【 わたしの好きなひと 】#51. お人好しな自分*

わたしの好きなひと。

#51.

そして今日は月曜日ーーー、
私は今、兄の会社のとある会議室にいる。

ことの発端は昨日、
星ちゃんや同期の人たちと盛り上がっている最中に来たお兄ちゃんからの一本の電話だった。
お休みの日なのに監督から着信を受けたお兄ちゃんは、今から監督が行く…と伝えてきた。
さすがに今からは困る、と断ったら可能であれば平日のどこかで来社して欲しいと頼まれたのだ。
ーーー兄同伴で。
あの件だってことは分かるけど、それがどういう風に転ぶのかは今の私には見当もつかない。
そして、今に至る・・・。
お兄ちゃんと一緒に慣れない大きな会議室で待たされている状態だ。

私は星ちゃんと初めて一緒に起きて、同じ時間に玄関を出て・・・。
初めて一緒に会社に向かった・・・。
社会人にはまだ数年ある私には無縁の場所ではあるけど、
社内恋愛をしているカップルはこうやって出勤するのかなと思うと新鮮で嬉しくて胸がくすぐったい。
ーーーそれに昨日彼からもらった指輪がキラリと私の薬指に光っているからなおさら嬉しく思う。
会社までの道のりは遠くもないので、すぐにお兄ちゃんと合流し、
受付の人に案内されたのが非常に大きな会議室だった。

「こちらからお呼び立てをしたのに、大変遅くなってすいません・・・」
ノック音と同時に入って来た男性二人、
一人は年配の方でもう一人は30代前半と言ったところかな?
「監督、渋谷コーチお疲れ様です!」
お兄ちゃんは日ごろからお世話になっている相手だけあって丁寧に挨拶をするーーー。
「広瀬君、そして妹さん・・・。この度はうちの部員が大変失礼なことをして申し訳なかった。」
ーーーやっぱりね、この件だった。
「お詫びをするために呼んだんですか?」
「ーーー私たちから出向いてまた逆に怖がらせても、と思い来てもらう形を最終的に取らせていただきました。」
渋谷コーチが淡々と説明するー--。
「本当に申し訳なかった・・・藍沢は退部・・・退職という形を取らせてもらおうと思っています。」
監督が付け加えた・・・。
えっ、退職?せっかく今までアメフトを頑張って入ったのに、その努力はここで終わってしまうの?
私は俯いて拳を膝の上で握りしめていた・・・。
お兄ちゃんはその私の上に手を添えていたけど、きっと立場的に何も言えないんじゃないかなと思った。
「あのっ!!わたし、藍沢さんに退部して欲しいわけでも退職して欲しいわけでもないです。」
「えっ・・・」
驚いていたのは監督もだけどコーチもだった。
「確かに彼が私にしたことは許せません、きっとこの先もずっと許さないと思います。だけどそれとこれは話が別です。・・・ここまで頑張って来たアメフトを私の件でやめる形になるのは正直納得できません。ーーー私は今回の件で周りの方々にたくさん支えてもらいましたし、お兄ちゃんを含めて大切な人との絆も前以上に出来たと思っています。この件、乗り越えたいんです。だから藍沢さんにも・・・乗り越えて欲しい、そう思うんです。」
「藍沢が乗り越えるって・・・?」
「私は必然的にこれからも応援に行くでしょう、私を見て苦しめば良い。そうして罪の意識を持ってくれたら、きっとこの先いつか自分のしたことの大きさに気が付いてくれると思うんです。」
私は力説した・・・。
ウソじゃない、本当の事だから。
「・・・ありがとうございます。」
監督は私に何度も頭を下げた・・・。
きっとこの件はもう話題になることはない、終わり、そう信じてる・・・。

「お人よしにもほどがある(笑)」
監督やコーチとの話が終わり、私はお兄ちゃんに連れられて社食に来た。
人生初めて来る社食、フードコートみたいだった。
ただ違うのは自分の食べたい分量を色んなお店からトレイに乗せて、
最後はグラムで金額が出るというロボット形式だった。
お兄ちゃんは朝だというのにカレーライス、私はオレンジジュースを頼んだ。
そこに日下部さんや星ちゃんも合流、今回の件を自分の口から話した。
「ーーーでも藍沢さんの未来までは壊したいと思えなかったんだ。」
星ちゃんは私をお人よしと言ったけど、
確かにそうなのかもしれないけど、
私がこうしてそう思えたのは星ちゃんの力なんだけどな・・・ーーー。
「ルナちゃんも苦渋の決断だったんじゃない?お疲れ様ね。」
「あー-あ、日下部さんは優しいなぁ。誰かさんとは大違い(笑)」
「おっ、乗り換える?(笑)」
「日下部さん、そんなこと言ったら吉永さんに殺されますよ(笑)」
「わはは!!!」
そっかーーー。
日下部さんと吉永さんはお付き合いしているんだもんね、冗談でも悲しいよね。
私だって星ちゃんが冗談でもほかの女性にそんなこと言ったら悲しいわ・・・。

「ルナ、本当にこれで良かったんだな?後悔は1ミリもない?」
お兄ちゃんや日下部さんと分かれ、私は会社を後にしようとしている・・・。
星ちゃんが受付まで送ってくれている。
「うん、後悔はしていないよ。ーーーありがとうね。」
星ちゃんは納得してくれて、笑顔で見送ってくれた。

私はそのままバイト先に向かった・・・。
今日は午後からのバイトだったけど早めに行っても誰にも文句言われないだろう・・・。
「えっ、ルナちゃん、なんか久しぶりじゃない?」
「まりえさん!本当になんか久しぶり感(笑)」
「夏休みに入ったらやる気なくすタイプだよな(笑)」
佐久間さんやまりえさんが普通に働いていて、居心地の良さをここでも感じることが出来る。
「早いけど、入っても大丈夫な感じですか?」
「とっとと着替えろ、レジ打ち忘れてんだろ、教えてやるよ。」
ぶっきらぼうだけど優しい佐久間さんーーー。
「優しくないよね、本当はさ教えたくて仕方ないんだよ(笑)」
仲介に自分から入って周りを和ませてくれるまりえさん。
そんな二人に加えて・・・
「ルナちゃんが来るとお客さんも喜ぶからもっと入ってよーー!俺じゃ力ないので・・・」
少し弱気な店長さん。
私はそんなみんなが大好きだ。

やっぱり改めて思う、
私って周りの人にすごく恵まれているんだな、って。

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