もうすぐ安定期に入ると言われている頃、
聖ちゃんの悪阻も少しずつ落ち着いて来たようだった。
体調が悪くて立てなかった台所に立てた時、
聖ちゃんはとても嬉しそうにしていた。
それに加えて朝ごはんもお弁当も、
以前のように作ってくれるようになり僕も嬉しい。
*
昌
今日も遅くなると思うから先に寝てて。
ただ唯一変わらないのは僕の残業の多さだった。
ここ数ヶ月立て込む仕事が多く、
さらに年末に向けて仕事も忙しくなって来ている。
帰ってから夕飯を食べることも出来るけど、
そしたら聖ちゃんは絶対に起きて待っている。
僕はそれを避けたくてなるべく外で食べるようにしていた。
聖
仕事頑張ってね。
残業を伝えるための電話越しでも彼女の軽いため息が聞こえたーーー。
聖ちゃんが寂しいと思っていることくらい僕だって分かってる。
だけどそれ以上に聖ちゃんは無理するから我慢して欲しくなくて働くことでそれを忘れている自分に少しだけホッとしていた。
*
この日も僕は残業だったーーー。
最近では毎日恒例化してしまった残業になってしまったと言う電話を聖ちゃんにする。
いつものように「分かった、頑張ってね。」とだけ彼女は言った。
でもこの日は続きがあった。
聖
何時頃帰ってくるの?待っていたらダメかな?
昌
日付変わると思うし、先に寝てて。
聖
だったらいつ会えるの?朝少しの時間しか会えなくて、日中から夜中まで仕事。いつ会えていつ話せるの?
珍しく聖ちゃんが感情的になった。
昌
・・・僕に働くなと言ってるんですか?
聖
本当に残業なの・・・?
昌
何それ・・・
聖
ゴメン、何でもない。
そのまま電話は聖ちゃんによって一方的に途切れた。
今までの僕だったら聖ちゃんのことになるといつも焦って仕事も放って家に帰っていたと思う。
だけどこの時の僕はそうはしなかったーーー。
誰のために働いていると思ってるんだよ、という聖ちゃんへ対しての苛立ちの方が強かったからだ。
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