聖ちゃんの病室から逃げ出してしまった僕はどうしたら良いのかさえも分からなくて自分自身を落ち着かせるために自販でコーヒーを購入した。
「黒岩さんですよね?」
「あっ、先生・・・妻は大丈夫ですか?お腹の子たちは・・・」
僕に声を掛けてきたのは聖ちゃんがべた褒めしていた先生だ。
数回しか会ったことはないけど特徴あるパーマのかかった髪型ですぐに覚えた。
「大丈夫ですよ、今は検査結果待ちなのでまだ詳しくは分かりませんが。」
「僕に何ができますか?」
「奥さんのそばにいてあげてください。ーーー確かに看護師に任せれば対応は出来ます、だけど奥さんが一番そばにいて欲しいのは看護師でも僕たち医者でもなく、旦那さんだと思いますよ。」
( ーーーどんなことがあっても黒岩くんのそばにいたい。 )
その先生の言葉と同時に聖ちゃんに言われた言葉を思い出した僕は急ぎ足で病室に戻った。
*
僕が病室に戻ると相変わらず看護師さんに背中をさすってもらっている聖ちゃんの姿があった。
こんなに苦しむほどの痛みなら何かの異常が起こってるのではないかと僕は不安を消せなかったけど、
もう後ずさりせずに前に進んだ。
僕は看護師さんに伝えると聖ちゃんの手を握りしめて背中をさすり始めた。
ハッキリ言えない言葉だけど何が言いたいのか分かったし、
それほどの痛みを抱えているのも伝わってきて何も出来ない僕は悔しかった。
「先ほど痛み止めを投与したのでもう少しで効果は出てくると思います。何かあったらナースコールを押してください、失礼します。」
看護師さんが出て行ったのを確認して僕は椅子に腰掛けた。
聖ちゃんは握りしめる僕の手に力を入れた、
それはきっと痛みを我慢してる瞬間なんだろう。
どのくらい彼女の背中をさすっていたんだろう、
30分くらいなのか分からない。
だけど少しずつ薬の効果が現れ、聖ちゃんの様子も落ち着いてきたように見えた。
*
さっきまであんなに強く握りしめていた僕の手を彼女は離した。
反論する元気もなく聖ちゃんは一言だけ返し、一点をずーと見つめていた。
僕の問いかけに聖ちゃんはやっと僕の目を見た。
聖ちゃんはまた天井を見上げたーーー。
聖ちゃんの目と言葉からここにいて欲しくない、という冷たい感情が本当に伝わってきて僕はもう何も言えなかった。
僕は病院を後にしてそのまま自宅に戻った。
聖ちゃんの言うように僕はずーと寝不足で、
確かに疲れもあってイライラもしてる。
だから自宅に戻って着替えることもせずにそのままベッドに倒れた。
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