#155.
聖ちゃんの震える手、
それに便乗して僕の手も震えてお互いに笑みが溢れた。
計算外だけどきっと少しの緊張は解れたはずーーー。
*
壇上に立って聖ちゃんは深呼吸を置いてから話し出した。
ーーーまさか励ます側の僕が逆に励まされるとは思わなかったけど聞く耳を立てて僕はひたすら妻になった聖ちゃんのスピーチに集中した。
「本日はお忙しい中お集まりくださりありがとうございます。こんなにたくさんの方にお祝いして頂けて私たちはとても今幸せです。
特に九重くん、本当にありがとう。」
スピーチの中にはなかったお礼の言葉と会釈、
僕も慌てて会釈をするーーー。
そして聖ちゃんは原稿を手にして両親への手紙を読み始めた。
「ーーーお父さんお母さん、今日まで育ててくれてありがとうございました。正直、両親への手紙で何をどう伝えたら良いのか分かりませんでした。昔から要領悪くて鈍臭い私を見守ってくれていた優しいお父さん、そんな私を厳しく育ててくれたお母さん、今では本当に感謝しています。ーーーきっと親不孝なこともしたと思っています。だけど今ここに私がこうして幸せにいるにはその時は必要だったんだと思います。あの時、何も言わずに背中を押してくれて応援してくれてありがとう。今日から別の道を歩んで行きますが、子供達の親として、そして晶くんの妻として幸せに進んで行きたいと思います。ありがとうございました。」
これを考えるだけでも聖ちゃんは相当悩んでた。
何度も僕に意見を求めて来たーー。
どれもこれも良いと思って伝えても彼女の中で納得できないようで結局書き直し始めてやっと出来上がった両親への感謝の手紙。
ご両親、特にお母さんは厳しくて甘えたことがないと言ってた聖ちゃん。
だからこそたくさん悩んで書き終えた手紙なんだろう。
隣に立つ聖ちゃんは涙を流しており、
僕は司会者さんに渡されたティッシュで彼女の涙を拭った。
僕が知る限り彼女の手紙はここで終わりのはず、だった。
彼女は原稿を閉じて一瞬目を閉じてまた話し出した。
「そしてーーー、晶さんのお母さん。たくさん苦労をかけたくさんお母様を泣かせてしまったこと本当に申し訳なかったと思っています。晶くんを憎んだ日もあったでしょう、私を憎んだこともあったでしょう。
子供を産んだ今なら分かります、我が子を真っ当な道に進めたいと言うお母さんの気持ちがよく分かります。
だけど最後の最後で私たちを応援してくれ今では1番の味方になってくださっていること本当に感謝しても感謝しきれません。
私もお母さんのように我が子を愛し、強い人でありたいと思っています。
これから黒岩家の嫁としてたくさん色んなことを教えてもらいたい、未熟な嫁ですがどうぞよろしくお願いします。」
深々と聖ちゃんは向こうに佇む母さんに向かって深々と頭を下げたーーー。
頭を下げたその先に聖ちゃんの涙がこぼれ落ちるのが見えたーーー。
晶くんのお母さんに認めてもらえたことが私は1番嬉しいかな。
僕は隣で頭を下げる聖ちゃんに手を差し伸べながらいつか言ってた彼女の言葉を思い出していた。
私も愛子さんみたいな芯が強くて優しいお母さんになりたいな。
大丈夫、聖ちゃんならなれるよ、そう思いながら僕も深々と頭を下げた。
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