「黒岩、明日から出張!大阪に!1週間!」
この残酷な通知を受けたのは数日後のことで、
あの日から僕の頭はまるでお花畑にいるように周りがピンク色にしか見えてなかった。
それが真っ黒な暗闇の底に落とされた気分になった。
本来なら気にするべきところではないが、
勝太郎さんがいた場所できっと彼女もなんども行ったんだろう、と変な嫉妬を覚えた。
自分の中に生まれたグレーの気持ちを消すように話題を切り替えた。
実は今朝方に“退職届を出してくる”と聖ちゃんから連絡を受けていた。
聖ちゃんはクスッと笑った。
*
大阪で過ごすこと3日、
近ければ連絡も取らない僕たちだけどあの日から何かと頻繁に連絡をくれるようになった聖ちゃん。
ーーー時々離れるのは良いことだ、なんて思った。
大阪の人たちにも浮かれていることを突っ込まれ、
「若いって良いねぇ」と言われ続けてる。
あっちの人はノリがまず違う、そして飲む飲む!
ーーー聖ちゃんには絶対に言えないけど、
人生で初めてキャバクラデビューした。
だからそのバチが当たったんだと思う。
彼女からのメールを受信したのは次の日の昼間、
大阪勤務になった同期数人と観光していた時だった。
ーーー僕がそのメールに気づいたのはホテルに戻った夜、
何度電話しても出ない聖ちゃんに不安を覚えた。
*
やっと聖ちゃんと連絡が取れたのは次の日の朝、
ぼくは何度彼女に電話したのか分からないーーー。
ただ電波の届かない、というアナウンスを何度も聞かされて疲れ果てていたオレは・・・
と電話越しに感情的に怒鳴ってしまった。
それに対して聖ちゃんはただ謝っているだけだった。
そう言っていたのにーーー、
聖ちゃんは元気そうに言っていたのに・・・
僕は気づきもしなかった、
彼女の闇に。
彼女が苦しんでいたことも、
本当は怯えていたことも。
ただ楽しそうに話す彼女の声を聞くだけで、
僕も幸せで楽しくて、
それだけで満足してしまっていた。
自分のことしか考えられなくて、
聖ちゃんのことなんて全く考えてもいなかった。
ーーー決められた未来なんてないのに。
自分で切り開いていくしかないのに、
突然その人が消えてしまうかもしれないのに。
*
「聖が病院に運ばれた」
勝太郎さんからそう連絡が来たのは打ち合わせ直前のことだった。
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