【 わたしの好きなひと 】#37. 戻った時間*

わたしの好きなひと。

#37.

新しい携帯電話を買ったーーー。
「おれの名義でファミリー組む。」
星ちゃんがそう言い出したのは昨日のこと。
「そうしたら勝手に解約できなくなるしな(笑)」



「ニヤニヤして気持ち悪いんですけど?」
いつもの調子が少しずつ戻った私たち。
今日は練習がない日で、
仕事終わりに待ち合わせをして一緒に買いに来たの。
「だってスーツ姿の星ちゃんとデートできるなんて夢みたい。」
「大学は楽しかったのか?授業何とるか決めた?」
「ほんとお父さんみたいだよね(笑)ある程度は決めたよ、同じ英語のクラスにお友達も出来たの。」
「おー、良かったな!今度紹介しろよ(笑)」
「ーーー下心なしでね(笑)」
「ねえよ(笑)」
懐かしかった、こうして彼と並んで手を繋ぐの。
ーーー楽しそうにしてるけど、
時々記憶は飛んでたね。
でも星ちゃんはそれを笑い飛ばしてたね。

ーーー家出、たったの半日。
でもそれだけだったけど私はとても辛かった。
やっぱり星ちゃんのこと大好きなんだなって思い知った。
ーーーだけど星ちゃんも私と同じ気持ちなんだなと知れたのは家出して良かった点かな。

「薬の時間だぞ、タイマーなってる。」
「ーーーうん。」
病院から出された薬は9時、13時、20時という指定がある。
私は忘れないようにリマインダーとアラームの両方をかけている。
「きちんと飲んでればきっと次の診察の時には少しでも小さくなってると信じような!」
星ちゃんにはあの病院の日に、腫瘍があることは話した。
お兄ちゃんをレントゲンで呼び出したこともーー。
全部話したーーー。
でも星ちゃんは抱きしめて何も言わなかった。
言葉にできないものがあったんだと今なら思う。
「次の診察いつだっけ?」
「来週の火曜かな!ーーー先生の話を聞いたらきちんと報告するから。」
「包み隠さず、頼みますよ笑」
ーーー私たちは笑い合った。
心から笑いあえてる、作ってない笑顔。
同じ空間にいても気まずさも何もない。

火曜日を迎えるまでの残った4日、
私は毎日大学に出向いた。
ここ最近調子が良くて頭痛も吐き気もない。
記憶が一瞬消えることはゼロではないけど、
生活に支障は出てないから問題ないと思ってる。
今日は古英語の日、
前回の授業で先生がロード・オブ・ザ・リングの映画を数回に分けて観ると言ってたから凄い楽しみにしている授業。
知らなかったけどこの映画では古英語と言われる昔から使われている英語が多く出ているんだって。
そんなの知らないよ、だって理解できないしね、と思ってた。
映画を見ている間、私たちは作中のどの場面で古映画が使われているかを読み取らなければならないという大きな課題を与えられたから真剣そのものだった。
ーーーでも私の隣に座る朝日くんは寝ている。
大丈夫なのだろうか・・・
「ねぇ、朝日くん起こした方が良いんじゃない?これ授業の後に提出するんだよね?」
「ーーー大丈夫、この人寝ながら聞いてるから笑」
古英語のクラスで仲良くなった希ちゃんは呑気に答えてる。
でも彼女が言うから大丈夫なんだろう、
だってこの2人はお付き合いしているから、ね。
希ちゃんの言う通りで、朝日くんはこの日の分の映画が終わった分の提出分の用紙をスラスラと書き出した。
えっ、寝ていたのに記憶あるの?
とすごい感心していたんだーーー。



3限の授業で今日の私は終わりーーー。
軽くカフェテリアでご飯を食べて、病院へと向かう。
まず血液検査から入るーー。
この血液検査は何の意味があるのか、と思うけど必ず受診のたびに血液検査はする。
「調子はどんな感じですか?」
「頭痛もなく問題なく過ごしています。」
「ーーー良かった。薬が効いているのかな。また同じ薬で処方しておきますね。ーーーそれと手術の日ですが・・・」
と手術においての注意事項などを聞かされ、
次に受診する日はもう入院する日で良いと言うことだった。
処方された薬をもらって私は帰路に着く。
ーーーだけどふと思った、お兄ちゃんたちの練習を見たいなって。

この間、会った時にお兄ちゃんが言ってた。
練習風景を撮影に来ている人も多いし、
選手狙いで黄色い奇声を上げてるだけの女性も多いと。
ーーーだったら私も行っても良いんだよね、
と思ってお兄ちゃんたちの練習場に向かった。

きっと迷惑にならない、
そう信じて向かったーーー。

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