僕は自分が寝てしまっていたことにも、
自分の起きた時間にも焦ったーー。
急いでシワシワになってしまったスーツを着替え、
聖ちゃんに頼まれたハチマキをベットチェストの引き出しから出した。
*
急いで病院に向かうと聖ちゃんはベットに横たわり、
窓から少しだけ見える夕日を眺めていた。
昌
聖ちゃん・・入っても?
僕はなんか彼女が消えかけているように見え不安にかられそっと問い掛けた。
僕の存在に気がついた聖ちゃんはフッと笑って言った。
聖
何をいまさら(笑)
聖ちゃんの隣に腰掛けて僕は彼女の手を握った。
そんな僕に聖ちゃんは驚いた表情を見せたけど、微笑んでいた。
聖
昔、山江島で夕日を見る時間が一番好きだって言ってたよね。わたし、今ならその気持ちが分かる。夕日を見ると本当に嫌なことを忘れられるね。
昌
僕も見せたいものが!
携帯を取り出して聖ちゃんに見せた。
昌
会社から見える夕日です、本当に綺麗で聖ちゃんに見せたいと思いながら毎日撮ることが日課となりました(笑)
聖
毎日は撮りすぎでしょ(笑)あっ、ハチマキ持って来てくれた?
昌
持って来ました。
僕は鞄から取り出して聖ちゃんに渡すと、彼女は本当に大切そうに握りしめて僕にお礼を言った。
ちょうどその時にサクラ先生と看護師の小松さんが入って来た。
「ご主人もご一緒ですね。検査の結果ですが腹痛の原因が分かりました。簡単に言えば菌が子宮の中に入ってしまったことが原因で数値もかなり高くなっています。」
そう言って血液検査の結果を出されたけどイマイチ分からなくて小松さんが説明してくれた。
菌にもいろいろ種類があるようで今回聖ちゃんの子宮に悪さをしているのは恐らくどこか出かけた時に入ってしまったウイルスが運悪く子宮に入って悪さをしているとのことだった。
「この数値が正常になるまで退院はできません。おそらく1週間は入院だと思ってください。痛み止めも点滴で打ってますがあまり打ちすぎても逆に痛みを我慢しすぎても胎児に影響が出てしまうので治療も難しいところです。ーーーでも黒岩さんはお母さんになっています、大丈夫です!数値が下がるまで一緒に頑張りましょう。」
「もうすぐ痛み止めも切れてくる時間です。痛み出したらまたナースコールを押してくださいね。」
聖
ーーーごめんね、家を空けちゃうけど。
先生たちが去ってから聖ちゃんは言った。
昌
そんなこと気にしなくて良いんです。今はーーー、自分のことだけを考えて。それに僕は聖ちゃんに甘えすぎていました、きっとこれは自分が変わるチャンスなんだと思います。
聖
ーーー黒岩君、ハチマキありがとう。明日はちゃんと仕事に行って欲しいし、今日はもう帰った方が良いんじゃないかな?
ちょっと良い雰囲気だと思ったら一瞬で聖ちゃんは僕を突き放す。
昌
まだ僕は・・・
聖
もうすぐ痛み止めが切れてしまうの。あきら君もまだ疲れ取れてないのに私のことで留まって欲しくない。・・・あなたの前で苦しんでる姿を見せたくないの。黒岩君の前では笑っていたい、だから帰って欲しい・・・
昌
何で?僕たち夫婦ですよね?楽しいことだけじゃなく辛いことも僕は・・・聖ちゃんのことなら知りたい。側にいたい。それにこうなったのは僕の責任でもあると思います。
聖
黒岩君の責任?
昌
僕が仕事ばかりしてて聖ちゃんに寂しい思いをさせていたのは事実で。だからあんな変なことも考えさせちゃったわけだし。それに言葉では体を大切にしてと言いながら検診についていくことも話を聞くこともしなかった。自分の責任です。ーーー後悔したくないんです。聖ちゃんと一緒にいなかったことを後悔したくない。
聖
子供が生まれることプレッシャーになってる?
昌
なってないって言ったら嘘になります。でもそれは良い意味でのプレッシャーで、人一倍頑張ろうと思える活力なんです。
聖
妊娠が早すぎたって思ったりした?
昌
何でそうなるんですか?!そんなこと思うわけないです!大好きな聖ちゃんと僕の子供ですよ?
聖
ーーわたしは少しずつ大きくなる自分のお腹に不安を感じたよ。どんだけ大きくなるんだろう、あきら君に女としてみてもらえなくなるんだろう、とか。そんな自分に妊娠は早すぎたのかな、とか。仕事するのが悪いとは思わないけど帰りたい場所ではないんだろうな、とか。考えたよ、たくさん。昔の黒岩君は真っ直ぐに気持ちを伝えてくれて不安になることなんてなかったのに今の黒岩君は気持ちが読めないことが多くて不安になる。ーーーだから今、嬉しかったよ。大好きだって言ってくれて。
昌
もっと信用してください!僕が誰のために頑張れるのか。全部聖ちゃんなんですよ?僕の全ては聖ちゃんなんです!ーーーだから辛いことも楽しいこともなんでも分かち合ってよ、それが夫婦でしょ?
聖
ーーーそうだね。わたしは意地を張ってばかりでゴメンね。
聖ちゃんは涙を流しながら微笑んでくれた。
そして僕が握っていた手を強く握り返してくれ、
それを合図に僕は彼女にキスを落とし、
強く強くこれでもかってくらい抱きしめたーーー。
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