【 わたしの好きなひと 】#16. お母さんの本性*

わたしの好きなひと。

#16.

お母さんを招待した日、
私とお父さんで夕飯を作った。
ーーーお兄ちゃんは卓上に置くお花を買いに行った。

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お母さんが来たのは5時頃、
ちょうど夕飯ができた時間だった。
「お邪魔します」
少しよそよそしい感じだったけど、
やっぱりこの間の女性がお母さんだったーーー。
「ーーー覚えてる?って覚えてないわよね、まだルナは3歳になってなかったものね。」
「ごめんなさい、覚えていないです。」
「いいのよ、それが普通なんだから。」
ーーー花屋から帰宅したお兄ちゃんも加わった。
「ーーー太陽は覚えてる?」
「俺はもう小学生だったし、覚えてるよ。父さんとはずっと連絡取ってたの?」
「いいえ。3年前かな?偶然会ったのよね、それからまた連絡取るようになって・・・お母さんから戻りたいって言ったの。」
「母さんから出て行ったのに?」
お兄ちゃんは尽かさず突っ込んだ。
ーーーお母さんも少し気まずそうにした。
「そうね、身勝手だとは思ってるわ。あの時のお母さんは2人を育てる自信が持てなくてーーー。最低よね。」
今の話の流れからすると育児に自信がなくて、
私たち2人を捨てて家を出たってことなのかな。
「ーーーまぁいろんな事情があると思うし、俺は母さんが戻ってくるのは反対してないよ。」
お兄ちゃんは私をみた。
「私だって・・・反対はしてない!ーーーいつごろ、こっちに引っ越す予定なんですか?」
「ーーーまだ分からないよ。ルナもこれから大学始まるだろうし、その前とは思ってるけどな。」
お父さんが割り込んだーーー。
結局、引っ越してくるのは決まってるなら、反対したところで意味はないってことだね、と思った。

ご飯は、おいしい、美味しいと食べてくれた。
それは素直に嬉しかったーーー。
でもやっぱりお母さんなのかもしれないけど、
私はお母さんと思えなかった。
小学校中学校、そして高校とどうやって過ごし、どんな友達が出来たのか、とかいろんな話をした。
私だけじゃない、お兄ちゃんも同様に。
「ーーーご馳走様でした。」
「えっ、もう良いの?」
私があまり食べないことにお母さんは驚いてた。
「ーーールナはあまり食べないんだ、今日はまだ食べた方だよ。」
つかさずお父さんがフォローした。
「だからそんなに細いのね。もっとしっかり食べないと将来大丈夫か不安だわ。」
ーーー分かってるさ、そんなこと。
でもどんなに食べても胃が大きくならないんだから仕方ないじゃんか。
「ーーー努力します。」
だから私は冷静にそう答えんだ。

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ーーーそして今、部屋にいる。
家族団欒とは言い難いものだったけど、
お父さんもデレデレでお兄ちゃんも顔には出さないけどやっぱりお母さんに会えて嬉しそうだった。
・・・私の心が狭いのかな?
私だけが蚊帳の外という感じで、居心地が非常に悪かった。

慣れない空間にいて、私は頭痛がひどくなった。
もともと環境の変化への偏頭痛持ちだから、
今日はなおさら強い頭痛でつらいーーー。

「・・・もしもし?」
そんな時に今一番に会いたいと思ってる星ちゃんから電話が来て涙が溢れた。
「おっ、今平気か?」
「ーーーうん。」
「ん?ーーー泣いてる?」
そんなこと言われたら余計に涙が溢れてくる。
「ーーー」
「おいっ、なんかあったーーー・・・?」
「違う・・・。会いたいって・・・会いたいなぁって思ってたら電話が来て嬉しくて。」
「もっと嬉しいニュース聞かせてやろうか?」
「ーーーなぁに?」
「今、ルナの家の外にいるよ。」
「えっ!!」
私は驚いて窓から外を覗くと、
こっちに向かって笑顔で手を振る星ちゃんの姿が見えた。
「今行く!」

コートを羽織って部屋を出て、玄関に急ぐ。
「どこに行くの?」
「あっ、ちょっと知り合いが近くに来てて少し会ってきます。」
お母さんに呼び止められた。
「ーーー星也?」
そのやりとりに違和感を覚えたお兄ちゃんが割り込んだ。
「ーーーうん。今、帰ってきたんだって。会って来ても良い?」
「良いよ、気をつけろよ。」
お兄ちゃんは許してくれたものの、また割り込んだのはお母さんだった。
「いつもこんな遅くに出かけるの?危ないんじゃないの?何があってからでは・・・女の子なんだし。」
「ーーーあの、付き合ってる人なんです。年明けで久しぶりに会うので・・・」
「ーーー私は反対よ。そんな勝手に人の家に来て夜に女の子を連れ出す人なんて、反対よ。」
「ーーー彼は信頼できる人だよ、母さんが心配することは・・・」
「ありますよ!太陽は黙ってなさい!」
お兄ちゃんを一言で黙らせた・・・
違うよ、そんなの違うでしょ・・・
「ーーーあなたはお母さんじゃない。」
「えっ?」
「ーーー私もお兄ちゃんを捨てたなら戻って来ないでよ!お兄ちゃんを侮辱すんな。あんたなんかお母さんじゃない!」
私はそのまま家を飛び出したーーー。

大嫌いだーーー。
あんな人、大嫌い、そう思った。
心底嫌いだと思った。
ドンっ!
「うわぁ!」
家から出て全速力で走り、私は星ちゃんに涙を見られないように抱きついた。
悔しかった、お兄ちゃを侮辱して、
まるで家長のように振る舞うその姿が。
ーーーお父さんが酔って寝ているからって、
見えないところでコソコソやられるのが気分悪かった。
「ーーーるな?だいじょ・・・やっぱりなんかあったんだよな?」
「いいから・・・このままでいて、お願いだから。」
星ちゃんはその後は何も聞かずに私を抱きしめてくれていた、強く強く。

「ーーー星也」
その声を聞いて私はビクッと体を震わせた。
お兄ちゃんだーーー。
「・・・太陽。どういうことだ?なんでルナが泣いてるんだ?」
星ちゃんは私を抱きしめる力にさらに力を込めながらお兄ちゃんに投げかけた。
ーーー必死にお兄ちゃんへの怒りを抑えてるのが伝わった。
「ルナ、悪かった。俺が悪かったーー。ルナの気持ち、全くわかってなかった。兄貴失格だわ・・・星也、今日ルナを連れて帰ってもらえないか?」
「ーーー良いけど、良いのか?」
「・・・あの約束は健全だからな。だけど今、家に戻る方がちょっと不安だ。ルナは特に今暴言吐いたばかりで母さんも怒り心頭だから。」
「お兄ちゃんは?!」
「ーーー俺は夜中にあっちに戻るよ。今、未来がこっちに向かってくれてる。ーーー良いか、もし明日家に戻ってまた母さんに何か言われたらすぐに俺に連絡しろ。父さんでは相手にならないと思うから、約束しろ。」
「ーーーわかった。」
「頼むよ、星也。」
「オッケー!」
星ちゃんは私の手を引いて、自分の家の方に歩いた。
私は何度もお兄ちゃんの方を向いたけど、
こっちに向かって笑顔で手を振ってるだけだった。
ーーー大丈夫なのかな、という不安をその笑顔が消し去ってくれた。

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