「ただいまぁ・・・」
母さんに追いやられるように出て、
マンションに戻ったのは23時過ぎ。
部屋も真っ暗だったし、
連絡しても返事が来ていなかったことで聖ちゃんは寝ていると察しがついていたから僕は静かになるべく音を立てないように家に入った。
母さんからもらってきたものを冷蔵庫に入れ、
寝室を覗くと聖ちゃんが気持ち良さそうに寝てる。
スヤスヤ、と音を立てて寝てる。
起こさないように。
起こさないように。
音を立てないようにと気をつけながら僕も部屋着を取ろうと寝室に入ったけどベット脇に置いておいたはずの部屋着が見つからないーーーー。
探すより起こしては困ると思った僕は、
新しい部屋着をクローゼットから出すことにした。
ーーー暗い、見えない。
クローゼット内に小さい照明が必要だな。
「ーーーんっ・・・」
手探りで探していた俺は聖ちゃんの小さな声にヤバイと思い、
自分の身動きを止めた。
そして、起こしてないことを確認するためにそーと聖ちゃんの方を見る。
寝返りをしただけの彼女に安堵を覚えた。
ーーーそして気づいた、
僕の部屋着を彼女が着ていることに。
だから置いておいたはずの場所になかったんだ、と。
そしてそーと彼女に近づく自分ーー、
彼女は気持ち良さそうに微笑みながら寝てる。
ーーーいつも僕が寝る場所に。
ぼくと聖ちゃんは隣り合わせにいつも寝る。
彼女が左で僕が右という暗黙のルールがいつの間にか出来ていて、
それを変えたことはお互いにない。
ーーーでも今、聖ちゃんは僕が寝るはずの右に寝てる。
僕の部屋着を着て、
またハチマキを握りしめてる・・。
意味が分からないーーー。
なんのためにハチマキを握っているんだろう?
なんのために僕の部屋着を着てるんだろう?
疑問ばかりが浮かぶ中、
もう少しだけーーー。
彼女のベッドサイドに近づいた。
普段あまり見れない寝顔をゆっくりと見たくて。
彼女の寝顔は本当に美しい。
30代とは思えないほどの肌の美しさ、
そして良い夢でも見てるのか、微笑んで寝てる姿が愛しい。
ーーーその夢が僕のことであって欲しい。
愛しさがこみ上げるあまり、
僕は彼女の頰に手を添えようとしたーーー。
そして、その時に気づいた。
彼女の頰に涙を流した跡形があったことに。
乾燥してしまって涙はもうないけど、
明らかにそれは涙が枯れた跡だと僕にでも分かった。
ーーー母さんの言う通り、
聖ちゃんはきっと我慢している。
そう確信した瞬間でもあった。
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