらった婚約指輪のみ。
「星也さん。あなたはルナさんを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「誓います。」
「ルナさん、あなたは星也さんを夫とし、健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います!」
「それでは指輪の交換をーーー・・・」
そこに出された二つの指輪。
全てがサプライズすぎて涙が止まらないーーー。
「泣くな、せっかくの美人が台無しになるぞ。」
「ーーーわたし、なんも返せてなくて・・・」
「俺はルナが側にいるだけで幸せだぞ。」
私たちはみんなが見ている前で誓いのキスを交わした。
一生に一度しかない結婚式は、
二人だけだと思った結婚式は、
全てが星ちゃんの努力の成果が現れた。
また彼の人柄の良さが結婚式でも見えた。
ーーー彼のご両親は私たちを見て泣いていた。
私の両親は嬉しそうに見守ってくれていた。
結婚するなら父親じゃなくてお兄ちゃんとバージンロードを歩きたいと思ってきた私、
星ちゃんはなんでもお見通しだったーーー。
わたし、幸せになるからね・・・。
この人と一生を添い遂げる、
きっとこんなに私を愛してくれる人はこの先も現れないから。
この人を一生愛すると誓うよ・・・。
夜空に満月が光り、
星のカケラたちが私たちを祝福しているかのように、
私は披露宴で空を見ながら彼との未来を誓った。
完
[ 番外編 ]
「ーーーありがとう。披露宴まで用意するとは思わなかった(笑)」
「式では絶対に話せないだろ?二次会は流石に無理だったけど披露宴は絶対って決めてた。」
「嬉しかった、すごい幸せだよ。」
2人並び、夜空を見ながら話す。
「今日は満月なんだな。」
「綺麗だよね、星も綺麗!」
「ーーールナの名前は月だもんな。ルナの愛が満月として表れているな(笑)」
「なら星ちゃんの星もこんなにたくさんあるから、これだけの愛情をくれているってことかな笑」
「バカいえ、俺はそれ以上の愛を与えてやるわ笑」
「ーーーありがとう。きっとこの子も喜ぶね。」
私はそっと星ちゃんの手を自分のお腹に寄せた。
「えっ!!!冗談じゃない?!」
「ーーーうん、予定日は8月末。今日話そうって決めていたのに色々ありすぎて今になった(笑)」
「ーーーマジかぁ・・・ここにいるのかぁ、すげーな!でかしたな!」
星ちゃんは何度も私のお腹をさする。
「ーーー太陽!でかした!ルナのお腹に俺との子が・・・」
あまりの嬉しさでお兄ちゃんに叫んだ星ちゃん、
涙が出て最後まで言えなかったけどお兄ちゃんには伝わったね。
お兄ちゃんは星ちゃんをがっしり抱きしめた。
「やったな!すげーじゃん!妹のこと頼んだぞ!」
言葉の代わりに星ちゃんはガッツポーズを返していた。
お兄ちゃんの妹に生まれ、
星ちゃんと出会って、
彼の恋人になり奥さんになり、
次はお母さんになる。
いろんな苦難な道もあったけど、
最後に行き着いたのは最高の幸せだと思う。
この子も含めて、
私は星ちゃんと幸せになる自信があるよ。
・
「ルナ、行こう。」
私を待つ笑顔の人の元へ走る。
私の最愛で大好きな人の元へ。
これにて完結です♡
最後まで読んでくださりありがとうございました( ´∀`)
次は前回途中で止まってしまった、【 君のいる場所 】をもう一度書いていこうかなぁと思ったりしています♡
私は弱い系女子と強い系男子が好きなので、
似たり寄ったりのお話になってしまうかもしれませんが、
それでもお付き合いいただけれ方はこれからも読んでもらえたら嬉しいです( ^∀^)
本当に最後まで読んでくださりありがとうございました!
とても励みになりました♡
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