目を瞑りお腹の胎動を耳と手で感じながら、
未来のことを想像する。
それが僕は幸せで本当に幸せでーーー。

聖ちゃんの冷たい手先が僕の頭を撫で頬に触れた瞬間に我に返った。
上から心配そうに覗き込む彼女にーーー、
僕の頰に触れている彼女の指先にそっと自分の手を重ねた。

僕はもう一度瞳を閉じた。
そんな僕にクスッと笑った聖ちゃんはキスを落として来た。
ーーー聖ちゃんからのまさかの行動も、
お腹の子たちの動きも何もかもが幸せで仕事をしなければならないのに僕はあまりの心地良さにそのまま眠ってしまった。
*
そんな僕を現実に引き戻したのは次の日の朝だ。
幸いにも土曜で会社は休みだったものの月曜に向けてのプレゼン資料を作らなければなからなかった。
週末くらいは聖ちゃんとだけの時間を使いたかったのに、と。

リビングに向かうと既に朝食の準備がされていて聖ちゃんはちょうどコーヒーを手にしているところだった。


聖ちゃんはいつもの聖ちゃんで、
僕はその姿に安心を覚えた。
*

結局僕は午後から休日出勤をすることにした。
聖ちゃんと相談した上で、彼女にとって良い方を取ろうと思った。

その聖ちゃんの言葉に甘えて僕は会社に出向くことに決めた。
だけど資料を作るだけ、遅くはならない。
外食を好まない聖ちゃんだけど駅前にできたレストランが気になると言ってくれて僕たちは待ち合わせをして行くことに決めた。
会社に出向くと僕のチームの人はおらず、
フロア全体を見渡しても数人しか見えなかった。
僕は今ある研究をしていてその研究成果を月曜に発表することになっている、
それが認められれば会社としても僕としても凄いことだからこそこれは頑張りたい。
コーヒーを買って自身のパソコンと向き合って資料を作り出す自分、
時々デスクの中に隠してある聖ちゃんと僕の9年前に船の上で撮った唯一のツーショット写真を眺める。
聖ちゃんにとって僕が渡したハチマキが活力なように僕にとってこの唯一のツーショット写真が活力なんだ。
写真を見て時々連絡を入れながら、
僕は無事に仕事を終わらせることが出来た。
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