#23.
ーーー望月くんの一件で私の平和な時間は戻った。
・
「ーーーみのりって方はどうなってんの?」
「彼女は・・・正直わかんない。クラスが違うし2年の時に同じだったけどほとんど話したことないし。」
「変なことされたら絶対に・・・」
「はい、言いますから!」
何回も星ちゃんには隠し事はするな!と怒られたからもう分かってる。
何かあったら必ず報告する、約束したけど。
ーーー本当にお父さんみたいだ。
「ーーーそう言えば明日から沖縄だよね、いーなー!」
星ちゃんは明日から沖縄に友達と行く。
ーーー私はお兄ちゃんが大学のアパートを引き払って一度こっちに戻ってくることから旅行を取りやめた。
晴菜は大学に入ってから行こう、と快く承諾してくれた。
「いーだろ(笑)」
「写真たくさん送ってね、女の子写ってても良いから笑」
「わーかってますよ笑。」
星ちゃんが沖縄に旅立ち、お兄ちゃんは東京に戻ってきた。
「ーーー母さんとあれから会った?」
「ううん、あの日から来てない。ーーーお父さんに、お母さんのところに行ったら?って言ったんだ。私1人で暮らせるし、金銭的援助はお願いすると思うって前提で話して・・・」
「ーーーで?」
「多分納得したと言うかその方が良い的な感じだったんだけど、それからあまりお父さんも帰ってこなくなっちゃった。」
「ーーー恋は人をダメにする、父さんはまさにそのパターンだな。」
ーーー私もそう思う、
実際に私もお父さんの顔を最近見てない。
だからこうしてお兄ちゃんと一緒に食べるご飯がとても美味しく感じるの。
「ーーー俺は職場が水道橋だからそこに家を借りる予定でいる。ルナも大学近いんだから、一緒に探すか?」
「いやいや、未来さんが嫌がるはずだから(笑)でも私は大学の近くで探すよ、バイトも探したいしね。」
お兄ちゃんは不思議そうにしていたけど、
彼氏の妹が近くにいたら普通に嫌だと思うよ。
ピロンーーー♪
その時に星ちゃんからメールを受信した。
飛行機の中の様子から沖縄に着いた風景や景色、
食べ物もホテルの写真も。
今ーーー、友達と飲んでいる写真も。
「見て、沖縄だって。良いなー!」
「ーーーアイツは俺の真似をした(笑)」
ーーーお兄ちゃんも実は沖縄の卒業旅行から帰ってきたばかり、
みんなずるいなぁと思う。
「お兄ちゃんのことが大好きなんだよ(笑)」
「まっ、仲良くやってるなら良かったよ。」
話の流れで、お兄ちゃんと星ちゃんの約束を破棄して欲しいと伝えようと思った。
ーーーでも私にはそれが出来なかった。
勇気もなかったし、やっぱりお兄ちゃんの優しさはすごく伝わってきたから。
だからお兄ちゃんと星ちゃんが納得して約束したことなら、
私もそれを認めて守ろうと思ったーーー。
・
星ちゃんが沖縄に行ってから3日、
やっと帰ってくるーーー。
悩んで悩んでーーー・・・
空港まで迎えにきてしまった。
便名も時間も確実だし、到着ロビーの柱に隠れ星ちゃんの帰りを待った。
続々と来る沖縄からの帰りだと思われる人たち。
みんなそれぞれにドラマがあって、
カップルの楽しそうな表情、
家族のしわあせそうな表情、
出張帰りのスーツ姿の人たち、
いろんな人たちが出て来ている。
ーーーそして見つけた、星ちゃん達の集団。
遠くに見つけられるのは自分でもすごいと思った。
8人の集団が数列に並んでこちらに歩いてくる、
星ちゃんのとびきりの笑顔を見つけた。
楽しそうに横に並ぶ友達とゲラゲラお腹を抱えて笑ってる。
ーーー私にはあそこまで笑わせる術がないから友達ってすごいなって思った。
そして到着ロビーに入った星ちゃん、
私は無意識にサッと姿を隠したーーー。
ここまで来てアレだけど、
友達との大切な時間を邪魔しちゃ悪いと思って。
「ーーールナ。」
でも私の行動は全てお見通しだったようで、すぐに見つかった。
「あっ・・・えっと・・・」
「ーーー来ると思ってた(笑)」
友達を向こうで待たせながら星ちゃんは私に言った。
「会いたくて・・・勝手に来ちゃったの。ごめんね。」
「ーーー帰るか。」
星ちゃんは空いてる方の手を私に差し出してくれた。
遠慮なく私は繋いだけどーーー。
「星也の彼女?若くない?」
「ーーー若いよ、高校生ですから(笑)」
「ロリコンかよ!笑」
私は挨拶をするのが精一杯で、
あとはとにかくみんなと会話する星ちゃんを見ているのでお腹いっぱいだった。
ーーーただ疑う余地は何もなかった。
本当に仲良くて、疑う余地なんて一つもなかった。
・
「あー、腹減った!飯食って帰ろうぜ!」
品川について1人の男性が口にした。
「えー、わたしパス!彼氏家で待ってるし。」
「ごめん、私もパス!同じく久しぶりに彼氏と会うから早く帰りたいー!」
女性の皆さんは彼氏さんに会いたいと言う理由で誰1人参加しなかった。
私はーーー。
「俺、行く!コイツも連れて行って良い?」
「もちろん!大歓迎!」
「いやいやいや、私帰るよ。ただ顔が見たかっただけだし、明日も学校だし・・・お兄ちゃんいるし。」
「ーーーじゃあ俺も・・・」
「それはダメ!勝手に来たのは私だから、今は友達優先して。ーーー突然押しかけてすいませんでした、失礼します。」
