「聖ちゃん、待って!」
僕は帰路に向かって小走りで歩く聖ちゃんの腕を掴んだ。
ーーー彼女の目からは涙が溢れていた。
昌
あれは事故で・・・誤解で・・・
必死に弁解しようとしてる自分に笑える。
聖
分かってる!あれは事故だった!ーーー分かってる!でも今は・・・ごめんなさい。
僕の掴む手を反対の手で引き離すと聖ちゃんはまた歩き出したーーー。
僕はあの15の夏、引き離された時のことを思い出した。
僕が迂闊だったーーー。
たとえそれが本当に誤解だったとしても隙を作ってしまったのは僕自身、
自分に以前好意を持ってくれていた岩崎と二人で歩いた自分が悪い。
*
僕が帰宅すると聖ちゃんはちょうど食器洗いをしていた。
昌
ーーーただいま。今、夕飯なの?
都合が良いと思ったけど僕は罪悪感から彼女に話しかけた。
久しぶりに聖ちゃんに話しかけた気がしたーーー。
聖
ちょっと今日は寄り道してしまって遅くなっちゃったから買って来たものだけどね。
普通に返事をしてくれて安堵を覚えるけど、対応だった、笑顔もなにもないただの返事。
それでもさっきより少し落ち着いた様子の聖ちゃん、
僕はなんて言葉をかけたら良いのか分からなかった。
だけど聖ちゃんは何も言わずにお風呂に消えた。
ーーー大切な人に拒絶され、
目の前にいるのに見向きもしてもらえないことがこんなにも辛いだなんて知らなかった。
僕は・・・
僕は・・・
最低なことを聖ちゃんにしてしまった、
その後悔で不覚にも悔し涙が溢れて来た。
「ーーー黒岩君。大事な話があるの」
お風呂上がりの彼女は意を決したように、
未だかつてないくらい真剣な表情で僕に言った。
だからーーー、
僕は自業自得だけど・・・
その表情が怖くて不安で不安で仕方なかった。
*
僕はーーー、
「座って」という聖ちゃんの言葉に従い、
彼女と向かい合わせになるように座った。
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