#41.
学校に行く前に蜂蜜レモンを作って漬けるーーー。
少しずつジメジメしてきたこの季節にはちょうど良い蜂蜜レモンーーー・・・。
・
今日の大学は休んだ分の補講も含めて5時過ぎまで。
ーーー真っ先に自宅に戻って、
つけておいたはちみつレモンの味見をする。
うん、美味しい・・・。
甘くてちょうど良い。
< 今から持って行くね。>
< 着いたら連絡して、扉開けるから。>
そのやり取りだけして自宅を出たーーー。
隣の駅だし歩いてすぐだし全然良いんだけど、
多めに作ったはちみつレモンはやっぱり私には重い。
特に星ちゃんの話では部員数が40人くらいいると聞いたから最低でもその人数分は必要だと考えて作ったからとにかく重い。
よいしょよいしょとゆっくり持って行くーーー。
のんびり持って行ったことがタイミング良かったのか。
ーーーこの間、多くの女性たちがいた扉が繋がるところまで行くとちょうど防具とヘルメットを外した部員の1人が扉を閉めるところが見えた。
「まっ、待って下さい!」
私は重い荷物を抱えて必死に走って叫んだ。
「今日は非公開練習だから、ごめんね・・」
「あのっ・・・はぁはぁ・・・」
息を切らしながら弁解しようとする私。
「ーーーん?」
「・・・これ、作ってきて・・・」
「えっ、貰って良いのかなぁ。ーーー確認するから・・・」
「ルナ?ーーーここで何してんの?(笑)」
その人と会話すること数分、前を歩いていたのがお兄ちゃんだったらしくて戻って来た。
「あっ、せいちゃ・・・いや。桐山さんにこれ頼まれて作って来たんだけど・・・あっ、電話しろって言われてするの忘れちゃった。」
お兄ちゃんはヒョイっと私の持ってる荷物を持ってくれた。
あーーー軽くなったー!
お兄ちゃんは鍵をガチャと開けてくれたーー。
「入れば?」
「えっ、いいの?太陽、入れちゃっていいの?」
「ーーーだってオレの妹だし?笑」
さっきの部員さんと軽くお兄ちゃんはやりとりして、
そのまま進んでいったーーー。
私はその人に会釈してお兄ちゃんの後に続いた。
・
「蜂蜜レモンだーー!うまそーー!これ、1人で作ったの!?大変だったでしょ。」
私も突然お邪魔するのはどうかと思ったけど、
思いのほかに歓迎されたーーー。
一般人・・・ファンの子達を入れてしまうと練習にならないからダメだけど太陽の妹なら別にって感じだったから私は星ちゃんの彼女だと言うことは伏せた。
ーーー多分それは星ちゃんも感じ取って何も言わなかった。
「さっきはゴメンね?」
みんながはちみつレモンを食べているのを見ながら私はその辺の芝生に座った。
そこにドスンと腰掛けて来た人、さっきのチームの人だった。
「いえ、こちらこそーーー・・・」
「太陽の妹なら最初から言ってよ(笑)」
「すいません笑」
「オレ、太陽や星也と同期入社の藍沢 良ね、よろしく!」
「ーーー広瀬ルナです。よろしくお願いします。」
私たちは握手したーーー、
なんか変な感じと思いながら。
ちょっと星ちゃんよりガタイが良くて小柄なその人は、
少年のような笑顔を持つ人、と言う印象だった。
ーーー明るくてよく話すその人はずーっと私の隣に座って話してくれている。
みんなに混ざって練習しなくて良いのかな、と思ってた。
「サボってないで練習しなさい!」
直後にマネージャーさんからお叱りを受けて渋々練習に向かったその人の後ろ姿を見て私は微笑をこぼした。
本当に少年みたいだな、と。
静ちゃんやお兄ちゃんたちの練習を見てるとこの前より違うことに気がついた。
この前の時は走ったりボールのキャッチ練習が多かったけど今日は本格的にディフェンスオフェンスに分かれて試合形式でやったり、
過去のビデオを見て補正すべき点はどこかを言い合ったりとこの前よりも真剣だった。
そうーーー、グランドもこの前の場所よりもっと死角があって見えない場所だなとは思ってた。
これが公開と非公開練習の違いなんだとーーー。
私はある意味恵まれてるんだな、って思った。
そしてみんな仲よくて楽しそうに練習していたこの前とは違い、
今日は真剣そのものだったことにも本気度が伝わった。
ーーー考えてみればそうだよね、
今シーズン中なんだもん、みんな本気だよね。
なんか大変な時に来てしまって申し訳なかったな、と思い・・・
私はみんなが遠くで練習している間に、
はちみつレモンのタッパーを片付けた。
「ーーーすいません、帰ります。」
そしてタイムを測ってたマネージャーさんに話しかけた。
「そう?持っといても良いのよ。」
「いえーー・・・大丈夫です。今日は貴重な経験になりました、ありがとうございました。」
「ーーー気をつけてね。」
そして私は自宅に戻るーーー、ではなくて会社の近くにあったカフェで星ちゃんを待つことにした。
・
「ーーーなんで突然帰ったんだ?」
星ちゃんが待ち合わせのカフェに来てから数分、
軽い夕飯を頼んで今はコーヒー飲んでる。
「えっ、だってみんな真剣なのに私邪魔したら迷惑だって思ってさ。」
「ーーーんなこと思わないだろ。」
「それに・・・」
「ん?」
「あそこにいた私は星ちゃんの彼女じゃなくてお兄ちゃんの妹だからーーー・・・」
不甲斐ないけど素直に言った、
この気持ちをどう誤魔化せば良いのか分からなかったから。
でもそれをきいた星ちゃんは一瞬固まって目を見開いて私を見て、
はぁぁぁぁっ、と大きなため息をついた。
ーーーうん、わかってる、なんとなく言いたいこと。
また、そんなこと言って、と言いたいんでしょ?
私も星ちゃんの言いたいことが分かってきたよ。
だからーーー・・・
星ちゃんは自宅に戻ってきたと同時に私に土下座した。
「えっ・・・なに?」
「ーーー無理はさせません!優しくします!だからーーー・・・抱かせてもらえませんか?」
なぜか全部敬語で言うから笑っちゃった。
「ぷっ!そんなこと?ーーー私はずっと良いよって言ってたじゃん、頑なだったの星ちゃんだよ(笑)」
「ーーー絶対に無理はさせません。」
「ーーーよろしくお願いします。」
初めてよ、行為をする前にお互いに正座してやり取りするなんて(笑)
でもそのおかげで・・・
私たちは一つにつながった。
それは本当に幸せな時間だった。
ルナは、という違和感を除いては・・・。
星ちゃん、あなたは誰とワタシを比較しているの?
今まで本気に好きになった人はいるのだろうか。
彼をこんな風な遊び人にしたきっかけは何だったんだろう。
彼との情事や言葉を思い出せば出すほど、自分に黒い感情が生まれた。
そんな自分が嫌で私は無理矢理目を閉じたんだーーー・・・。
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