【 わたしの好きなひと 】#20. 誤解*

わたしの好きなひと。

#20.

それから1週間ーーー、
今日はやけに校庭が賑わっている。
普段はあまり興味がないけど、
ちょうど私の座席から見えるから目を向けてみる。

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んっ?
んんん?
ーーーあれは、星ちゃん・・・か?

どうやら賑わっていた正体は星ちゃんを含む4個上の先輩たち数名がサッカーをしていたからだ。
ーーー2年と3年の一部の女子が騒いでた。
何で学校に星ちゃんたちが来ているんだろう?
昨日の電話では何も言ってなかったのに、と思った。

「ーーーあれ、何の騒ぎなの?」
「なんか昼休みに突然先輩たちがやって来て、校庭でサッカーしだしたんだって。みんな大興奮だよ!」
私はクラスメイトの女の子に聞いた。
突然やって来たって、何の用事がないのに学校に入れるものなの?
不思議だったけど、そのまま星ちゃんのいる校庭を眺めた。
私のクラスがある3階から校庭は見えるけど誰だか認識しずらくなってるーーー。
だから星ちゃんも絶対にここに私がいることに気がつかないと思う。
ーーーその証としてめちゃくちゃ楽しそうにサッカーしてる。

6時間授業のこの日は学校を4時前に出た。
ーーー帰宅部の私はそのまま帰宅することが多い。
でも今日は何となく星ちゃんの家に向かった。
・・・なんか、後から誰かにつけられている気がしたから。
ハッキリとしてるわけじゃないから誰にも話してはないけど、
一人で歩く道に何度か人の気配を感じることが最近増えた。
ふと後ろを見ると、誰もいないーーー。
そんなことが多い最近、ちょっと誰もいない家に帰るのが怖かった。

「珍しいな、ルナが学校の帰りここに来るなんて。」
そう、私はあまり学校の帰りに星ちゃんの家に来ることはしない。
誰かに見られたら大変なこともあるけど、
長居してしまって星ちゃんの自由時間を奪うのも嫌だったから。
でも・・・今日は来た。
「ーーーうん。」
玄関先で出迎えてくれた星ちゃんに私はギュッと抱き着いた。
細いけどきちんと筋肉あるこの体がすごく心地よい。
ーーーそこに触れるたび、この体で一体どれだけの女性を抱いて来たのだろうとも思うこともある。
「おっ、今日は甘えたさんか?(笑)」
私をからかう星ちゃん。
そんな星ちゃんの胸元の服を掴んだ私は必死に背伸びしてキスをしてやった。
星ちゃんはビックリしてたけど笑ってる。
余裕だね、星ちゃんは。
私はこれだけでもドキドキするのに。
一度唇を離して、睨みながら私はまたキスをした。
「ーーー何で怒りながらキスしてんの?(笑)・・・キスってのは・・・ほらっ。」
星ちゃんはふぁっと私を持ち上げてササっと靴を脱がせてキッチンに座らせた。
「ちょ、ちょっと・・・」
「これで背伸びしなくて良いだろ?笑」
ーーー星ちゃんと同じくらいの高さになった。
そして今度は星ちゃんから私の顎に手を乗せて唇を重ねて来た。
私が彼にするキスとは全然違う、
上手でずっとしていても気持ちが良いと思えるキス。
ーーーやっぱり違うな、って思う。
慣れてる星ちゃんと慣れていない私。
上手くなりたいなって思ったよ・・・。
普通のキスからちょっと深いキスも珍しくして来た。
普段は大きな瞳が垂れるくらい笑顔が多い星ちゃんだけど、
こう言う時の真顔で私を見つめる顔にもドキッとする。
今は私しか知らない顔にもドキッとする。
とろけそうになるキス、それを感じるのはきっと私だけじゃないはずーーー。
だって星ちゃんの瞳がそう言ってるように見えるから。
「ーーー悪い・・・」
星ちゃんは夢のような世界から突然現実に戻した。
「ううん、全然大丈夫・・・」
私は星ちゃんを見たけど、彼は視線を逸らして冷蔵庫から水分を取った。
「ーーーゴメン。これ以上したら、歯止めが効かなくなる。」
私は・・・、と言いかけた時に星ちゃんは言葉を繋げた。
「太陽との約束は破ることはできない。」
ーーーそうだよね、星ちゃんは女にだらしなくても友達はすごく大事にする人。
ましてや自分にとって親友だと思ってるお兄ちゃんとの約束を破るなんて出来ないよね。
どうしてお兄ちゃんとそんな約束をしたんだろうね。
「ーーー分かってるよ、私もそこまで求めてないから安心して。ごめんね、ちょっと寂しかっただけだから(笑)」
強がったーーー。
だってここで粘って抱かれたとしても、
それは星ちゃんの本心じゃないし絶対にお兄ちゃんを裏切ることはしないと思うから。
「ーーーゴメンな。」

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「それより今日はどうして学校にいたの?」
私は台所からコツンと降りて学校にいた理由を聞いた。
「あー、なんか高校のメンツでご飯食ってたら淳が学校行こうぜって話して来てみんなで押しかけようってなったんだ。」
「すごかったよ、クラスの子たちがみんな興奮してたよ(笑)」
「あぁ、すごいよなあの高校の子たち。なんていうか・・・積極的だよな(笑)」
「私には真似出来ないけどね(笑)」

