しばらくの沈黙の後、口を開いたのは聖ちゃんの方だった。
1人になるのは怖いんじゃないのか、と伝えたかったのを遮るように笑顔で彼女は言った。
そして・・・
帰路に向かう中、俺はある決意をした。
次の日の業務は出張の報告書作りから始まり打ち合わせで終了したものの、面会時間には間に合わなかった。
僕はずーと考えていた、
聖ちゃんの覚悟はできているという意味を。
そして大事な話があると言ったことはこのことだったのだろうか、と。
ーーーでもまだ臆病な俺は聞けなかった。
覚悟が出来ているーーー、その意味は俺でも分かる。
自分を犠牲にしてまで俺との未来を考えてくれた僕の初恋の人を簡単に手放すわけないのに。
僕の決意は固いのに、
好きだけでは聖ちゃんには伝わらない。
言葉だけでは伝わらない、
行動に移さないと。
ーーー分かってる、今の僕ではまだ聖ちゃんを幸せに出来ないことくらい。
何をどうしたら彼女を幸せにできるんだろう。
僕しかいないのにーーー。
オレが聖ちゃんに会いに行けたのは結局週末の午後だった。
「屋上にいますよ」と看護師さんに教えてもらって駆け足で急いだーーー。
天を仰ぐように、
微笑を浮かべて空を見上げる聖ちゃんの姿を見つけた。
教えて、聖ちゃん。
ーーー今、何を思ってるのか。
僕はどうすれば聖ちゃんを幸せにできるのか。
どうしたらこの想いが本物でなによりも強いものだと信じてもらえるのか。
教えてよ、聖ちゃん。
*
僕は空を見上げる聖ちゃんの邪魔にならないように側に座った。
きちんと話そう、
僕の決意と今後のことをーーー。
僕の姿を確認した聖ちゃんは少し驚いた顔をしたけどニコッと微笑んだ。
「なかなか来れなくてゴメンーーー。」
「今、ここに来てくれた。それだけで・・ありがとう」
「聖ちゃん、僕に覚悟は出来てるって言いましたよね?」
「えっ?ーーーうん」
「だったら僕の覚悟も聞いて欲しいです。僕は何があってもどんなことをしても聖ちゃんから離れたりはしません!やっと聖ちゃんのそばにいられるのに、聖ちゃんが自分が傷ついてまで僕との未来を考えてくれたのに僕は何も出来なくて・・ただ聖ちゃんを好きだという気持ちしか出せなくて悔しくて。聖ちゃんを傷つける全てのものから守りたいのにうまくいかなくて。ーーー僕はずーとこの先も聖ちゃんと一緒にいたいんです。どんな障害も一緒に乗り越えていきたいーーー。聖ちゃんの側に居て守ってあげたい。ずーと優しくしていたい。僕は頼りないかもしれない、だけど聖ちゃんの側にいさせてもらえませんか?聖ちゃんを笑顔にしたいんです、幸せにしたいんです」
「ーーーわたしも黒岩くんの側にいたい。後悔ない人生を一緒に歩んでいきたい」
僕が抱きしめるのをためらってると、聖ちゃんから抱きついてくれた。
「ーーー黒岩くんが大好きです」
そう彼女は呟いたーーー。
この上なく幸せで、
これまでの苦しみが全て消えていきそうな感覚になった。
ーーー僕は言葉の代わりに彼女にキスを落とした。
「ーーーもう絶対に離しませんからね」
とも伝えておいた。
聖ちゃんの退院が決まったのは翌週の水曜日のこと、
入社2年目の僕は数少ない有休消化をお願いして付き添った。
「子供じゃないし1人でも大丈夫だったのに」
「帰るの怖いって言ってたじゃないですか(笑)」
大丈夫なんて言葉は今は信じない、
聖ちゃんは実際に部屋に入る時、不安そうな顔をしてたのを僕は見すごさなかった。
ーーー今も盗聴器が部屋のどこかに隠されてる。
相手は警察にいたとしても不安になるのは無理がない。
だから僕は彼女にある書面を見せたーーー。
母さんにはこの1週間で説得を続けた、
反対されていたけど俺の説得が効いたのか最終的に言われた言葉は・・・
「一緒に住むということは最後はケジメをとるってこと、その覚悟がないならやめなさい」だった。
覚悟ならもう、聖ちゃんを好きになった時からあるよ。
ーーー絶対に彼女と一緒になると15の夏から決めていた。
驚きを隠せない聖ちゃんの表情は少し面白かった。
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