僕が九重からの電話を切ってダイニングに戻ると、
聖ちゃんはちょうどお風呂から出たばかりでテレビを見ながら髪の毛を乾かしていた。
まだ一緒に暮らし始めて数ヶ月、
聖ちゃんもやっとこの生活に慣れ親しんでいるように感じた。
*
聖ちゃんは懐かしむように目を細めた。
聖ちゃんは先生という職業が大好きだった。
僕と出会わなかったらきっと今でも小星平中で先生を続けていたかもしれない。
僕と出会わなかったらーーー、
僕と恋に落ちなかったら彼女が受け持った僕たちをきちんと見送れたのかもしれない。
僕たちの成長を見届けられたのかもしれない。
ーーーそう何度も仮定の想像はするのに、
僕は自分に起きたこと何も後悔はしてないんだ。
人を好きになることも簡単じゃない、
人を諦めることも簡単じゃない。
だからこそお互いに思い合える今のこの関係は奇跡で本当に素敵なことだと思うから、
僕はこの選択が正しかったと思えるんだ。
僕は九重が聖ちゃんに会いたいことは伝えた。
九重は僕と聖ちゃんの関係を” 純愛 ” と呼んだ。
その関係が好きだ、とも。
報われない恋愛だったとしても、
当時の僕は身近な親友が味方でいてくれることに凄く救われていたんだ。
そんな九重に電話越しに言われたーーー。
「ほとんどのやつが黒岩と聖ちゃんに何かあったとは思ってはいるけど・・そろそろ公表しても良いんではないか?白い目で見る奴なんかいないと思うけど?海老原の送別会は形だけ、本当は突然消えた聖ちゃんが元気にしているのかオレたちも気になっていたんだよ。連れて来れるのは黒岩しかいないから、さ。」
いや、俺も連れて行けるものなら連れて行きたい。
でもきっと聖ちゃんは首を縦に振らないだろう。
彼女は少しずつ変わって来てるとはいえ、
やっぱり根はモラルに従ってる人間だからきっと自分の教え子の目が気になると思う。
僕は半強制的に聖ちゃんをも連れて行くことに成功し、
そのことを九重にも連絡を入れた。
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