「黒岩くん聞いてるか?」
勝太郎さんの言葉を聞いて僕の頭は真っ白になった。
聖ちゃんが病院に運ばれた?
何で?何で?疑問ばかりが・・・
「黒岩くん、しっかり!聖は大丈夫だから!ーーー今日、出張から帰ると聞いたから○○病院に来て欲しい。分かった?」
「ーーーわかりました!」
こんな時なのに落ち着いている勝太郎さんの話を聞きながら僕は自分の不甲斐なさを噛み締めていた。
聖ちゃんに会いたい、
その一心で全ての仕事を終わらせマッハで病院へと向かった。
「少年!こっち!」
僕を待ち受けていたのはあの人ではなく、原口さんだった。
「お久しぶりです、聖ちゃんは?」
「ーーー今眠ったところなのよ、ずーと寝れなかったみたいで少し休ませてあげて。」
原口さんは勝太郎さんとの子供を身ごもり、
あの人がシンガポール赴任から帰国した2年後に結婚した。
そしてらさらに3年が経過した今、何と2人目を妊娠中だ。
「何で病院に運ばれたんですか?」
僕と原口さんは待合室にある自販でコーヒーを飲みながら少しだけ話をすることにした。
「ーーー聖ちゃんがある人にストーカーじみたことされていたの知ってるんだよね?そのことで私が聖ちゃんから就職先の相談を受けて今は何も出来ないから河合に何とかしてあげろって頼んだ。病院に運ばれたのもその人が原因みたいだけど詳しくは私も知らない。本人から聞くべき!だけど少年、聖ちゃんが苦しんでる時何してた?話を聞こうと寄り添おうとした?」
原口さんの言葉に自分の行動を恥じたーーー。
あの日、僕は勝太郎さんと聖ちゃんを見かけて嫉妬して。
自分のことでいっぱいで、
単に彼女を抱くという行為で満足して。
聖ちゃんの気持ちに寄り添うどころか、
自分の気持ちの思うがままにしか行動していない。
昨日も「大事な話があるの」と言っていたのに耳を貸そうともしなかったーーー。
「オレは・・・」
そう原口さんに何かを言いかけた時、
「末永さんが目をさましましたよ」という看護師さんの声掛けで僕と原口さんの会話は終わった。
「私は帰るから!あとは2人で解決しな!じゃあな、少年!」
突然現れて突然消える、
まるでチーターのように原口さんは僕の前から去った。
*
僕が病室に入ると病室の窓から見える夕日を眺める聖ちゃんの背中が寂しそうに見えた。
「えっ?黒岩くん?何でここに・・」
僕は今にも消え入りそうな彼女を抱きしめ、そっと離した。
驚く彼女をよそに「大丈夫?」と確認しようと彼女の頰に手を当てようとしたら一瞬彼女の体が固まり怯えるような表情をしたのが分かった。
それで何が起こって今ここに聖ちゃんがいるのか、
何となくの想像はついてしまった。
「ご、ごめんなさい。」
「聖ちゃん、オレのこと怖いですか・・?」
「そうじゃないの、ごめんなさい。」
そう言って彼女は僕の手を掴んだ、とても強く。

そして聖ちゃんは深呼吸をおいて話し出したーーー。

「えっ?」
何度も吐きそうになる聖ちゃんを支えながら僕は自分がここまで耳を傾けていなかったことを後悔では済まない感情を抱いていた。

言葉も出なかったーーー、抱きしめることも今の彼女は望んでないと思った。
ただ側にいれば安心するならいつでもいつまでも側にいる、
だけど俺はここまで苦しめたその人を許せないーーー。



聖ちゃん自身が混乱しているのが痛いほど伝わってきた。
ただ泣きながら僕に「ごめんね」と謝り続ける聖ちゃんを目の当たりにして、
ここまで苦しんでいたことに気がつかなかったこと、
自分のことばかりで幸せならそれで全てが解決していたと思っていた悔しさ、
大切な彼女を肝心な時に守れなかった悔しさで僕も涙が溢れたーーー。
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