時刻は夕方の4時になろうとしていた。
打ち上げは六時から、
少しずつ社内の人が打ち上げ会場に動き始めた。
*
僕と向井さんも仕事を片付けて、
同じチームの他のメンバーを待って移動を始めた。
今回のプロジェクトは大きなシステムの構築だったことからチームだけではなく携わった人たちや会社の人たちが呼ばれている。
だから出張と題して来た僕たちも、僕たちの部長もお呼ばれしているわけだ。
「向井さんたちは東京でどんなお店に行くんですか?」
先ほど出欠を取りに来た同じチームの新入社員、
どうやら彼女は向井さんを狙っているようだった。
最後の今になってやっと覚えたけど彼女の名前は佐々木さん、
よく見ると高身長で細身で向井さんと並んでも釣り合ってる。
ーーー僕は苦手なタイプだけど。
「東京に出張になったとき、案内してもらえますか?」
意外と積極的な彼女に向井さんは相槌を打ちながら僕に冷たい視線を送り、
僕はそれに対して笑いをこらえた。
「黒岩さんの奥さんはどんな方なんですか?」
「ぼ、僕ですか?」
向井さんにずーと話しかけていたから突然僕に話を振られて焦った。
「えっ、はい?なんか変なこと言いましたか?」
「あっ、いえ・・・僕の奥さんは・・・」
僕が聖ちゃんのことを話そうとした時、僕の腕に佐々木さんの腕が絡まれたことを感じて咄嗟に一歩引いた。
それでも引いてこない佐々木さんに僕は嫌悪感を抱いて、
無理やり彼女の手を離そうとしている時に向こうから「パパー」と呼ぶ小さい存在にハッと顔を向けた。
澪がーーー、
澪がパパと言った。
その横で潤が少しずつ一歩一歩を踏み出していた。
それを後ろから心配そうに見守る聖ちゃんと母さんの姿。
そしてなぜか土屋部長夫婦までもその場にいて。
理解できない状況ではあったけど、
僕は佐々木さんの腕を力強く振り払って僕の家族の元に走った。
*
「澪!潤!」
僕は子供達に駆け寄って強く抱きしめた。
会いたかった我が子たちに会える喜び、
大好きな聖ちゃんが目の前にいる喜びは言葉に表せないものだったーーー。
こらえきれる自信がない涙を僕は顔を埋めることでかき消した。
さっきまで抱えていた不安も、
聖ちゃんと連絡がつかなかったことへの苛立ちも、
全て忘れて僕はその場が公の場所であるのも忘れてーーー、
聖ちゃんをも抱きしめた。
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