「ーーーえっ、もう帰んの?お父さん遅いんだろ?夕飯食べて行けば?」
「やりたいこととか、私にも色々あるのよ(笑)」
「ーーー送るよ。」
腰掛けていた星ちゃんは立ち上がり鍵を持った。
「まだ暗くないし大丈夫だよ、ゆっくり休んでよ。」
「いやーーー、送る。」
「本当に大丈夫だって、また連絡するね!」
来るたびに送ってもらっていたらやっぱり気が引ける。
星ちゃんには自分の時間を優先してもらいたいと思った。

さらに数日が経過した今、
やっぱり誰かにつけられている気配がするのは歪めない。
うーん・・・
でもパッと見ると誰もいないんだよなぁ。
錯覚なのかなぁ・・・

「ーーー怜くん、今日って一緒に帰れたりする?」
「えっ、俺?」
同じ方向の怜くんに声をかけたーーー。
「あっ、無理なら良いんだけど。ゴメン、急に・・・」
「良いよ、ならさ駅前にできたアイスクリーム屋付き合ってくんない?」
「ーーーもちろん!」
怜くんからしたら私に声をかけられてびっくりだと思う。
でも告白されてから前より少し距離が近くなって、
お互いに話しやすい存在になってると私は感じているんだ。

アイスクリーム屋さんは出来たばかりもありすごい行列だった。
若いカップルや女の子同士が多く、
怜くんは行きづらいだろ?、と言いたそうだった。
「ーーーどうかした?」
でも私はやっぱり背後の気配が怖くて、
後ろに人が並んでいて動かれるとビクッと体が反応してしまうようになってた。
「あっ・・・ううん。」
「ーーーそう?」
でもそんなことが何度かあってーーー。

「ーーー順番長いな(笑)また空いてる時期狙って来ようかな(笑)ちょっと妹の誕生日買いたいんだ、広瀬選んでくれたりする?」
「えっ、良いけど・・・」
怜くんは気を利かせてくれたのか、
分からないけど私たちはアイスを食べずに列から外れた。
ちょっと外れにある繁華街の中にある雑貨屋に足を運ぶ。
ーーーやっぱり誰かに見られてる。
ハッと後ろを向く、誰もいないーーー。
「・・・広瀬?」
蒼白な顔をしていた私に怜くんは問いかけた。
困ってることある?、と。
私は2週間前から誰かにつけられている気がすること、
だからこうして今日一緒に帰ってほしいとお願いしたことを伝えた。
「マジ・・・。ゴメン、なんも知らないでこんなところ連れてきて。」
「いや、それは私が何も言わなかったから。」
「ーーー出よう!」
「えっ、ちょっ・・・」
怜くんは私の腕を掴み、
突然お店から出て走り出した。
もし本当につけられてるなら走ればその人を撒ける、と考えてくれたからだった。

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「ここまでくれば大丈夫だろ!って大丈夫?」
普段運動なんてしないから私の息切れがやばかった。
「・・・・ちょ、まっ・・・ふぅ・・・。ゴメン、運動しないから笑」
息を落ち着かせてから怜くんに返事した。
「ーーーなんも考えずに走ってゴメン!笑」
「さすが剣道部だね、息切れしてない(笑)」
「こんな距離じゃしないよ(笑)」
「あはは、そーだよね笑」
たわいもない会話がすごく楽しくて、
ちょっと座ったベンチでの時間が短く感じた。
「ーーーさっきの件だけど、星也先生は知ってるの?」
私は首を横に振った。
会った時に話すことも出来たし電話することも考えたけどーーー。
自分のことで星ちゃんに迷惑かけるのが嫌で、
話すことを諦めちゃった。
だって星ちゃんは優しいから絶対に何か策を考えては私を甘やかすのを分かってるから。
「広瀬、顔を上げて。」
怜くんは私の頬に自分の手を添えた。
ーーー私は怜くんを見つめた。

「あれ、草田?・・・と、広瀬?」
ーーー突然入ってきた野次馬の声、
クラスメイトの男女だった。
私の体がビクッと反応したので怜くんは咄嗟に私の肩を自分の方に抱き寄せた。
えっ、と怜くんの方を見るとすごい真面目な顔をしてた。
「ってやっぱり二人付き合ってんだな(笑)」
「いや、私たちはそういうわけでは・・・」
「お前たち、ここで何してんの?」
怜くんは冷静にクラスの子たちに話した。
「俺たちは・・・あっ、来た!星也先生ー!こっち!」
えっ・・・
望月くんの向かう声の方を見るとそこには女子たちに囲まれて手を繋いでる星ちゃんがいたーーー。

ど、どうしよう・・・。
こんなところ見られたらって思って私の頭の中は真っ白だった。
ーーーいや、もう既に見られているんだけど。
「俺たちはこいつらに星也先生と遊びたいと言われて来てもらったんだよー(笑)草田と広瀬はデート?」
悪気もなく聞いてくる望月くん、
そうだ彼はアメフト部だったんだ・・・。
「いや、私たちは・・・その・・・」
「俺が広瀬に頼んで付き合ってもらっただけだよ!望月たちが思ってるような関係ではないよ、ふられてるし。」
怜くんは私を庇って、星ちゃんに誤解を持たせないように話してくれた。
「ーーー怜くん、今日は帰ろう。」
私も冷静になるように努力して、
彼にそう伝えたーーー。
それが精一杯だった。

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