「ゴメン、今日行けない。」
たったこれだけのメールだけど、
待ち合わせの場所まで向かっていた僕を一瞬にして地獄に落とした。
*
正直意味が分からなかったーーー。
聖ちゃんはすごく真面目な性格だから普段からドタキャンをしないのに、
だからこそ僕の心は変な焦りを覚えた。
すぐさま電話したけど彼女にたどり着くことはない。
急ぎ足で自宅に戻るとーーー、
ちょうどエントランスから出て来た彼女と遭遇した。
僕を見るなり気まずそうな顔をして逃げ足でエントランスホールから離れていく聖ちゃん、
追いつかれるのなんて分かってるのに必死で逃げて行く。
僕は彼女の腕を掴んで問い掛けた。
あなた・・・って。
僕の名前を聖ちゃんは呼ばなかったことに衝撃を受けた。
それに僕とは話したくないって、何で?
僕が彼女からの言葉に理解に苦しんでると、
その隙を狙ったように僕の前から立ち去ろうとした。
ーーーそんなことはさせない。
今、僕は後輩に向き合うべきだと話して来たんだ。
そんな僕が大事な人と向き合わないわけにはいかない、変な責任感があった。
僕は彼女の腕をギュッと掴んで、
強引にだけどーーー、不本意だったけど彼女を強引に自宅に戻した。
*
いつも楽しく食卓を囲む場所、
こんなにも会話のない日は未だかつてなかった。
僕は聖ちゃんに脅迫ともとられる言葉を伝えた。
ちょっと厳しいかな、と言い直そうとしたときには遅くて本当に初めてだったと思うーーー。
彼女が僕に対して鋭い目付きを向けていて、それに悪い意味での焦りと胸騒ぎを感じた。
鋭いーー、だけど真剣な眼差しで逆に問いかけられ少しの恐怖を感じた。
何のことを言ってるのか分からなくて僕が途方に暮れてると聖ちゃんが口を開いた。
悲しそうな表情で僕を見る聖ちゃんーーー。
聖ちゃんが感情的に話してるのは分かってる、だけど僕も止まらなくなってきた。
僕はテーブル越しにバンっと大きい音を立てた。
返す言葉もなかったーーー。
何も言い返せなかった。
いつ俺が優しくしたーーー?
いつ俺が同僚に笑いかけた?
ただ聖ちゃんのために、子供たちのために、家族のために一生懸命働いてるつもりだったのにそれを全否定されたと感じた。
*
その場に座り込むこと数時間、
すっかり夕飯も食べるのを忘れてしまった。
どんなに沈んでいてもお腹は空くのが人間の原理、
こんな時はお腹すいて欲しくないのに。
聖ちゃんがいつ、
どこに行ったのかも知らないーーー。
その夜、
彼女は帰って来なかった。
もちろん子供達も。
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