私はそのまま乗り継いで自宅のある方へ向かった。
ーーー帰りに成城石井に寄って、
お兄ちゃんと自分の夕飯を買って自宅に戻った。
・
家に戻りお兄ちゃんが帰宅するまで待つ。
今日は未来さんと一緒に物件回りすると言っていたから遅くなるのかなと思いつつ、
夕飯には手をつけずに待った。
「ーーーただいま。」
夜8時過ぎ、お兄ちゃんが帰って来たと思った。
でもそれは見当違いでお父さんだった。
「あっ、おかえり・・・。どこに行ってたの?」
「全然帰れなくてすまなかったな。母さんとこれからのことをいろいろ話し合っていて、帰れなかった。」
「ーーーそう。」
「母さんは言ってたよ、ルナは特に記憶がないから一緒に暮らしてもお互いに気を遣って嫌な思いをするだけだって。ーーーヨリを戻すのをやめましょう、と言われたよ笑」
お父さんは少し痩せた気がする。
憔悴しているようにも感じたーーー。
「ーーーお父さんは離婚してからもずっとお母さんが戻ってくるのを待ってたの?」
「待ってた・・・わけではないけど、愛して結婚した人だ。そんな簡単に忘れれるわけはないんだよ。特に父さんの長年の片思いから始まった恋だったからね・・・」
お父さんの話を聞いて気の毒だな、と思った。
あの日、お母さんと衝突はしたけどお母さんもいろんなことが不安だったのかもしれないと思った。
あの日は星ちゃんのことを全否定されてるようで不愉快だったしお兄ちゃんのことも何も知らないのに否定したから私も怒ったけど。
ーーーお母さんにはお母さんの言い分があったのがしれないと私も反省した。
「ーーーお母さんのところに行く話はした?」
「したよ。ーーールナと太陽が快く承諾してくれたら承認する、と言ってたよ。」
「お父さん、わたし、お母さんが嫌いなんじゃないよ。でもやっぱり一緒に暮らすのは・・・お母さんはいないものだって思ってたから抵抗があるの。お父さんには幸せになってもらいたいし、お母さんが嫌じゃないなら私はお父さんとお母さんがヨリを戻せば良いって思ってるよ。」
私は今の気持ちを素直に伝えた。
「ーーーだそうだよ、聞いたか?」
えっ、と思ってお父さんの視線の先を見るとリビングの扉の外で泣き崩れるお母さんの姿があった。
「ごめんね、ごめんね、本当にごめんなさいね・・・」
私に近寄ってお母さんは何度もそう言って抱きしめた。
「お父さんのこと幸せにしてください。」
「ーーー時々は、会いに行っても良いかしら?」
「もちろん、親子なんだからお兄ちゃんにも私にも会いに来て欲しいです。」
私は素直にそう伝えたーーー。
お母さんと和解出来たこと、
私も心から嬉しかった。
・
「一件落着ってやつ?」
沖縄から戻って数日後、星ちゃんに呼ばれて家にお邪魔した。
「うん。わだかまりはなくなったかな?だから家を売ることになって今はそっちが忙しそうだよ。売却先が決まるまでお母さんもこっちにいるみたいで、今は一緒に住んでる感じで何かドキドキするけどね。」
「ーーー良かったな、家族は大事だぞ。」
星ちゃんは私のことを抱きしめた。
「ーーー言おうと思っていたことを言っても良いか?」
「ーーーえっ、何それ、怖いんだけど・・・」
「引っ越すと決めた時に話そうか迷ったんだけど、良い物件が見つかった。お茶の水の近くだ。」
「ーーー良かったね!」
私も秋葉原周辺で探してるから近いなら問題ないやって思った。
「・・・社会人になって仕事とアメフトを両立することになると思う。どこまで忙しくなるか今の俺には見当もつかない、だから・・・どうせ家を出るなら一緒に暮らそうか。」
衝撃発言だったよーーー。
どう言う意味かわかってるのかしら・・・。
「一緒に暮らしたら自由に友達も呼べないよ?」
「ーーー分かってる。」
「女の子も持ち帰り出来ないよ・・・?」
「ルナと付き合ってからしてねぇし。」
「わたしのわがままにずーと付き合わなきゃならないよ?」
「ーーー分かってる。俺がルナと離れたくないんだ。」
でもすぐに返事はできなかったーーー。
まずお父さんとお兄ちゃんに相談したい、ということで持ち帰らせてもらった。
私だって星ちゃんと一緒に暮らせたらそりゃ嬉しいよ?
でも今はまだ未成年だからーーー、
きちんと話してから決めたいと思った。
「いいんじゃないか?」
お父さんとお兄ちゃんの答えはあっさりだった。
「えっ、良いの?」
「あの星也くんだろ?なんか問題でもあるのか?」
お父さんは星ちゃんを信じ切っていて、
何も問題ないと言ってた。
「ーーー俺は最初反対だったけど(笑)星也が先月相談して来たんだよ、まぁしつこいしつこい。ーーー認めしたよ、どうぞって(笑)」
私に伝える前に周りを固めたのね、星ちゃんらしい。
「反対されなかったよ。だからーー、私も星ちゃんと一緒にいたい」
夜、すぐに電話で伝えた。
なんとなくーーー、
暗闇の中にいたわたしの生活が少しずつ明かりを見せて来ている、
そんな予感がした。
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