暑かった夏も過ぎ、
季節は秋を迎えようとしていた9月ーーー。
「ーーーちゃんと結婚の話を前に進めたい」
あの夏のプロポーズを最後になんの進展もないこの関係に痺れを効かせた僕は聖ちゃんに伝えた。
「えっ?」
「もちろん今、仕事始めたばかりで忙しいのも理解してるし自分も今は仕事が忙しくてなかなか大変かもしれないですけど・・」
「急がなくても良いんじゃないかな?結婚って焦ってするものでもないし、私たちは今一緒に住んでるわけだから。ーーーお互いが落ち着いた時に話し合えば・・・」
予想外の聖ちゃんの答えに少しイラッとした。
ーーーいや、かなり。






一生懸命言い訳を探してるような聖ちゃんに苛立った。




あの人とは勝太郎さんのこと、
僕と一緒にいるのにあの人に負けた気がしてーーー。
悔しくて悲しくてイライラして、
僕は部屋を出て行った。
*
焦って結婚って・・
そんな簡単な気持ちで結婚しようと思うわけないのに、
プロポーズだってどんな思いでしたか・・
聖ちゃんは何も分かっていない。
あのプロポーズをするのにどんなに大変だったか、
どれだけの人を巻き込んだか、
それでも聖ちゃんに喜んでもらいたくて。
僕の勝手な願いだったのかもれないけど、
聖ちゃんも同じ気持ちだと思ってた。
*
家を出た僕が帰宅したのは夜中1時過ぎ、
聖ちゃんは夢の中にいた。
ーーー携帯を握りしめて。
その姿を見て申し訳なく思ったけど、
やっぱり聖ちゃんに比べて子供の僕は聖ちゃんを見てイライラしてしまう。
聖ちゃんが仕事を始めてからの朝は早い。
俺が起きる頃にはすでに彼女はいないーーー。
逆に今はそれがありがたいと思った。
「黒岩く・・」
でも僕が帰宅すると聖ちゃんは何かを話しかけて来ようとする。
僕は同じ討論を何度も繰り返したくなくて、
自分も感情的になって聖ちゃんを潰してしまうのが怖くて「疲れてるから」と一方的に遮断した。
ーーーリビングから聞こえる彼女のすすり泣きに耳を塞いで。
*
聖ちゃんとまともに会話しなくなって3日、
オレは久し振りに岩崎と会った。
ーーーもちろん九重や白石も一緒に。
「ーーー黒岩!ちょっと寄り道して行かない?」
9時過ぎに解散して僕は岩崎に呼び止められた。
どこかに入るわけでもなく近くにあった自販で各々が飲み物を買ってベンチに座った。
岩崎は1人でブツブツ話しているけど興味もない。
なんのために呼び止めたのか分からぬまま、
オレはコーヒをすすり飲みした。
「ーーーわたし彼氏のことすごく大切だと思ってるけど黒岩のことはきっと一生ずーと大切なんだと思う!」
「えっ?意味わかんないんだけど。」
「黒岩は私にとって初恋で、初めて付き合った人なんだ!ーーーこの気持ちが、今でも黒岩のことが好きなのか、ただの友情なのか分からない。ーーーだからごめん!」
そう言って岩崎はオレの意思を聞かず、
僕の大切な唇を奪ったーーー。
「離せよ!」
僕は瞬時に岩崎を突き放した。
けどーーー。
「えっ?末永?末永じゃん、ここで何してんの?!」
その岩崎の言葉に背を向けていた方に目を向けると聖ちゃんが立っていたんだ。
「岩崎さんお久しぶりです。ごめんね、お邪魔しちゃったね。ーーー通り道でごめんね」
何も言わず、
僕の顔を見ることもせず、
聖ちゃんは岩崎にだけ会釈してその場を去って行った。
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